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3-4『事件の始まり』

 カルマが魔王領へと行っている頃、王都では一人の兵士が酒飲帰りにフラフラと千鳥足で酒瓶を手にしながら人気のない道をご機嫌で歩いていた。


「うぃっひ……ったくやってられねぇ。この間のダンジョン崩壊後からやけに魔物が多いしよぉ。休みがほしいもんだぜぇ」


 男は兵士、故にこの街を守る使命があるわけなのだが、先日のダンジョン崩壊により、ダンジョンの魔素が多少なりとも外部へ漏れ出し、その近辺で魔物が大量発生するようになってしまった。

 もちろん冒険者たちも対処に駆られてはいるが、如何せんその量が多いため、兵士たちも戦わざるを得ず、兵士たちは最近、禄に休暇も取れていない状態が続いていた。


 その不満は全て酒にぶつけるしか無く、この男も思わず酔いつぶれてしまうほどに酒に浸ってしまったのだ。


「俺たちゃ冒険者じゃねぇんだからよぉ、勘弁してくれや」


 兵士ももちろん戦闘訓練を受けてはいるが、兵士は冒険者とは違って魔物と戦って命を捨てる覚悟を常に持っているわけじゃない。

 これだけの魔物と戦わなければいけないという指令が下り、彼の周りに居た兵士たちも多く辞めてしまった。

 男は戦う勇気がなく、辞めたいにも関わらず辞める勇気すらもなく、日々死に怯えながらも兵士を続けている状況。そろそろメンタルの限界というものだった。


 癒やされたい。

 兵士となってからは時間がなかったため、そういったことは出来ずに居たが、女の子と遊んで癒やされたいという思いが強くなっていた。

 それは多分、酒に酔っているせいというのもあるのだろう。

 酒は時に、人の本性を顕にすることがあるものだ。


「娼館……あっちだったか」


 娼館は基本的に人気のない、目立たない場所にある。

 男が夜中にこんな場所を歩いているというのも、娼館を目当てに歩いていたからに他ならない。


「つか、れた」


 だが、その疲れと酔いによって上手く歩くことが出来ず、なかなか娼館にたどり着けない現状に若干の苛つきを覚えていたその時。

 背後から誰かに肩を叩かれ、男はゆっくり面倒くさそうに振り返った。


「なんだぁ? ガキじゃねぇか」


 男が振り返った先に居たのはお嬢様のようなドレスを着ている儚げなピンク髪の少女だった。

 パット見では十歳前後に見えてしまうほどに幼く、真夜中にこんな場所に居るにはかなり危ないと感じさせるほどだった。

 この先にあるのは大人でも行くことがためらわれるほどの店ばかり、子供がこんな場所を歩いているのはいただけない。


 男は酒に酔っていて理性が消えかけてはいるが、それでも兵士だ。この街の住民を守らなければいけないという考えが彼の身体を、口を動かした。


「おいおい、女の子がこんな遅い時間に出歩いちゃダメだぞ。悪〜い大人もいっぱいいるんだからな。この先は危ないから、早くお帰り。お母さんお父さんも心配してるぞ」


 疲れを見せずに男は優しく微笑んで目線を合わせるようにしゃがんで頭をぽんぽんと優しく撫でる。


「お兄さんはどうしてここに居るの?」


「お、俺か? 俺はなぁ……」


 男は思わず言い淀んでしまった。

 まさかこんなに幼い女の子に娼館へ行こうとしていたとは口が避けても言うわけには行かず、必死に脳を回転させ、良い訳を構築する。

 この質問をされて男の酔いは完全に覚め、さっきまでの自分の行動を鑑みる。


 ストレスが溜まっていたからって、衝動的に酒に溺れ、本能のままに行動していたら住民たちに示しがつかないよなと。

 だから男は答えた。


「パトロールだ。ここらへんは治安が悪いからな。なにか悪いことをしている人が居ないか見回ってたんだよ」


「お酒を持って?」


「うぐっ、ま、まぁ、そういう日もあるさ。ささっ、君はもう帰りなさい。子供はもう寝る時間だ」


「わわっ」


 男は少女を回れ右して、この道から追い出すように背中を押す。

 驚いた声を出した少女だったが、直ぐに振り返って男の目を真っ直ぐ見据える。まるでその目は何でも吸い込んでしまいそうなほどに深く深く、暗い瞳だった。

 その目を見て男は察した。


 彼女にはもう家族なんてものは居ないのではないかと、だからこそ一人でこんな時間にこんな場所を歩いているのではないかと。

 それならば自分は彼女に辛い現実を思い出させようとしているだけなんじゃないかと。

 その可能性を考慮にいれていなかった自分を恥じる。


 なんて声をかけたら良いかわからなくなっていると、少女の方が喋りだした。


「お兄さん、私、知ってるよ。お兄さん、この先にあるえっちなお店に行こうとしていたんでしょ?」


「なっ」


 図星、しかもこんな少女に当てられるとは思っていなかったため、男は驚きのあまり後ずさってしまった。

 だが、そんな彼を逃がすまいとして男が下がった分、少女も一歩前へ出る。


「この道を通る男の人って大体それ目当てだからさ……そんなに溜まってるなら……」


 そして少女はつま先立ちをして男の耳元に口を近づけると――


「私が……してあげようか? 私、お兄さんのような男の人『だいすき』なんだ」


 その囁きと共に唖然としている男の唇に自信の唇を軽く当てると、数歩離れてイタズラが成功した子供のように微笑んだ。

 その怪しげな笑みからはさっきまでのような子供っぽさは全く無く、男の目には自分の欲情を煽る淫魔のようにすら見えていた。


「興味があるならいつでも声をかけてね、お兄さん」


 その言葉を最後に少女はこの場を去っていってしまった。

 少女が去り際に発した「ま、生きていたらね」と言う言葉は男の耳に入ることはなく、そのままその場で立ち尽くし、石のように固まってしまう。


 男はその後も暫く動くことは出来なかった。


 ――翌朝、男は心臓が捻り潰されている変死体として発見されたという。

現在、第三章に入ってるこの作品なわけですが、実は公募用に書いていた作品でして、二章までの話を一つの話として書いてたわけです。


まぁ、二章のラストを読んだらこの先を全く考えずにそこまでの話で書いていたって言うのがわかると思います。


で、投稿するにあたって構想していた三章以降を書いている訳ですが、二章までは公募用で書いていたので溜め書きがありますが、三章以降にはそんなものはありません!


一応、書ける時に纏めて書いてストックを作って予約投稿していますが、限界がある時もあるかもなので、一応不定期投稿と考えておいてください。


ストックがある内は毎日投稿しますが、なくなったら隔日になるかもということです。

あ、反応をいただければもしかしたらやる気が上がって執筆ペースが上がるかもなので、もしよろしければ感想評価などをよろしくお願いします。


あと、ハーメルンで二次創作書いてるので、そちらもよろしければお願いします。

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