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賢者のカルマ〜百合好き元賢者の究極百合理論〜  作者: ミズヤ
第一章『刺激を求める旅人』
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1-3『美しい世界』

 次の目的地は本屋だ。


 昔から俺は本を読むのは好きで、魔法が色々と掲載されている魔導書や、小説や漫画などが描いてある娯楽本なども好きだ。

 昔は退屈すぎてよく空いた時間に本を読んでいた。あの頃は魔法に興味がありすぎて魔導書を読み漁っていたものだ。


 今日は普段読んでいる本が読み終わったため、新しい暇つぶしを探して適当に本を買いに来たのだ。

 俺の普段の旅スタイルは新天地に行くたびに暫く滞在し、満足したらまた次の場所へ移動するという生活を送っている。今回の『死の森』での滞在は結構長かった方だが、基本的には一か月~二か月ほどで次の場所へ移動することにしている。

 その間、どうしても暇な時があったりするので、その時は本を読んでいたりするのだ。


 最近読んでいたシリーズ物を全部読み終わったので、新しい話に手を出してみたいと考えているが、色々種類があるから迷ってしまう。

 とりあえず適当に手に取って試し読みをしてみることにした。

 一応、本屋で立ち読みはできるが、十ページほど読むと、その先のページは購入しないと捲れないようにする魔法が付与されている。


 付与魔法については本当に特殊な魔法で無数にあるため、俺もまだ把握しきれていない魔法とかがあるから、これがどんな仕組みになっていて、どうやって捲れないようにしているかというのが分からない。すっごく興味はあるけども、解読をしたら犯罪のため、自粛しておくことにする。

 今回俺が手に取ったのは恋愛バトル物の小説だ。恋愛物は普段あまり読まないから今回手を出してみようと考えてパラパラと軽く流し読みをしていく。


 どうやら俺が手に取ったこの小説は普通の男女の恋愛物って言う訳じゃなく、女の子同士の恋愛を描いたものだった。

 主人公の女の子『リア』ともう一人の女の子『カナ』が魔法学園で知り合い、一緒に戦う仲になってどんどんと距離が縮まっていく。

 その中で段々と二人ともお互いに仲間としての感情だけではなく恋愛感情を抱き、その自分の感情に困惑し、葛藤しながら戦っていくというストーリー。


 正直、俺は今まで恋をしたことが無かったため、恋愛物が俺に合うのかはちょっと分からなかったため、最初の数ページを軽く読んで見たのだが、いつの間にか俺はこの小説を購入し、路地裏の階段に腰をかけて小説を読みふけっていた。


 正直に言おう、最高だった。


 多分男女の恋愛だったら俺にそこまで刺さらなかっただろう。だが、女の子同士の恋愛だからこそ俺は今、夢中になっていたのだ。

 まず、リアは魔法使いを志して学園に入学した正義感の強い子で、カナは凄く暗い過去を持っているんだ。

 家柄的に将来を決められているが、夢を諦めきれなくて家を飛び出して魔法学園に来たはいいものの、家族が連れ戻しに来た。


 そこでリアが「親なら子供のやりたいことを応援してあげなよ」と言ってカナを庇うのだ。

 すると、父親が「俺に勝てるのなら認めてやる」と条件を出してきた。

 カナには魔法の才能はあんまり無く、父親に勝てるとは思えなかったけど、リアとの特訓を経てカナは父親に勝利する。

 この特訓の過程でどんどん二人が仲良くなって距離感がかなりバグり始めたところでニヤニヤが止まらなかった。


 これを世間一般では百合と言うのだろう。

 百合とはここまで素晴らしいものだったのか。

 満足して恍惚としながら本をパタンと閉じると周囲を見回して俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。


「小説に集中していて気づかなかったけど、凄い状況だな」


 こんな路地裏で本を読みふけっているDランク冒険者なんて本来鴨が葱を背負って来ているようなものだから、襲われても仕方がない。

 実際読んでいる間に何度も襲われたしな。

 でも、集中していたせいでこんな事になっているとは思わなかった。


「よし、多分死んでない!」


 足元には大量に気絶した荒くれ者たちが転がっていた。襲撃を撃退しながら読んでいたからここまでの惨状になっているとは思ってなかったな。

 とりあえずこんな場所に居たら面倒なことになりそうだし、直ぐにどっかに行った方が良いだろうと考え、路地裏を後にした。


 ☆☆☆☆☆


 路地裏から出たあとも俺の頭の中は百合のことでいっぱいだった。

 こんなになにかに夢中になったのはこれが初めてだ。今まで趣味という趣味がなく、強いていえば旅と戦い。


 かなり質素なもので、この旅も刺激探し、趣味探しの旅だったけど、猛烈に感動できるものをようやく見つけた。

 まさかこんな近くにこんなに素晴らしいものがあったとは……。

 まるで自分が新しく生まれ変わった。そのくらいに清々しくいい気分で、ここが大通りで人目が多いということがなければスキップしていたくらいに上機嫌。


 ただ、これはあくまでお話の中だけの美しさだ。魔法学園と言うのは実際にあるが、そこに行ったところで百合の花が咲いている訳では無い。それだけがかなり寂しかった。

 もうちょっとこの二人のことを見ていたいと思っても、その術はないのだ。物語の中に入れる魔法でも作ってやろうかとも考えてしまうほどだがやめておくとする。前に作ろうとして転移先の世界が見つからないと言うことで次元の狭間に挟まりそうになったことがある。


 あれはさすがに焦った。

 多分あれが俺の人生で一番焦ったポイントだろう。そこでわかったのは物語の中に入る魔法を作るのは不可能という一つの結論だった。悲しい……。

 もう少し百合を堪能したい。そんなことを考え、上機嫌になったり悲しんだりと情緒不安定になりつつトボトボと歩いていると、俺の視界の端にあるものが映り、驚愕のあまり全力の速度で物陰に隠れてしまった。


「あ、あ、あ〜」


 声が上手く出てこない。

 今の俺の心拍数は生まれてきて一番高くなっている。そして生まれてから一番興奮していると言ってもいいだろう。


 別に見つかったらまずい訳では無いのだが、何となくで隠れてしまった。

 自分という存在をその場に置いておきたくなかったのかもしれない。

 今、俺の目に映っているのは二人の女の子が互いに手に持った食べ物を食べさせ合いしている光景だった。


「はい、あーん」


「あ〜ん、ん〜おいしい!」


「ぐああああああああああああああ」


 ドガーン!!


 女の子がもう一人の女の子にあーんで食べさせた瞬間、俺の脳は無数の情報に埋め尽くされて思考が停止、気がついた時には背後にあった壁にまで吹っ飛ばされて壁が抉れるほどの威力で激突していた。

 今のはやばかった。とにかくやばかった。心臓が止まるかと思った。


 賢者カルマともあろう者がこんな所で人生を終えてしまうところだったぜ。

 通行人のお婆さんが俺の事を怪訝な目で見てきたが、今の俺にとってはそんなことはどうでもいいことだ。

 今の今まで気にしたことがなかったが、女の子同士ってこんなに距離感近かったのか? それともこの女の子達が特別なだけなのか?


 分からない。何もかもが分からなさすぎる。もしかしたらマナが昨日死の森で虐められたことを根に持ち、俺に対して精神攻撃を仕掛けてきているのかもしれない。

 マナ、その攻撃は俺に対して効果抜群だ。なかなかやるじゃねぇか。


「え、なになに!?」


「何今の音!」


 どうやら俺は女の子達(百合の花)を驚かせてしまったらしい。キョロキョロと見回すと壁が抉れている中央でぐったりと座り込んでいる俺の姿を見つけてしまったらしい。


「だ、大丈夫ですか!?」


「お、お怪我は――あれ?」


 女の子達が近づいてきているのに気がついた俺は全力ダッシュを決め、その場から離脱した。

 馬鹿野郎。俺みたいな下賎な野郎が百合の間に挟まって良い訳がなかろう。俺は百合を見守りたい。ただ、それだけなんだ。


 断じて俺がそこの登場人物になりたいとかそういう訳では無い。

 それにしても、現実世界にもあんなに素晴らしい百合の花が咲いていたとは……今まで俺はこの世界をよく見ていなかったということなのかもしれない。

 一回、女の子同士で仲良くしているのを見てしまうと、どうしても女の子同士で仲良くしている姿を探してしまう。


 例えばあそこでは女の子同士で手を繋いでいる。

 今までの俺だったらああいう光景も全て背景として考えてしまって、目にとめることすらなかったことだろう。

 これも俺が生まれ変わったことで見えるようになった光景だ。素晴らしい。

 そんな風に街中を歩いていると道の真ん中で新聞を配っている人が見えた。


「号外! 号外だよ!」


 もうしばらく女の子達を観察しているのもそれはそれで楽しそうではあるのだが、旅をしたい欲はあるから、これから先は旅先で眺めればいい。

 ただ、死の森を出てきたのはいいけど、次にどこへ向かうのかということはまだ決めていなかったため、新聞を読んで何か参考になればいいと思い、一部貰って読んでみることにした。

 思いつかない時はこうして新聞で何か面白そうなイベントが無いか見てみるのも一つの手だ。俺の走る速度なら遠くの場所にでもイベントに間に合うことが多いからな。


「えっと、近頃魔物の動きが活性化しているため、国王は前々から準備していた勇者計画を実施、一人の少女が勇者に任命された。現在、魔王を打ち倒すため、共に戦ってくれる仲間を募集中、定員二名……そう言えば勇者を選別しているって言っていたっけか」


 正直、魔王は賢者が戦えば倒すことはできるのだが魂を殺すことが出来ないため、復活してしまうらしい。

 それでも魔王を倒した者は等しく賞金を受け取れることになるが、根本的な解決にはならない。

 そこで、王家に代々伝わる神剣『リリウム』を使うことで魂を斬ることが出来るのだとか。


 ただ、この神剣は選ばれた人――勇者以外はまともに使うことが出来ないため、今の今まで魔王の対処に困っていたのだが、この記事の内容ならようやくこの神剣を使える人を見つけたのだろう。

 ちなみに俺たち賢者も一度神剣を使わされたことがあるんだが、あれはまともに使える気がしなかったな。

 適性が無い人が使うと、どんどんと魔力を神剣に喰われるのだ。そして、まともに動けなくなる。俺は何とか振るうことはできたが、実戦でまともに使える気はしないものではあった。でも、ハンデ戦を行うときに便利かもしれないと思って進言したが、一瞬で却下されてしまった。


「そうか、ついに魔王討伐が本格的に始まるのか。マナのやつ、踏んだり蹴ったりだな」


 トラウマを植え付けられたり、天敵が登場したり……いや、トラウマを植え付けたのは俺だが。

 しかし、少女か。大変な運命を背負わされたものだなと少し同情してしまう。

 刺激を求めて旅を続ける俺ですら人類の存亡をかけて戦うというのは少し……いや、かなり嫌だな。そんな重たいものを背負うことはしたくない。

 賢者になって一番嫌だったポイントはそこだったかもしれない。だって、万が一の時に最終兵器として街を守り抜かなければいけないというのだ。


 他人の命を背負ってまで戦うほど俺はお人好しじゃない。

 まぁ、戦うことは好きだからどちらにせよ俺は戦いに行くことを選択するだろうけど、他人に街を守るために戦っていると認識されるのがすごく嫌だった。

 しかも、街の人々の目から見たら、それ以外の時はサボっているように映ってしまうというのもすごく嫌だった。

 まぁ、俺達がパトロールしたり書類仕事をしている姿は街の人々の目には映らないからな。


「さて、そんな数奇な運命を辿ることになってしまった少女の顔でも見ておくか――なっ」


 新聞に載っている絵へと目を移して俺は絶句し、新聞紙を地面に落としてしまった。

 これは確かに絵なのだが、魔法の中には見た光景をそのまま絵に起こすことが出来る転写の魔法というものが存在する。この絵はそれによって描かれた絵なので、姿に関してはそのまま写し取られていると言ってもいいだろう。

 白黒なので色は分からないけど、つやつやとした髪に優しそうな瞳。その表情からは正義感が強いというのが伝わってくる。


 年齢は俺の一個下の十五歳、冒険者学園を卒業してすぐに勇者に任命された新米冒険者ユイ・フィートベルだ。

 だが、ここまで紡いできた情報はただの前座だ。俺が一番驚いたことは、この女の子がさっきまで読んでいた小説の主人公の女の子にそっくりだったことだ。

 本当にあの本からそのまま出てきたんじゃないかと思ってしまうほどに瓜二つで絶句してしまった。

 さすがにここまで来ると本当にマナの精神攻撃なのではと疑ってしまう。正直、魔族にはまだ人族に解明されていない魔法も沢山あるって言う噂だしな。


 とりあえず一旦冷静になろう。一旦冷静になって勇者パーティーに応募しようそうしよう。思い立ったら即行動、それが俺のもっとうだ。悩んでいる時間がもったいない。

 この目でちゃんと見てみたい。それと、勇者に選ばれたというユイという少女がどんな少女なのかというのも気になる。多分普段だったら『ふーん』で済ませていたことだろうけど、今回ばかりは聖典(バイブル)の主人公と似ている姿のため、どうしても見てみたくなったのだ。


 勇者パーティーの応募方法はこの新聞に載っている。どうやら王都の冒険者ギルドで募っているらしい。

 まぁ、パーティーを集めるとしたらあそこが一番手っ取り早いからな。


 俺は一度もパーティーというものを組んだことが無いからどういうシステムになっているのかは分からない。冒険者学園でチラッと話を聞いただけだからすっかり頭から抜け落ちている。テストでもそんな話は出てこなかったし、特に覚えようともしていなかった。

 どうせパーティーを募集したりすることもないし、冒険者ギルドなんて冒険者登録をしたり、依頼を受ける場所ということを覚えていればそれでいいんだと思っていた。


 とりあえず行ってみればわかるか。

 そう考えて俺はこの街を後にし、王都の冒険者ギルドを目指すことにした。

 出遅れてはいけない。俺がちんたら歩いている間に定員が埋まってしまったらどうする? そんなことがあっては賢者カルマとして一生の恥だ。


 門へと向かっている間にも馬車を見かけたが、馬車でゆっくりと向かっていたら間に合うものも間に合わない。

 さすがにこの場所でいつもの速さで走ってしまったらあらゆるものを破壊したり、通行人を跳ね飛ばしてしまう可能性があるため、街の外へ出てから身体強化を自身に施す。

 ここから王都までは馬車でも五日程度。死の森からここまで来たくらいの速度だったら二日から三日位かかってしまう。


 うん、一日切りを目指して頑張ろう。

 門番に睨みつけられながら街の外へ出ると、靴の紐を締め直して自身に身体強化を施し、足に全身の力を全て込め、心の中で謝罪する。


 ――ここら辺に住んでいる人ごめん。俺が通った場所は多分抉れるけど、許してくれ。


 直後、俺は地面を力いっぱい蹴って走り出した。

あまりにも速度を出しすぎて地面が抉れ、衝撃波が出てしまったことは大変申し訳ないと思っています。

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