2-23『二千年の時を超えて』
ここは魔王城、魔王の執務室。
「魔王様失礼いたします。お手紙が届きました」
あの戦いから約一ヶ月、この部屋に毎日やってくるヴァルモダが今日もやってきた。
そしてその要件はいつも同じく手紙が届いたという報告。
「はぁ……『また』なのね」
「はい、『また』でございます。燃やしておきましょうか?」
ヴァルモダの言葉に私は首を振る。なにも、そこまでする必要は無い。
「いや、受け取っておくわ」
「はい、かしこまりました」
そして取り出される一通の手紙。
白い封筒にピンク色で可愛らしいハートのシールが貼られて封をしてある。
見る人が見たら人間の間で流行っている『らぶれたー』と言うやつに見えそうな見栄えをしている。
だが、別に私にモテ期が到来したとか、そういう訳では無い。
なにせ、この手紙は女の子からの手紙なのだから。
早速受け取って中身を読んでみる。とは言っても、中身を見てもそこまで変わったこと事が書いてあるわけではない。
差出人は勇者だ。
内容はほぼ日記のようなもの。私の安否を聞くことから初めて今日はどう言ったことをしたのかという内容。
正直、勇者が自分の動向を魔王に晒すのは如何なものなのだろうかと思わない訳では無いけど、そこら辺はしっかりとぼかしてあるからどこで何をしているのかまでは分からない。
多分あの青髪の魔法使いが添削でもしたんだろう。あの勇者にぼかすなんて考えがあるようには思えない。
読み終えて天を仰ぎ見た。そして次に自身の床に広がる光景へ目を向ける。
「魔王様、またこんなに紙をバラまいたのですか……?」
「さ、触るなヴァルモダ!」
「はい!」
床に広がる紙の残骸を片付けてくれようとしたヴァルモダを思わず叱りつけてしまった。これは反省だ。
ヴァルモダは何も悪くない。私の方に問題がある。
まさか、このマナ・デストラーラがこれしきのことに頭を悩ませることになろうとは思ってもいなかった。
数千年生きてきたけど、こんなことは今回が初めてだ。
返事は書こうとした。でも、書けなかった。
あれは手紙の書き損じ。ヴァルモダに見られたら速攻で命を絶たなければいけない、私の負の遺産だ。
どんなことを書けばいいのか、そんなことばかり考えているといつの間にか時は一ヶ月も過ぎてしまっていた。
今更返せないと言う気持ちと返したい気持ちがぐちゃぐちゃドロドロに絡み合って私の頭を支配する。
「はっ!? まさかこれは勇者の罠!?」
「違うと思いますよ」
「そっかぁ〜」
珍しくヴァルモダに否定されてまた天を仰ぎ見てしまった。
だよね、あんな純粋な子がこんな陰湿な攻撃を仕掛けてきたりなんてしないよね。
というか、よくもまぁ返事もないのに毎日飽きず懲りずに手紙を書けるものだ。
本当に優しい人間なんだろう。だからこそ私はあの子に先代勇者の夢を見てしまう。
そして再び手元の手紙に視線を落とす。
――マナちゃんがどう思っているかは分かりませんが、私は友達だと思っていますので、またお話がしたいです。
「ふふっ」
手紙の中の一文に思わず笑みがこぼれてしまった。
うん、決めた。今日こそは手紙を返そう。手紙なんて出すのはすごく久々で緊張するけど、これ以上あの子を待たせたくは無い。
今、この瞬間は何千年と生きてきた中で一番気分がいい。
「魔王様、最近ご機嫌ですね。何か良い事でもございました?」
不思議そうに聞いてくるヴァルモダ。
いつもなら『なんでもない』と返すところなのだが、今の私は気分がいい。
だから私は笑ってこう言うのだ。
「そうだね。うん、友達が出来たよ」
――勇者と魔王、そんな関係じゃなければ私は、君と友達になりたかった。
勇者、私とあなたも少し違ったら勇者と魔王でも友達になれたのかもしれないね。
私の本心、あなたへの信頼を素直に口に出せなかった、その事が何よりも口惜しいよ。
私はもう二千年も前の後悔に思いを馳せるのだった。
カルマ「ぐああああああああああ」
ルリハ「何よ突然」
カルマ「濃厚な百合の波動をどこからか感じた」




