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2-20『破壊の一撃』

 ユイだ。


 ガルガの前に立ち塞がるようにして、俺を守るようにして剣を構えてたっている。しかも足がガクガクと震えていることからすごく怖いのを奮い立たせてここに来たんだろう。

 ――情けないな。まさかBランクで自分よりも年下の少女に守られることになるなんてな。元賢者の名が無く。


「ユイだけ突っ走って、あなた一人でどうにかできるの?」


「それよりも賢者さんがここまでやられるって私たち全員が力を合わせてもどうにもならないんじゃ」


「うぐっ、でもでも、助けたいって思っちゃったから!」


 仲間二人にツッコまれて頬を膨らませながら反応するユイ。

 それだけで命捨てられるのはほんとすげぇよ。

 ユイと関わってきてずっと疑問に思っていた。こいつが勇者で大丈夫なのかって。


 でも、ユイのこの性格だからこそ勇者が務まっているのかもしれない。ユイの困っている人が居るならば相手がどんな状況であっても助けに行ってしまう、助ける為ならば自分の命さえも投げ捨ててしまう。、それがユイが勇者に選ばれた所以なのかもしれない。


「格上がやられているのに助けに入るのは自殺行為と言えるけども、それが勇者って言うやつなのかしらね」


「っ! 魔王」


 いつの間にか目を覚ましたのだろう、そこにマナもやってきた。勿論ヴァルモダもその後ろにいる。

 よく見てみるとマナもガクガクと膝を震わせている。

 マナもあの魔人に恐怖しているのか?


 いや、時折チラチラとこっちを見てきているな。目が合うと顔を青ざめさせている事から、きっとマナが怯えているのは俺の方だな。


「勇者、あなたの名前は?」


「え? えっと……ユイ・フィートベルですが」


「私の事は知っているだろうけど、マナ・デストラーラよ。ユイ、力を貸してくれるかしら」


「わ、分かりましたっ! えっと、マナちゃん」


 ユイがマナの名前を呼んだ瞬間、周囲が静まり返った。

 一瞬の静寂の後、ヴァルモダは顔を真っ赤にしてユイに詰め寄る。


「貴様! 魔王様に対してなんと言う口の利き方を!」


「ヴァルモダ、いいのよ別に。ふふっ、じゃあユイちゃん(・・・・・)かしらね」


「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ズダァァァァンっ!


 とんでもない不意打ちを食らった。

 ユイのマナちゃん呼びはほとんどの女の子をちゃん呼びするユイだからスルーできた。正直、あの時点で鼻血が出そうではあったが、何とか耐えきった。


 だが、マナからのユイちゃん呼びは破壊力がやばすぎた。

 そんな尊い姿を見せられたらぶっ飛ばされて壁に激突し、壁際で燃え尽きるのも仕方が無いというもの。


 俺が見たかった光景が今、目の前に広がっている。あぁ、今ここで終わってもいい。


「か、カルマ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 俺が急にぶっ飛んだことで呆気にとられていたであろう他のメンバーとは違い、ファンであるルリハはいち早く状況に気がついて泣きながら駆け寄ってきた。


「カルマ様大丈夫ですか!? 死なないで、お願い!」


 俺もついに死んだら泣かれる立場になったかと感慨深くなるが、ただその原因が俺の奇行が原因だと考えると大変申し訳なくなってくる。

 さて、こうしている間にもガルガは攻撃を仕掛けてくる。さっきは空気を読んでくれたガルガだが、今は自我が無いからそんなこと期待するだけ無駄だろう。


 ガルガがユイたちを無視して横を通り抜けてこっちへと走ってくる。


「待って!」


「待ちなさい、『黒天怪壊(こくてんかいかい)』」


 ガルガの背後から放たれる上級の闇魔法。

 それはマナの手のひらから真っ黒なレーザー砲が放たれ、背を焼いているようには見えるが、ガルガの足を止めるには至らない。


 真っ直ぐ俺へと向かってきている。

 自我を失ってもなお俺を狙い続けているってどんだけ執念深いんだよ。男に狙われたって何も嬉しくねぇんだよ。

 しかし、あれで止まらないとなるとルリハが俺の近くにいるのは危ないな。


 と、早速か。


「ちょっとごめんな」


「へ?」


 俺はルリハを持ち上げ、横抱きにして横へジャンプして飛び退くと、俺たちが元居た場所がガルガの拳の衝撃波によって粉々に粉砕されていた。


「うっひょー、おっかねぇ~」


 ガルガはもともと魔法使いタイプの戦闘を得意としていて筋力に関してはまずまずと言ったところだったはずなんだが、狂化することであれほどの筋力を得ることが出来るのか。

 狂化をしたのがこいつでつくづくよかったと思うよ。本当に強い魔人ってこんな風に観察している余裕すら与えてくれないんだから。


「うひゃああああ!! 今私、カルマ様にお姫様抱っこされてる!」


「浮かれてんなぁ~」


 目をキラッキラと輝かせてキャッキャと騒いでいるルリハを抱えながら次々に飛んでくる衝撃波を回避する。


 すると今度は直接殴りかかってきたため、ルリハを後ろに下ろしてその拳を受け止めた。

 まぁ、ダンジョンの壁や床を一撃で粉々に粉砕するほどだからすごく重いね。うん、受け止めたこの腕がジンジンする。


 マジで隕石が衝突したのかと思うくらいの威力だ。

 自我が無いから魔法も使えない。身体強化も無しでこの威力、とんでもないな。


「轟け、『輝遊雷鳴(きゆうらいめい)』」


「っ! 『守護(プロテクション)』」


 突如頭上に雷雲が姿を現した。

 ここ、屋内だぞ? そんな呑気なツッコミを頭の中でしていたコンマ何秒かの後に、その雷雲からでかい雷が俺らの元へ落ちてきた。


 もう一度言おう、俺らの元に(・・・・・)落雷した。


 ほぼ間違いなくヴァルモダの魔法なんだが、あいつあわよくば俺とルリハのこともまとめて始末しようとしていたよな。

 だが、直撃する前にルリハが防御壁を展開したことで俺とルリハに直撃せずに済んだ。


 トップ二人が手を組んでダンジョン攻略しようって時にあいつは何してんだよ。


「ヴァルモダ、何してるの!?」


「で、ですが、彼らはいずれ私たちに牙を剥く存在な訳で」


「今は協力関係でしょう!? ヴァルモダ、ステイ!」


「はい……」


 あ、マナに説教を受けてる。いい気味だ。

 まるで捨てられた子犬のようにシュンと落ち込んだ表情をしているが、可愛くは無いからな。

 でも、今のでヴァルモダには直撃し、ダメージは無いとはいえ電撃によって肉体を硬直させることが出来た。


 この隙に反撃しようと考えたものの、視界の端から緑色が木の棒のようなものを手に持って走ってきているのが見えた。


「『付与(エンチャント)』とりゃあああああああああ」


 何かの魔法を棒に付与した緑色はガルがへと思い切り棒を振り下ろした。


 ――とても軽い音がした。


 まるで力が籠っていない、本気で殴る気あるのかと一回問いつめたくなるような一撃だったんだが、直後にはそんな俺の考えは文字通り吹き飛んだ。

 一つ言うとしたら、この緑色は俺が思っていた以上に妖怪クレイジー女だったということだ。


 ドガァァァァァン。

 棒が大爆発した。


「うひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


「馬鹿じゃねぇのお前!?」


 今棒に付与した魔法はエクスプロージョンだな。

 もう一度言う、馬鹿じゃねぇのお前。

 お陰でガルガがよろめく程のダメージを受けたようだが、緑色自身も爆発に巻き込まれてぶっ飛ばされて行った。


 つまり自爆特攻である。彼女のクレイジー加減を俺はナメていたらしい。


「ま、ナイスファイトとだけ言っておく」


「ぐぬぬぬ」


 後ろから嫉妬と思われる声が聞こえてくる。

 緑色を褒めたのが羨ましいのか? 仕方が無い、このままだとカルマ・エルドライトに激重ストーカーが爆誕してしまいそうだから少しルリハにも協力してもらうことにするか。


「ちょっと失礼」


 断りを入れ、再びルリハを抱えると身体強化を使用して壁を駆け上がり始めた。


「うひゃっ!? きゅ、急にどうしたんですか!? 嬉しいですけど、ドキドキしてしまいます」


「ちょっと協力してもらいたいと思ってな! だからあんまり興奮しすぎてぶっ倒れるなよ!」


 一番上まで駆け上がってくると壁を蹴って跳び、ガルガの真上から落下していく。

 ここから俺の反撃の一撃をぶちかまそうと思ったんだがな、仮にもあいつは魔人な訳で、万全を期して落下の勢いを利用させてもらう事にした。


 まぁ、ここまででガルガの奴も体勢を立て直してしまったんだが、さっきまでの攻防だったら壁を自由に駆け上がらせては貰えなかっただろうから無駄にはなっていない。


「うがあああああああああっ!」


「さて、お前の出番だぞ、ルリハ」


「はい。私、ルリハ・ベータテッドは全てをかけてカルマ様のお役に立ってみせます」


「重すぎるから軽くな、かるーく。命まではかけるなよ」


 ガルガが拳を振った瞬間、今までの攻防で一番の衝撃波が飛んできた。

 それをルリハが迎え撃つ。


「カルマ様、見ていてください」


「あぁ、見ている。だから、やっちまえ」


「行きます! 『紅蓮廻炎』」


 いつの間にかその手に握られていた弓から炎の矢が解き放たれる。

 その矢は衝撃波と激突し、そして――消滅してしまった。ルリハの矢は衝撃波を打ち消すには足りない威力だったのだ。

 だが、そんな事は最初から分かっている。ルリハの攻撃じゃあれを消し飛ばせないことくらい分かりきっていた。


「ナイスだルリハ!」


 でも、問題ない。消し飛ばせなくても、今の一撃で衝撃波のその中心に人が通れるだけの穴が出来た。

 それも一瞬で閉じてしまうはず。だから、その一瞬を逃さずに俺はルリハを背の方に回すと、勢いのままに衝撃波の中へと飛び込んだ。


「しっかりと捕まってろよ。振り落とされないようにな!」


 さて、普通は俺の攻撃であいつの攻撃を相殺したら行けるんじゃないかと考えるところだが、今ここまで攻撃することを渋っていた理由がある。

 俺の切り札(カード)の効果は主に二つ。

 一つは相手を弱体化させるという能力。そしてもぅ一つ、それは受けた(ダメージ)を1.5倍にして次の攻撃に上乗せすることが出来る。


 ただし、攻撃したら効果がなくなってまた一から受け直さないといけなくなる。あんまりしたくないね、そりゃ。

 だから次の一撃であいつを倒す。


「本当に哀れなやつだよな。嫉妬に狂った男、その末路がこれとは……。でも、恨まないでくれよ、これが俺の仕事なんだからな『破壊の一撃(デストロイヤー)』」


 全力の拳を振り下ろす。瞬間――


 大気が割れた。

 光が割れた。

 世界が割れた。


 そんな錯覚を覚えるほどの衝撃と共に、俺の全てを込めた一撃がガルガの顔面へと叩き込まれた。

 俺の一撃の前にガルガの体はいとも容易く殴り倒され、地面にその体を叩きつけることとなった。

カルマの切り札はカウンター系です。

素の身体能力が高いので、切り札を使わずとも魔人を倒せるカルマですが、さすがにガルガにダメージを与えるのは骨が折れるので最高打点である破壊の一撃にカウンターを載せました。

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