2-18『業』
「カルマ、今度こそお前をぶっ飛ばしてやる」
ガルガがそう言った次の瞬間、俺の視界は岩壁の拳に覆われた。
さっき殴ってきたものよりも断然大きな拳、でも問題ない。
だって、これって破壊可能な材質だろ? なら――
「破壊しちゃえばいい! 『豪拳』」
力加減はできない。でも、今回は力加減をする必要なんてどこにもないんだ。
全力で拳を殴り壊すと、その向こう側に居たガルガにまで衝撃波が届いてぶっ飛ばしたものの、すぐにダンジョンの壁が変形し、クッションとなってガルガを受け止めたため、あれはダメージとなっていないだろう。
「凄まじいパワーだな。だが、しかしこの量はどうだ?」
ラッシュとばかりに次々と俺に襲い掛かってくる拳たち。それを見て面倒だなと思いながらも身体強化を体に施した。
うーん、これはちょっと期待外れ。
視界が埋め尽くされることになったが、俺は気にせずにガルガの方へと飛び出した。
もちろん道中で拳に襲われるものの、それら全てを軽いパンチで破壊。見ているからどの程度の力なら破壊できるのかわかっているため、最低限の力のみで次々と破壊しながらガルガへと接近する。
「っ、この量だぞ! なぜそんなスピードで突っ込んで来れる!」
「あ? お前の作ったダンジョンが脆いのが悪いんだろ」
「くそ、こいつ! これならどうだ。『魔壊』」
ついに拳のラッシュを抜けた俺の視界に入り込んだのは両手を上に上げ、超巨大で真っ黒な魔弾を頭上に作り出しているガルガの姿だった。
あれは壊雷と同じく超級魔法と定められている技。
闇属性の魔法の中でも最上位の強さを誇る分、消費魔力がえげつないはずなのだが、魔人となると魔力が無尽蔵だと言われるくらいになるそうだからな。
あれが魔人チートの一つというわけだ。
だから魔人は強いと、Sランクを超えていると言われている所以だ。実質ガス欠というものが存在しない奴らだからな。
大変面倒な技を使って来るな。あれを食らったら広範囲にダメージが及ぶため、俺は耐えることが出来たとしてもユイたちが漏れなくやられてしまう。
「はぁ……きっつ」
ほかの人を庇いながら戦わなければいけないという状況に思わずそんな言葉をこぼしてしまった。
「はっはっは、後悔してももう遅いぞ! 己の実力を過信し、俺に挑んだことを後悔しながら死にやがれ!」
ガルガがついに手を振り下ろして俺に向かって超巨大魔弾を放ってくる。
あれを止めることが出来なければ俺が絶えることが出来たとしても実質俺の敗北といってもいいだろう。
なら、あれを止めてしまえばいいだけの事。
「己の力を過信? 違うな。これは自信だよ。俺はお前に勝つ。言葉を返すようだが、お前こそ己の実力を過信して俺に挑んだことを後悔するんだな。お前は所詮、その魔人の力に頼りきって努力を忘れた凡人に過ぎないんだよ! 『暴風蹴り』」
風魔法を足に付与し、更に身体強化を掛けてタイミングを見計らい、巨大魔弾に全力で足を叩きつける。
さすがは超級魔法、めちゃくちゃ重いし、身体強化がなかったら潰されていたことだろう。
でも、今は身体強化の他に風魔法の力も載っている。
俺が足を振った瞬間に風が巻き起こり、それは暴風となって魔弾を押し返す力となる。
それを利用し、俺は魔弾を蹴り返して見せた。
「えぇぇぇぇっ!?」
「そんなのあり?」
「うえええええ!?」
「マジか」
ユイ、ルリハ、緑色、ヴァルモダが驚きの声をあげた。
「嘘だろ!?」
全く蹴り返されるとは思っていなかったのかガルガも驚きの声を上げ、慌てながら魔法を唱えた。
「『吸収盾』」
ガルガが手のひらをかざすと真っ黒で円形状の盾が出現。
それで魔壊を受け止めた瞬間、魔壊はどんどんと盾の中にエネルギーが吸収され、やがて完全に盾の中にエネルギーが飲み込まれて魔壊は消滅してしまった。
「ちぇ〜っ」
正直、こうなるんじゃないかと思っていたが、カウンターが決まらないと大変面白くないものである。
あの盾はほとんどの攻撃を吸収する闇属性最強の盾魔法。
吸収すればするほど魔力を使用し、魔力が続く限りは吸収し続けることが出来る。逆に言うと魔力が切れたらそこで終わりなんだが、魔人であるあいつには魔力切れなんて関係ないな。
まぁ、落ち込んでいる時間もない。即座に次の行動に出る。
再びガルガへ向かって走ると、さっきまでの威勢はどこへやら、明らかに一瞬怯えた表情をした。
言っておくが、これは俺が特殊なわけじゃない。賢者なんてこんなやつばっかりだということだ。
つまり、そんな覚悟で賢者に挑むこと自体が間違えている。
「く、来るなぁっ!」
ガルガが叫ぶと、ダンジョンが揺れ始めた。いや、揺れていると言うよりも動いていると言った方が正しいか。ダンジョンが形を変え始めている。
どうやらガルガはこれで時間を稼いで逃げようとしている様子。
「逃がす訳ないだろ」
とは言ったものの、俺の攻撃はあの吸収盾で吸収されてしまう。
ならどうするか? 答えは簡単、吸収する次元を超えた一撃を叩き込めばいい。吸収盾も作動しないような、そんな強烈な一撃を――
「面白いものを見せてやるよ。切り札」
最初は使うつもりはなかったけど、こんなものノリだ。
立ち止まり、指をパチンと鳴らすと目の前が突如燃え出し、それがキラリと輝くカードへと変化する。
それを人差し指と中指で挟んでキャッチし、技を唱えながら魔力を込めた。
「『業』」
カードが消滅し、俺の切り札が発動。
――しかし、何も変化が起きなかった。
カルマは賢者がみんなこんなことできるとか言ってますが、んなわけねぇだろと。
カルマも含めて上位3人位ならできるかもしれませんが。




