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2-13『虚構のダンジョン』

「……きて、……シュド」


 ………………


「エシュド、起きて!」


「……ここは」


 肩を揺さぶられ、呼びかけられた事で俺は目を覚ました。

 周囲に目を向けてみると、そこにはマナが居たのでマナが起こしてくれたんだということを理解した。


 そして状況を思い出す。

 どうやらワームホールに飲み込まれている最中、意識を失ってしまったらしい。

さすがに寝ている間には魔力による防御は発動しないから、寝込みを襲われていないよ

うでホッと一安心。


 それがマナが守ってくれてたのか?

 ワームホールからはとてつもない瘴気を感じたけど、ここまで来るとほとんど感じないレベルだな。

 でも、ここは間違いなくやばい場所だ。

 紫やピンク色で彩られたとてつもなく禍々しく毒々しい床壁天井、ずっと見ていると目が痛くなってきそうだ。


「私も目を覚ましたらここに居たのよ。だから詳しいことは何も分からないわ」


「他の人たちは?」


「勇者パーティーならあっち、ヴァルモダなら……少し上に目を向けてみたらどう?」


「上?」


 少し上に首を向けてみると、そこにはヴァルモダの顔があった。

 なるほど夢かと片付けたいが、ここは現実であるため、目を覚ますということはもうできない。

 なるほど、なるほどなぁ。


 さっきから俺の頭の下に感じる感触。

 マナが俺の横にいることからワンチャンマナじゃないかなと甘いことを考えていたが、俺の考えはドーナツのように甘かったようだ。


「うげっ! ヴァルモダ!」


「うげとはなんだうげとは」


「誰が悲しくて男に膝枕されたいと思うんだよ!」


 目を覚ましたらイケメン魔族に膝枕をされていた件。お陰で寝覚めは最悪である。

 それに気がついた瞬間、今までで一番の速度で飛び起きた。今の速度は体感音速すら超えていた。


 立ち上がったついでに再び周囲を見渡してみる。だが、見渡す限り不気味な光景が広がっているだけで、出口などは無さそう。

 本気で俺たちを閉じ込めるつもりっていうことか。


「ここ、どこですかね」


「うわぁぁぁぁぁぁん、私たちはここで死ぬんです」


「うるさい」


「酷いっ!」


 どうやらあっちもあっちで全員目が覚めたらしい。

 意外にもマナもヴァルモダも眠っているあいつらに攻撃しなかったんだな。魔族だったら攻撃しそうな気がするが、何か自分なりのルールみたいなものがあるのかね。


「では魔王様、あいつらも目を覚ました事ですし、今度こそ排除を――ぐぇぇぇ」


 ヴァルモダはどうやら眠っている間だけは見逃していたらしい。起きたとわかった瞬間に攻撃しに行こうとしたので、マナがそんなヴァルモダの足に自分の足を引っ掛けて止めた。

 顔面から倒れ込んだため、すごく痛そうだ。


「ここがどこか分からない。どんな場所か分からない。そんな状態なのに殺し合っている場合じゃないでしょ。殺り合うとしても、まずはここから出ることが最優先」


 カリスマだ。俺は今確かにマナにカリスマを見た。

 ちゃんとトップとして冷静な判断を下し、時と場合を考えて行動をする。魔族ってこういう判断は出来ない奴が多いからなんだか感動である。

 困惑したらあほ面を晒す我が王とは思えない。


「ぐぇぇぇっ!」


「ユイ、今はまだ戦う時じゃない」


「で、でも向こうに魔族が居るよ!」


「それでもよ、今ここがどんな場所か分からないのに迂闊に動くべきじゃない」


「むぅぅぅぅ」


 向こうでも似たようなやり取りをやっていた。

 ユイが攻撃してこようとして走り出した瞬間にルリハが杖を足にひっかけて止めた。あっちも顔面から転んでいるため、大変痛そうだ。

 それによってユイは如何にも今私不満ですって言う表情をしていた。


 あいつ、魔族並みの知能しか持ち合わせていないのか? もうちょっと冷静に判断出来るようにならないかな?

 剣もそのまま俺の足元にあるのにどうやって戦うつもりだったんだよ。

 まぁ、ユイが暴走した時のストッパーとしてルリハが居るから大丈夫なのか?


「ここは恐らくダンジョンね」


 少し地面や壁に手を触れて材質を確かめていたマナが言った。


「ダンジョンですか?」


「そう、多分私たちを引きずり込んだ誰かが作り出した別空間というところなんだと思うわ」


 魔物の王のマナがそう言うならここは恐らくダンジョンなんだろう。

 という事はここから脱出するための条件はこのダンジョンをクリアすること。そしてそのクリア条件はダンジョンガーディアンを倒すことということか。


 ここが敵のテリトリーということもあってかなり危険な状況ではあるけれど、ここがダンジョンだと言うのなら話は早い。


「なら、ガーディアンを倒しに行きましょ――ぐぇぇぇ」


 俺の中で目標は定まり、張り切ってダンジョン攻略をしようと歩き出したところ、マナに足を引っ掛けられてそのまま顔面から地面に突っ込む羽目になってしまった。

 非常に悔しいが、ヴァルモダと全く同じ構図となってしまった。


「エシュド、あなたもなの? 少しは落ち着きなさい。どこにそんなの居るのよ」


「どこにってそりゃ〜」


 言われて気がついた。

 このダンジョンはこの大部屋しか存在していない。他に通路や部屋などは一切存在していないのだ。

 それなのに俺は今からどこを探索しようとしていたのだろうか。


 ちょっと焦りすぎていたかもしれない。あと、ガーディアンと戦いたかったです。

 多分、このダンジョンを作り出した奴、そいつがガーディアンなんだと思うんだけど、ダンジョンを作り出せるほどの実力の持ち主となるとどれほど強いのか戦ってみたくてうずうずしてしまっている。

 せっかくユイたちとの戦いを楽しんでいるところで中断させられたから、早くその恨みを晴らしたい。


 でもまぁ、焦らなくても大丈夫か。

 一回冷静さを欠いてしまったが、冷静になれば直ぐにわかった。

 正直、最初からこの事態を引き起こした奴に心当たりはあったんだが、魔力を見てみると本当に当たるとは思っていなかったよ。

 そしてそいつはこの場に居ながら姿を隠している。


「ありがとうございます。すこし頭冷えました」


「そう、よかったわ。じゃあ、ここから出る方法を探していきましょう」


「いえ、出る方法は変わらずガーディアンを倒すということです」


 俺が言うとマナは呆れたような表情になった。


「エシュド、あなたまだ言っているの? ダンジョンガーディアンなんてどこにいるのよ」


「あそこに――」


 そう言って俺は魔力を探知した方向へと指を向けた。その瞬間の出来事だった。

 俺の真横にある壁が変形し、拳のような形に変化して思い切り俺を殴り飛ばしてきた。


「エシュドっ!」


 マナは叫んで手を伸ばすが、その手が届くことはなく固いはずのダンジョンの壁を次々と破壊し、どんどんと隣の部屋までぶっ飛ばされてマナたちとの距離が開いていってしまう。

 これはちょっと戻るのが面倒だ。


 Sランクダンジョンではよくあるトラップ系の物と認識したのですぐに防御の耐性に入ったが、これはダンジョンが出していい威力じゃないだろ。

 防御して受け止めた腕がジンジンと痺れている。というか、凄まじく痛い。俺の魔法による防御をほとんど貫通して俺にダメージを与えてきた。


 この一撃で全てを悟った。

 そうか……そうかそうか、Sランクを超えたか。

 Sランク程度までの実力なら大丈夫かと思っていたけど……そうかSランクを超えちゃったか。


 つまり、これは世界滅亡の危機って事だよな。賢者出動案件だよな。


「くははは」


 ひっさしぶりだなぁ。魔人(・・)と相対するのは三年ぶりだ。

 俺はこの時をずっと待ちわびていた。

 すげぇ暇だったんだぜ? 少しは楽しませてもらいたいものだ。

 ある程度ぶっ飛ばされてきたところで地面に足を付けて踏みとどまり、ブレスレットへと手をかけてゆっくりとギアを緩めると、それを腕から外してポケットの中に入れる。


 瞬間、俺の中に封印されていた力が滝のようにあふれ出してくるのを感じた。この力は今の俺にとって暴れ馬同然。

 服装はストレージの中から適当に引っ張り出して着替えた。

 久方ぶりの全力を制御できるか一抹の不安はあるものの、俺はSランク越えの登場に胸の高鳴りが抑えられなかった。

 さぁて……ここからは賢者()仕事(遊び時間)だ。

面白ぇ女担当のマナさん

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