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2-9『魔王領案内』

 一夜が明け、翌日。


 俺、カルマ・エルドライトはマナとヴァルモダに領内を案内してもらうべく、昨日と同様に魔王城へとやってきていた。

 暗かったからかなりおどろおどろしい場所に思えたけど、明るかったらただの荒廃した土地っていう感じだな。

 至る所に黒色の花が咲いている。あれをミアズマフラワーと呼ぶことにしよう。


 そして魔王城へ続く橋の前にはマナとヴァルモダの姿があった。どうやら俺が来るよりも早く来ていたらしい。

 二人きりで大丈夫だったかな? いや、むしろヴァルモダの心配をするべきなのか?

 とりあえず二人を見つけたので、好印象を持ってもらおうと元気に挨拶をすることにした。


「おはようございます!」


「うゆ……おふぁよう……えしゅど」


 呂律が回っていないふにゃふにゃ魔王様、だと!! おかしい、こんなの僕のデータに無いぞ!?

 よく見ると目元もトロンとしていてとても眠たそう。あ、今あくびした。

 今にももう一度眠ってしまいそうな様子の魔王様に俺が面食らっていると、そんな俺を見て今の状況の説明をしてくれた。


「魔王様はとても朝が弱いのです。私がここに来た時も魔王様はまだ眠っていらっしゃったので、私が起こしてまいりました」


「え、お前が?」


「はい」


「……マナに変なことしてないっすよね」


「貴様は私のことをなんだと思っているのだ」


「ごめん」


 ちょっと邪推しすぎたかもしれない。

 いくらこいつのことを信用していないからと言って、その忠誠心を疑うのは良くないよな。

 ストーカーの疑いがあるとしても、それは疑いなだけで証拠がある訳では無いし。


「さすがに寝顔を転写(・・・・・)させていただいただけですよ」


「なにしてんだ、俺の謝罪を返してくれ」


 きっちりストーカーしてるんじゃねぇか。

なんで今俺は怒られたんだよ。俺の邪推は別に間違ってなかったじゃん。

 もうこいつの何もしてないって言葉は信用しないようにしよう。

 そんなことを俺たちが話していると、そこでマナの意識がはっきりしたようで、ハッとしてキョロキョロと周囲を見回し、俺を見つけたらしい。


「あ、エシュド来たのね。おはよう」


「さっきの挨拶は寝ぼけていたんですね。はい、おはようございます」


 カリスマ、威厳はどこにあるんでしょうか? 俺の中の魔王様像がどんどんと崩壊して異っている気がする。

 ため息をつきたくなってしまうほどに緩い魔王様だが、魔王軍にはこれがあっているのかもしれないなと考える。


 だってこの魔王で魔王軍をまとめ上げることが出来ているんだからな――いや、昨日魔物たちが好き勝手に動いているとか言っていたな。全くまとめ上げられていないじゃないか、本当に大丈夫か魔王軍。


「さて、これでそろったわけだし、魔王領の案内を始めるわね」


「今日はどこら辺を案内してくれるんですか?」


「今日はね、ここら辺!」


 魔王様は地図を取り出して一か所を指さした。

 その場所を見るために魔王様の隣に並んで覗き込んでみてみると、そこは城下町の近くにある森だった。

 俺が野宿している森ではないようだけど、その近くの森は魔王領だったのかよ。危うくまた魔王領に侵入するところだった。


 また魔王様が俺を捕縛しに来るような事態は避けたい。だって俺はもう魔王様の見た目を知っているし、魔王様には俺のハルトとしての姿を知られてしまっているものだから、次あったらどんな言い訳で逃がしたらいいのか分からないからな。


「それにしてもどうしてここを? 地図を見る限り、この近くには何もなさそうですが」


「ま、ついてきたら分かるから! ヴァルモダもそれでいいよね」


「私に異論はございません。魔王様在るところ、私在りでございます」


 もういっそのこと魔王様のためにこいつ討伐しちゃおうかなと考えているが、ダメかな?

 そんなわけで、俺たちは城下町近くの森へ行くことになった。


 ☆☆☆☆☆


 魔王領というところには基本的に瘴気が存在している。


 魔王城近くのようにSランク級の瘴気が充満している箇所もあればEランク程度のほとんど何も感じない程度の瘴気の場所もある。

 人間の街は瘴気が少ない場所に存在しているため、その近くの魔王領は瘴気が少ないという特徴があり、俺たちがやってきた森には瘴気が少なく、どことなく空気が澄んでいるように感じるほどに空気が美味しい。


 ちなみに死の森はCランク程度には瘴気が濃かった。だから空気が少しどんよりとしていたんだけど、俺にはあまり影響はないくらいだった。あれくらいなら俺にとっては空気が澄んでいると言っても過言ではないくらいだ。

 むしろ人が少なく、快適なくらいだった。

 それにしても、こうして来てみても何の変哲もない森だ。強いていえばここが魔王領だって言うくらいだが、言われないとここが魔王領だと分からないくらい。


 どうしてマナがこんな森に俺を連れてきたのか全く検討もつかない。

 これなら魔王領の案内ではなくただの散歩になってしまう。

 マナは何を考えているんだと考えていると、マナが口を開いた。


「どう? いい場所でしょ」


「はい、とても空気が澄んでいる場所ですね」


「えぇ……まるで魔王様の心のように綺麗な森です」


 いちいち返答が気持ち悪いなこいつ。

 と言うか、魔王なんだから心が綺麗なわけないだろ。


「ここ、昔の大戦で全焼したんだよね。ここまで戻すの大変だったんだよ」


「これ全部ですか!?」


 今となっては全く分からないほどに綺麗な森になっている。これが一回全焼したなんて信じられないほどのものだ。

 ヴァルモダもは知っていたのかと思い、横を見てみるとヴァルモダも驚いたようで目を見開いて周囲を見回していた。


「確か二千年前かな。人族と魔族で大きな戦争があってね。この森が戦いの場になったんだよ。あの時、私も殺されちゃってね」


「ま、魔王様殺されてしまわれたのですかぁ〜!?」


「う、うん。でも、あれじゃ私の存在が消えることは無いからね。だから、安心して私から離れてもいいよヴァルモダ」


 泣きつくヴァルモダを必死に引き剥がそうとするマナ。

 まぁ、マナが魔王である限り、マナを完全に殺せるのはユイの持つ真剣『リリウム』のみなのでそこまで心配しなくても問題は無いだろう。

 他のやつに殺されてもしばらくしたら復活するはずだ。


 それにしても……魔王領の森は燃やされ、マナ自身は殺される。つまり二千年前の人類は魔族との戦争に勝ったわけか。


「あの戦いに負けたせいでさ、全盛期程の力はまだ出せないんだよね」


 あははと自嘲するマナ。その表情はどこか悲しそうで、胸がキュッと苦しくなるものだった。人間であるというのに少しマナと話しただけで絆されたというのか?

 今でも魔力を感じ取ればSランク程の力はある気がするんだけど、全盛期はいったいどれほどの実力だったのだろう。


 戦ってみてぇ……。


「その後、まぁ色々あって今は冷戦状態って訳。でも、表立って戦っていないだけで勇者をけしかけられたりはしているんだけどね」


「ご安心ください魔王様。勇者なんて私が蹴散らしてご覧に入れましょう」


「お、頼もしいねぇ」


 やる気十分という感じで自信満々に名乗りをあげるヴァルモダだが、お引き取りください。

 お前が戦ったら間違いなくユイたちがボコボコにされ、最悪の場合殺されるからお前はまだ出る幕じゃねぇ。


 戦うならもっとユイたちが強くなってからにしろ。

 むしろ、ユイたちがSランクになってからにしてくれ。そうしたらユイたちがお前をボコボコにしてくれるはずだ。

 そしてそれを後方師匠面で眺める俺! 完璧だ。


「着いたよ。君たちに見せたかったのはここだったんだ」


「これは……っ!」


 三十分くらいあるいただろうか。ついにマナは開けた場所で立ち止まり、ヴァルモダはマナの横に立ちって感嘆の声を漏らした。

 その二人の後に続くような形で俺も開けた場所に出ると、そこに広がっていたのは巨大なクレーター群だった。

 しかもそれはただのクレーター群ではない。様々な色が付いた色とりどりのクレーター群。


 何も知らない人から見たら綺麗と思うんだろうけど、これは――


魔痕(まこん)、ですか」


「そう、これは魔痕。といってもここ最近の物じゃなくてこれも二千年前の戦争で出来たものだけどね」

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