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2-8『芸術とは爆発である』

「それじゃあ、改めて。メルちゃんって魔道具技師なんですよね?」


「はい! 小さい頃から家の手伝いで魔道具を作ってまして、それで遊んでいました!」


「例えばどんなの?」


「そうですねぇ……こんなのはどうでしょう?」


 そう言ってメルちゃんが大きなリュックの中から取り出したのは小さな宝石のようなものだった。

 紫色に輝いていて、若干スライムの核にも見えて少し嫌悪感を抱いてしまう。


「これは?」


「これは魔石といいまして使い捨てなんですが、この中に初級魔法を閉じ込めておくことが出来ます。本来、魔法を使うには使うときに魔力を練り上げる必要があり、練り上げる速度が遅ければ遅いほど発動が遅れてしまうのですが、この中に入れておけば魔力をこれに流し込むだけで魔法を発動できます」


「へぇ、面白いわね」


 ルリハちゃんが興味を示した。

 確かにルリハちゃんは魔法使いで、私よりも魔法を使う機会は多いだろうから、こういう道具があったらすごく戦いが楽になりそう。


「ちなみにこれって魔法を入れた本人じゃなくても使えるの?」


「はい、問題なく使えます!」


 ドヤァと得意げな表情をするメルちゃん。その一言は私にとってすごい衝撃だった。

 私は魔法があまり得意じゃないから恩恵を受ける機会っていうのはあまりないかもしれないと思っていたんだけど、ルリハちゃんが入れた魔法を私も使えるんだとしたら、初級魔法とはいえ、ルリハちゃんと同レベルの魔法を使うことが出来るようになるということだ。


 これはかなり革命的である。

 多分ルリハちゃんも私と同じことを考えてこの質問をしたのだろう。


「なら、かなり使えそう。ちなみに今は何か入ってるの?」


「今ですか? 今はエクスプロードが入っています」


「なんで?」


 エクスプロードとは爆発系の初級魔法。

 初級なだけあって爆発は小規模かつ、消費魔力のコストパフォーマンスがエクスプロージョンの方がいいということもあってあまり使われることのない不憫な魔法だ。


「なんでって……爆発ってロマンじゃないですか?」


「う、うーん?」


 なんか雲行きが怪しくなってきました。

 メルちゃんがおかしなことをしてきているのをさっきから目撃しているので、目をキラキラと輝かせているメルちゃんの姿を見て思わず身構えてしまった。

 そして私の考え通り、メルちゃんは早口で語り始めた。


「爆発は芸術なんですよ。爆発した後に抉れた地形、破壊された跡、あれらは爆発によって生まれた芸術作品といっても過言ではありません。皆さんの想像しやすいもので言ったら花火も爆発から生まれた芸術なのです。つまり、芸術と爆発は深く結びついている、爆発(イコール)芸術ですよ!」


 何言っているか分からないし、分かりたくもないかもしれない。

 脳が理解を拒んでいるのを感じるのは初めてなんですが。


「いやぁ爆発魔法をどうやって連発するか、それがボクの課題でした」


 そもそも連発しないでくれませんか? 世界が壊れちゃいますよ。


「どれだけ魔力を増やてエクスプロージョンをいっぱい撃てるようになっても、エクスプロージョンはどうしても発動にタイムラグが生まれてしまう」


 エクスプロージョンをそんなにポンポン打たれたら怖いですよ。私たち近接戦闘スタイルの人は近づくことが出来なくなるじゃないですか。


「そこで見つけたのがエクスプロードです。確かに威力のわりに魔力効率が悪い魔法ではありますが、これはタイムラグ無しで発動できます。これに気が付いた時、ボクの運命は決まりました」


 常人では目を付けない魔法に目を付ける、これが天才ってやつなんですかね? いや、違うような気がしてきた。

 確かにタイムラグ無しで使えるけど、どんどん使ったら普通すぐに魔力切れてしまうと思うんですが。


「この魔法をどれだけ魔力を抑えて発動できるか、学園に入学してからずっと考え続けて気が付いたら学園を卒業していました」


 学園に居た三年の間、ずっとこれについて研究していた努力は認めますが、その爆発魔法に対する執念は何なんですかね!?

 すごいっていう気持ちよりも執念がすごすぎて怖いという感情の方が先に来るのは初めてなんですが。


「そしてついに完成したんですよ! この魔石、実はため込んだすべての魔法を一定の魔力で使用することが可能なんです。なので、この魔石を使うよりも消費魔力の多いエクスプロードはこれに入れることでコストパフォーマンスの良い魔法に早変わり! いやぁ、笑いが止まりませんよ~」


 早口で私たちが口を挟む暇もなく一息で喋りきったメルちゃん。

 あははははと楽し気に笑っているメルちゃんだけど、私は恐怖を抱いているし、ルリハちゃんは何とも言えない表情をしていた。

 あれは何か反応してあげたいけどなんて反応したらいいか分からないので、とりあえず顔だけでも反応しておこうと思ったけど感情が定まらなくて微妙な表情になってしまったというときの顔だ。


「ま、まぁ、メルちゃんの爆発魔法愛は分かりました。ちなみにメルちゃんはどうして勇者パーティーに?」


「あぁ、それはですね。ボクの作った魔道具がどれだけ魔王軍に通用するか試したかったんですよ」


 勇者パーティーに入る理由は幾つか考えられる。

 しかし、そのどれもに共通しているのが世界を救いたいからという理由だったりするんだけど、メルちゃんは自分の興味で動いていたらしい。

 天才である故に常人とは違う回答をする可能性も考えていたけど、想定していたものとは違うあっさりとした回答だったため、思わず言ってしまった。


「え? それだけ?」


「それだけとはなんですか! ボクは魔王軍にも通用する魔道具を作るために今日まで頑張ってきたんですから。魔王城をボクのエクスプロージョンで木っ端微塵に吹き飛ばしてやるのが今のボクの目標です!」


 魔王さん魔王さん、どうやら近いうちにあなたの元へ爆弾魔が行くみたいですよ。気をつけてくださいね。

 爆弾魔を相手にするとか魔王が少し可哀想に感じてきました。

 そこでルリハちゃんは爆発魔法の話ばかりで飽きてきたのだろう、話を次に進めた。


「それじゃあ、これから実力を見せてもらう。魔道具技師って書いてあったけど、ちゃんと戦えるのか見せてもらうから」


「臨むところですよ! ボクの実力を見て腰を抜かさないでくださいね!」


 彼女が爆弾魔ということを考えると、その戦闘スタイルもかなりの不安が残ってしまうのだが、そんな無粋な質問はしないでおく。

 下手に突っ込むとまた弾丸トークを聞かされる可能性もあるし、触らぬ神に祟りなしだよね。


「でも、近くのダンジョンは崩壊しちゃったし、どうしよう……」


「確か近くに魔物がいっぱい居る森があったはず。今日はそこで魔物の討伐をしよう。魔王領だった気がするけど、私たちは勇者だから問題ない」


 キリッとした瞳で言ってくるルリハちゃん。

 メルちゃんは酷いけど、ルリハちゃんも大概だよなぁと思いながら話を続けた。


「何が問題ないのか分からないけど、そうだね。それが一番いいかも。メルちゃんもそれでいい?」


「はい! ボクも異論はありませんっ」


「あ、でもハルト君はどうしよう」


「ハルトには明日伝えれば大丈夫でしょ。彼はまだ正式なメンバーじゃないんだし」


「それもそっか」


 こうして私たちは二人目の実力テストをするために近くの森へと向かうことになった。

 しかし、この選択があんな事態を引き起こすなんて、この時は全く思ってなかったんだ。

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