2-3『超級魔法』
再び正拳突きを放ってくる魔族。
すごい速さではあったが、このくらい躱すのは訳ない。真横に身を翻すことによって回避したが、その直後魔族から回し蹴りが飛んできたため、腕をクロスして防御をする。
魔力量的にはAランクだろうか。その割にはかなり攻撃力が高い。
俺の防御力ならダメージはほとんどないけど、回し蹴りを受け止めた腕が少し痺れ、その状況に俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
まるで最高の玩具を久しぶりに見つけた子供の様に、思わず心が躍ってしまった。
正直魔力的に考えるとガルガの方が強かった。だけど、あの時はユイとルリハが居たから本気を出すということは出来ず終いだった。
でも、今ならマナの強ささえ越えなければそれでいいから、こいつと殺し合ってもいいんだ。
あいつは多分マナの部下か何かだろう。それでなぜマナが事情を説明してこいつのことを止めさせないのかは疑問が残る。
しかし今はそんなことはどうでもいい。
今はただ、こいつと戦ってみたい。だから俺からもネタ晴らしはしない。
「キサマ、やるな」
「お前のキックもなかなかいい一撃だった!」
俺の一番得意な魔法、それは身体強化魔法だ。
出力調整を意識する必要もなく、かつ日常で一番使うことが多かった魔法。必然的にどんどんと練度が高くなっていった。
だから俺が本気で戦うとしたらこれは外せない。
「『身体強化』」
「どこのどいつだか知らんが、魔王様に危害を加えようとする者は皆変わらず排除する。『雷豪』」
別に魔王様に危害を加えようとは思ってないし、それどころか仲間になろうと考えているんだが、なんだか面白いのでやっぱり放置。
俺から一旦距離を取った魔族は両手を合わせると、ゆっくりとその両手を離していく。
すると両の手の指の間を繋ぐようにイナズマの糸が出現し、その中心で全ての糸が絡み合い、一つの球体と化していた。
こりゃまた凄い魔法だな。
上級魔法『雷豪』、雷魔法は扱いが難しくて使い手が限られているというのが常識なんだが、こいつはさも当たり前のようにそれも上級魔法を使うんだな。見ていると難易度感覚がバグりそうだ。
「はぁっ!」
「くっ!」
雷の球体を放ってきた魔族、それを俺は正面から受け止めることにした。
さすがは上級魔法、なかなか重い一撃だが俺の防御力を貫通できるほどではなく、しっかりと両手で受け止めて勢いを殺すと、それをそのまま魔族へと投げ返した。
「『雷瞬』」
魔族の足に稲妻が迸りその瞬間、魔族の姿が消えて雷が落ちたかのような轟音と共に閃光が走る。
バチバチバチという稲妻が弾け、地面が焼ける音が静かに響き、微かな煙が辺りに漂う。
ゆっくりと振り返りつつ閃光の先へと視線を向けてみると、いつの間にか魔族がそこへ移動しており、再び走る構えをしているのが見えた。
俺は軽く横へ跳んでその場から退避するとその直後には俺の元いた場所を閃光が走った。
「今のを躱すのか。だが、次はそうは行かないぞ」
「ちょ、待って!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
この魔法の発動にマナは少し焦っているようだったが、ただ一人俺は大興奮で思わず感嘆の声を上げた。
魔族は両手に稲妻を纏わせ、頭上で組むと周囲に魔力の波動が放たれ、それが暴風のように襲いかかってくる。
さすがにこのレベルの魔法を使うことが出来るとは思わなかった。Sランクに片足突っ込んでるんじゃないかと思えるほどの魔法。
「すっげぇ〜なお前、それ使えるのかよ! まじで久しぶりに見た!!」
「っ! そうだろ、俺はすげぇんだ! どうだわかったか!」
「マジですげぇよ!」
「はーっはっはっはっ!」
ちょろかった。
別にノせる為だけに言った訳じゃなくて本心で言った訳だが、今この状況でノせられるやつがあるか!
それにしてもこの魔法を見るのは久しぶりだな。三年前まだ俺が賢者だった頃に他の賢者が使っていた記憶がある。
ただ、消費魔力が大きいからという理由であんまり使っているところを見たことがないレベルではあるが。
「ふむ……」
マナが静かになった。
俺の態度を見て思うところがあったのだろう。静観することに決めたらしい。
ならば見ていてくれ魔王様、俺の勇姿をとくとご覧あれ!
「ならば、このすっげぇ魔法で華々しく散るがいい! 『壊雷』」
ズダン!
魔族が稲妻が溜まりに溜まった手を地面に叩きつけた瞬間、地面にクレーターが出来上がって周囲広範囲に渡ってひび割れる。
更に魔族を中心としてひび割れが広がった範囲内に稲妻が放出。木などは一瞬で焼き尽くされるほどの高出力で、逃げようとしてもひび割れた地面から稲妻が吹き出しており、それが壁となって逃げることは叶わない。
これは魔力を溜め終わった瞬間に効果範囲内に居たらほぼほぼ必中となる必殺技と言ってもいい魔法。
上級を超えた超級魔法。
これをなぜ知っているのに逃げなかったのか、それには別に深い理由があった訳じゃない。俺にあるのはあれを食らったことがないから受けてみたくなったという好奇心だけだった。
ただ、さすがにこれほどの大魔法は俺も普通に受けてしまうとタダでは済まないだろう。
だから、魔力を稲妻のエネルギー波が迫ってくる方向に集中させ、盾のように展開して構える。
「さぁ来い!」
傍から見たら相当クレイジーだろう。だが、今俺は本気でこの戦いを楽しんでいた。
構えてから一秒も経たない内に凄まじい衝撃が盾に襲いかかってくる。それはまるで大津波を盾一枚で防ぎ切ろうとしているかのような、そんな衝撃。
誰もが口を揃えて無謀だと言うような行為だが、身体強化をフルに使い、盾で耐え凌いで次のことに思考を巡らせる。
実はこの魔法はこれで終わりでは無い。
「トドメだ!」
エネルギー波が止んだと思ったのも束の間、魔族は稲妻を纏った拳をこっちに振ってくる。
するとその拳から稲妻でできた拳が飛び出してきて俺へ襲いかかってくる。
これがこの魔法の恐ろしさ、やっとの思いでエネルギー波を防いだと思ったら追撃が来た。
この一撃は盾を使っても防ぎきれずにぶっ飛ばされてしまいそうだ。
だから俺は一つ考えた。
盾を解除して今度は拳を構えて拳に魔力を集中させ、稲妻の拳を見据える。
昔から『攻撃は最大の防御』って言われているからな。防ぐことが出来ないなら、さらに強い攻撃で打ち消す。
それに、殴った方が戦ってるっていう気がする!!
これは中級魔法、常識的には中級魔法で超級魔法に敵うわけないが中級魔法で超級魔法に勝てないなんて誰が決めた?
魔法の威力の世界は魔法にどれだけの魔力を込めることが出来るかで決まる。だから、中級魔法でもありったけの魔力を込めればそれだけ威力が上がる。
「『豪拳』」
俺が拳を振った瞬間の出来事だった。
拳を振り下ろした際の衝撃波が稲妻の拳を貫いてかき消し、そのまま正面に見えている光景に襲い掛かる。
「ぐ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
衝撃波は地面を抉りながら魔族をぶっ飛ばし、その背後にあった枯れた森の木々も一瞬にして一直線に消し飛ばす。
「あっ」
気が付いた時には時すでに遅し、目の前に地獄のような光景が広がっていた。地面は抉れ、目の前の木々は消し飛んでいる。
そこでこの戦いには観戦者が居たというのを思い出し、俺はその観戦者の方へと視線を向けてみると、その観戦者は白目をむいていた。何だあの表情は、どういった感情だ?
いや、十中八九敷地をこれほどまでにぼこぼこにしてしまったことについて怒っているのだろう。
違うんです。こんなつもりじゃなかったんです。俺はただ、あの稲妻の拳を打ち消すだけのつもりだったんです。
やってしまってからだと言い訳にしか聞こえないかもしれませんが、別にここまでやるつもりじゃなかったんです。
つまるところ、いつもの威力制御の失敗である。
どうやら俺もユイのことを言えないようだ。俺も肝心のところで失敗してしまうポンコツだったらしい。
そう心の中で言い訳を並べていると、上空へとぶっ飛ばされた魔族が落ちてきて地面の上でまな板の上の魚の様にぴくぴくと動いている。
今のを受けてよく生きていたなと素直に感心する。Aランク程度の魔力だというのに超級魔法越えの威力を受けて死んでいないのはこいつの耐久力が異常に高いからだろう。
魔族にはまだ分からないことがたくさんあるからな。
「ぐ、ああぁあ……まだ、だ……まだ終わってないぞ……侵入者!」
「お前もうボロボロじゃねぇか。やめとけって」
今の一撃をまともに受けてしまったから体のいたるところから血が噴き出してきている。誰がどう見ても満身創痍で戦える状態ではないのだが、それでもなお戦い続けようとしているところを見ると余程マナへの忠誠心が強いんだなと感心する。
もうちょっと戦い続けたいという気持ちはあるけど、これ以上戦わせるのは酷だなと感じ、ネタ晴らしをしようと口を開いたが、その言葉を口に出すことはなかった。
「お前が強いのは分かった。このままじゃどうしてもお前に勝つことはできないだろう。ならば使うしかないな、切り札を」




