1-14『油断大敵』
「くはは、まさか正面から突撃してくるとは思わなかったぞ。お前の魔力量、差し詰めBランクといったところか。俺とお前の力の差は分からないのか?」
「そう、ですね。本来ならBランクとSランク、その差は比べ物になりません。でも、それは今関係ありません」
「『エクスプロージョン』」
ユイがガルガの気を引いている間に放たれるルリハからの魔弾。それは魔人の核へと一直線に飛んでいき――
「『バルマ』」
真横から飛んできた魔弾が直撃し、魔人の核に届く前に爆発してしまった。
「いい作戦だ。一人が気を引き、もう一人があれを狙う。だが、そんな子供騙しのような手を食らうと思うか?」
ルリハは顎に手を当てて少し考えるような仕草を見せた。
今のはほんの小手調べ、相手の対応速度を調べるための攻撃で最初からこれが決まるとは思っていなかったんだろう。
「くっ」
そこでユイは自分から後ろへ飛び退き、ルリハと並んで立った。
「ルリハちゃん、どう?」
「ん、よゆー。あれ行くよ」
「おっけー」
あの二人『仲間のことを気に掛ける暇があるなら敵を見ろ』とは言うけども、仲間の俺の存在を忘れてはいないだろうか。二人だけでなんか通じ合っている気がする。
仲間なのに話に入れないのは少し寂しいです。
とりあえず二人の作戦の邪魔をしないようにサポーターに徹するため、少し後ろに下がっておく。
今の俺は『何それ知らん』状態だから邪魔しないのが一番だ。
「ハルト、私は良いから身体強化あの子に全て振ってあげて」
「りょーかい」
ルリハに言われてユイに狙いを絞って身体強化魔法を施す。
身体強化魔法は複数に掛けることもできるが、その場合はその人数分効果が半減する。
今ユイに全てを掛けたことで効果が完全になった。さっきまでよりもユイは強くなったはずだ。
「すぅぅぅ……ふぅぅぅ…………………………行きますっ!」
深呼吸をし、再びガルガの正面から突っ込んでいくユイ。今回は身体強化がフルに適用されているからさっきよりも動きが早い。
でも、これじゃさっきと同じだ。ガルガほどの実力者相手じゃ同じ手は何度も通用しない。
そもそもこの実力差で正面から突っ込もうとするのはどうなのかと思う。
「自棄か? なら、大人しく俺に殺されておくんだな!」
同じように迎え撃とうとするガルガ。完全に相手を隠したと見て油断をしている様子。
多分あれは遊んでいるくらいの感覚。だが、そんな感覚はどれくらい強くなったとしても危険だ。油断は禁物という言葉もあるくらいだからな。
油断したその一瞬の隙を突かれる、そんなこと実践ではよくあることだ。だから常に警戒を怠ってはいけない。
「なっ、消えた!?」
驚きの声を上げるガルガだが、一瞬俺にはどういうことなのか分からなかった。
多分今ガルガの目にはユイが消えたように見えているんだろうな。
一瞬体を右に振り、視線を誘導。そして右に振った速度以上の速度で左側から後ろに回り込む。
簡単な視線誘導技術。Sランクほどの動体視力があれば普通は見失うことはないが、奴は油断をしていた。
油断をしていると足元をすくわれるとはこのことだ。
「『迅』」
「ぐあっ」
ユイが剣を振った瞬間、強風が吹き荒れ、ガルガは背中を斬られると同時に強風によって吹き飛ばされてダンジョンの壁に激突する。
風の魔法を剣に纏わせていたのか。
正直俺は力こそ正義みたいな戦い方をしてきたからそういう発想はなかったため、素直に感心した。
あれだな。師匠が脳筋だから俺もうつってしまっていたのかもしれない。
「なるほどな……体さばきは一丁前ということか」
「自分よりランクが低いからって忘れてるかもだけど、仮にもBランクですので」
攻撃は入った。でも、あまりダメージが入っているようには見えないのは魔力量の差のせいだろう。
魔力は多ければ多いほど身にまとって鎧のように防御をすることが出来る。そして相手の攻撃に含まれている魔力量を自分の防御に使っている魔力量が上回っていればダメージを軽減できる。
ちなみに俺のブレスレットはこの防御に関する魔力は制限してくれない。前に防御の魔力も制限してくれと言ったら本気で頭の心配をされてしまい、結局防御魔力の制限機能はつけて貰えなかった。
俺が色々な攻撃を受けてもほとんどダメージが無いのはそのせいだ。
でも、ダメージは入っていないとしてもこれ以上無いくらいの隙を作ることには成功した。
「行っくよー」
気がついた時にはルリハの手には炎で象られた弓矢が構えられていた。
「『ダークマター』」
「穿てっ、『紅蓮廻炎――』」
空をも穿つ獄炎の矢と光をも喰らう漆黒の魔弾、その二つが同時に放たれた。
上級魔法同士の戦い。どちらも等級が同じ魔法で互角のはずだが、魔法の威力はその魔法にどれだけの魔力を注ぎこめるかにかかっている。
普通に考えたらルリハの紅蓮廻炎はガルガのダークマターに勝てるはずがない。でも、さっきのやり取りを考えたら普通の魔法のはずがない。これは多分、
「『――遅延』っ!」
ついに二つの魔法が直撃した、そう思っていたらなんと紅蓮廻炎はダークマターをすり抜けてしまった。
まるでそこには何もなかったかのように、ただただ空を通り過ぎていくかのように、当たり前だとでもいうように通り抜けていった。
「なっ!」
ついに矢が魔人の核に直撃、したかと思ったらそれすらもすり抜けてしまった。
バリーン。
約一秒後、遅れて魔人の核は穿たれた。その光景は魔人の核が遅れて穿たれたことに気が付いたかのようだが、実際はこのタイミングで穿たれたのだ。
ルリハの使った魔法、遅延魔法だ。
さっきユイが剣に風の魔法を付与していたのは通常の付与魔法、そして今ルリハがやって見せたのは魔法に魔法を付与する特殊な付与魔法。
通常よりも魔力制御が難しく、かなり繊細な魔力制御が必要な技術だが、これを利用して遅延魔法を紅蓮廻炎に付与した。
この遅延魔法は視界に映っている魔法とは当たり判定を遅らせる魔法。実際の当たり判定は少し後ろにあった、だからすり抜けたり遅れて直撃したりしたんだ。
こんなことが出来たとはな……少し俺も驚いていた。
「ま、魔人の核が」
ぽろぽろと崩れ落ちる魔人の核は光を失い、妙な力の放出が止まった。
瘴気に関してはまだあるけど、これは直に晴れていくはずだ。というか、そうでなければ困る。
こんな事態に遭遇したのは今回が初めてだからどうなるのかがさっぱりなんだ。
「そんな、馬鹿な……」
地面に両手をついて崩れ落ちるガルガ。
これほどの事態を引き起こしてくれたんだ。もう少しで俺たち賢者が動かなければいけなくなるところだったんだから、何か言ってやらないと気が済まない。
「ははは、お前、いくら強くても油断して負けるんだったらさ、そのランクの意味はあるのか?」
「っ」
「力はあるだけでは意味がない。効果的に使えないとな……その点で見ると、彼女たちの方がよっぽどSランクに向いているように見えるが」
「てめぇ……」
こちらをキッと睨みつけるガルガ。
これは面倒を掛けさせてくれた意趣返しではあるが、俺自身何も間違えたことを言ったつもりはない。
ユイとルリハの魔力量的にはSランクには及ばないようだが、その動きはSランクと比べても見劣りしないものだったと感じた。
賢者の俺が感じたのだから間違いない!
「てめぇは俺の手で地獄に落としてやる」
憤慨して俺に手を向けてくるガルガに対抗しようと俺も構える。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
次の瞬間、轟音が鳴り響くほどの地震が発生し、倒れそうになってしまうが何とか耐える。
同時にそこら辺のダンジョンの床や壁にひび割れが発生し、ダンジョンの崩壊が始まる。




