4-77『忠告』
「よしっ、こんなもんか」
ハクちゃんが退院し、ついに俺たちは王都へ帰ることにした。
復興はまだ終わっていないけど、この街にいる冒険者たちの力を結集したら、復興も何とかなることだろう。
ただ、なぎ倒されてしまった木々は元に戻らないから、もしかしたら普通に地面に家を建てることになるのかもしれないけどな。
そして今、俺は一人馬車までやってきて馬車の最終調整をしていた。
来るときと同じく、俺が御者をして王都へ帰ることになる。
来るときと違うことと言えば、好き勝手魔人がこの街で暴れてくれたおかげで付近に魔物の気配が無くなっているということだ。
魔物も自分の身が危険だということを察すると逃げるくらいの知能はある。
それがデスモンキーほど知能がある奴となればなおさらだ。
魔人が暴れたとなると、魔物も命の危険を感じて逃げて行ったのだろう。しばらくしたら戻ってくるとは思うが、しばらくこの近くには寄り付かないはずだ。
だから、帰りは魔物とエンカウントすることはなさそうで少し楽。
ここで過ごした時間も楽しかったが、やっぱりユイたちともまた冒険をしたい。
勇者パーティーに入ってからいろいろなことが起こって毎日飽きなくて楽しい。だが、あんまりこういう辛い事件は起きてほしくないものだ。
俺たちのゆく先々でこんな事件が起こり続けているから、もしかして勇者パーティーがトラブルメーカーの集まりなのか?
そんなことを考えつつ、馬車の御者台に腰を下ろすと、すでにそこには先客がいたことに気が付いた。
「うわわっ、って、ゼルドガル!?」
そう、そこに居たのはゼルドガル・バッドレイ。
随分前にこの街を離れたはずの賢者一の危険人物だった。
「そろそろテメェもこの街を離れるんじゃねぇかと思って、話をしに来た」
「……何の用だよ」
「なぁに、ちょっとした世間話だ。久しぶりに会った旧友をそんな邪険にするんじゃねぇ」
いや、警戒もするだろ。
正体がバレていて、いないと思っていたはずの男が突然目の前に現れたとなったら何かあるのかと勘ぐってしまうのは当然のことだ。
むしろ、普通に話してもらえると思っているゼルドガルの頭がどうにかしてるんじゃねぇのか!?
「ネムナ、覚えてるか?」
「あぁ、当然だ」
忘れるわけがない。
ネムナ・スーザン、ゼルドガルに次ぐ、とてつもない力を秘めた賢者の少女。
そして、ゼルドガルと同じく、俺の中で関わりが深かった賢者の一人でもある。彼女に見つかったらゼルドガル同様、一発で正体を見破られてしまったとしてもおかしくはない。
確か、彼女は昔見たときはよくゼルドガルに引っ付いていたって記憶してるんだが、今は一緒に居ないようだ。
「ネムナ、お前にずっと引っ付いてたよな。確か、お前がネムナに魔法を教えたんだっけか」
「あぁ、あいつは俺の唯一の弟子って言ったところか」
「お前が弟子を取るなんて珍しい」
「前にも言ったけど、あいつの押しが強かったから仕方がなくだ」
こんな強面のゼルドガルもネムナには弱い。
というか、基本的に押しが強い相手に弱いのだろう。ネムナに押されて負けている場面を俺は何度も見たことがある。
ネムナが甘いものが好きだからってスイーツ屋に強引に連行されている場面や、抱き枕にされて寝ているところも見たことがある。
「で、なんで急にネムナの話を?」
「ネムナには絶対に会うな。ネムナを見つけたらすぐに逃げろ」
「え?」
「突然居なくなったテメェに切れ散らかしている。オレとは違って最悪、殺されるぞ」
マジで?
あの子、ゼルドガルよりも温厚だった気がするんだけど。
むしろ、行方不明になった俺を見つけたら一目散に殺そうとしてくるイメージがあるのは目の前にいるゼルドガルの方なんだけどな。
「一応忠告しておいてやる。ネムナも昔より強くなってるしな」
「あれより強くなっているとか、厳しいな」
俺が賢者に居る時ですら勝てるか勝てないか半々くらいだったんだけど、俺も強くなっているとはいえ、あれよりも強くなっているとしたら本格的に俺が勝てるかどうか怪しいくらいだ。
俺が本気を出せばあるいは……いや、それでも正直微妙なところだろう。
「それだけだ。これからも生きたいのなら、ネムナには会うな」
「わかった。忠告ありがとう」
「ハルトーーーーーーーーっ」
「っ」
その時、ルリハの俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
やっとルリハも出発する準備が整ったということなのだろう。だが、このタイミングはまずい。
俺と賢者であるゼルドガルが話している姿を見られて、俺はどう言い訳したらいいのか。どう考えても怪しくなるし、ルリハの中の俺=カルマ疑惑がさらに濃厚になってしまう。
慌ててゼルドガルの方へと視線を向けてみると、ゼルドガルの姿はすでにそこになかった。
どうやらルリハの声が聞こえてすぐに居なくなってくれたらしい。ゼルドガルは見た目や雰囲気によらず、空気は読んでくれるんだよな。
「あれ、ハルト、今誰かと話してた?」
「いや、別に」
「そう?」
ルリハにはあんまりバレていないようで一安心。
新調した杖を背負い、馬車の荷台に乗り込んだ。
俺の荷物は全て『ストレージ』の中に入れているから忘れものとかも無いはず。
それじゃあ、ついに帰ろうとしたその時だった。
「おにいさーーんっ」
「ハクちゃん?」
俺の名前を呼ぶ声が聞こえ、声のする方へ視線を向けてみるとそこにはハクちゃんが俺に向かって走ってきているのが見えた。
病み上がりだからあんまり走るなとちょっと注意しようと思ったんだが、その前に俺の思考は停止してしまった。
「んっ」
「っ!?!?」
ハクちゃんは俺の真横に来て御者台に軽く足をかけて体を持ち上げると、優しく俺のほほに唇を当ててきた。
その状況を理解するのにはさすがの俺も数十秒ほど必要で、思わず固まってしまった。
そのため、荷台に居たルリハの方が俺よりも反応が早かった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ルリハの叫び声が森の中に木霊する。
その声によって俺は我に返って、状況を理解した。理解したうえでまたまた混乱してしまった。
なんで? なんで、突然キス!?
「男の人はこうすると喜ぶってお母さんから聞きました。色々のお礼ですっ」
「は、ははは、ハルトあなたねぇっ、ハクと何があったのか事細かに説明しなさいっ!!」
「いや、俺も何が何だかさっぱりなんだが……」
とりあえず、最後の最後でやってくれたなメルフィーさん。
ルリハに見られているだけでもこんな状況なのに、デスタさんに見られていたらどうなっていたことやら。
本当にこの場に居なくてよかった。
「小僧っ」
「あー、死んだ。俺死んだ」
「ついに貴様、禁忌を犯したな! 俺の娘に手ぇ出して無事に帰れると思うんじゃねぇぞ」
「はいはい、あなたそこまでにしてくださいね」
元凶が何言ってるんだか。
ルリハには胸倉をつかまれ、デスタさんは半狂乱。なぜかこの状況でニコニコしているハクちゃんとメルフィーさん。
何この状況。
最後位静かに帰らせてくれぇぇぇぇぇぇっ。
えー、ついに今回で四章完結しました。
いやぁ、長かったですね。本当はここまで長くするつもりって言うのはなかったんですけど、丁寧にすべての戦いを書いていたらここまで長くなってしまいました。
次回から五章に入るわけなのですが、五章からはしばらくずっと不穏な展開が続くと思います。
ここまでの話がオアシスに見えるくらいの展開が続くと思うので、覚悟しておいて下さい。
あと、この話を最後にしばらくの間、休載させていただきます。
2~3か月程度になるかと。
五章のプロットをもっと詰めるっていう目的と、公募のための原稿を書くためですね。
ハーメルンに連載している方はまだ連載は途切れないと思うので、ご安心ください。
毎日投稿のスケジュールで公募原稿を書くのはつらいんじゃ……
というわけで、次回もお楽しみに。




