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4-75『家族』

 突然手紙が届いた。その差出人はマナ・デストラーラ。

 戦いの後、忽然と姿を消してしまったマナだが、このタイミングで手紙が来たことでホッと一安心する。

 実はこの数日、マナのことが気がかりで仕方がなかった。


 戦いの後、マナをいくら探しても見つからなかったからだ。

 まぁ、さすがにあれほどの戦いがあったあとに自分が長居するわけにはいかないと考えてこの街を去ったのだろうが、さすがに一言位は欲しかったところである。


 内容的にはだまっていなくなってごめんということと、また一緒に観光しようということが書かれていた。

 口だけじゃなくて、本当にマナは人間のことが好きなんだろうなって言うのが伝わってくる。

 人間に対しては恨みや怒りって言うのも魔族なのだから、あるはずなんだろうけど、人間という種族でひとくくりにしないで、ちゃんと人間というものを見てくれているようで、なんだかちょっとうれしくなってくる。


 人間なんて魔族という一括りで見て、何が何でも魔族を滅ぼそうと考えているひとばかりだからな。それは魔族も多分一緒なんだろうけど。

 だから俺はわからなくなってきている。どうしてマナを倒さなければいけないのか、どうして人間と魔族が争わなければいけないのか……。


 俺は深く魔族というか、マナに関わりすぎてしまったのかもしれない。人間には情というものがある。

 もしかしたら俺はマナに騙されているのかもしれない。情というものを利用されているだけなのかもしれない。

 だけど、俺はもし、本当にマナと戦わなければいけない時が来たら、その時は本気で戦うことができるんだろうか。


 一緒に街を見て歩いている間、俺はマナのことを魔族とは見れなくなってしまっていた。

 ただの無邪気な女の子っていうイメージになってしまった。そんな子を俺は本当に殺せるのか?


「何見てるのよ」


「っ、いや、なんでもない」


 突如背後から声が聞こえてきたため、俺は慌てて手紙を閉じ、『ストレージ』の中に突っ込む。


「今、何か隠した? 手紙みたいに見えたけど、そんなに私に見せられない内容なのかな?」


 にやにやと、まるで男がエロ本を読んでいる場面を発見し、からかっているかのような表情で行ってくるルリハ。

 別にエロ本ではないのだが、マナの手紙なのでやましいブツではある。

 だから、俺は脳を高速回転して打開策を見出す。


「えっと、これは家族からの手紙だ。ルリハにみられるのはちょっと気恥ずかしくてさ」


「へぇ、あなたにも家族がいるのね」


「俺をなんだと思ってるんだ」


 確かに今はもういないようなものだけどな。

 多分、死んではない。どこかで生きているとは思うが、もうずっと会っていないからどこで何をしているのかは知らない。

 まぁ、向こうは身勝手な俺のことなんて忘れて暮らしてるとは思うけどな。


「どんな家族だったのよ」


「……気になるのか?」


「そうね、仲間のことだから」


 仲間……かぁ……。


「俺は四人家族でな、下に二歳離れた妹が一人いるんだ。冒険者学園に通っていれば今年卒業って感じかな」


「そこらへんはっきりしてないの?」


「俺と妹の仲はあんまりよくなかったから……」


 妹はよく俺に話しかけに来てくれていた。妹の方から寄り添ってくれていたんだ。

 だけど、俺は年下の女の子とどう話したらいいのかわからなくて、その時丁度魔法にのめりこんでいたというのもあって最悪な選択肢を取ってしまった。

 俺は妹よりも魔法の鍛錬を取ったんだ。結果、成長していくにつれて妹は俺と話すことはやめて、俺たちは関わらなくなっていってしまった。


 今でもそれを後悔している。

 あの時、妹と仲良くできていれば、俺の人生はちょっとは違っていたのかなとか……。


「そうなんだ……私はハクと仲いい」


「うぐっ」


 そのマウントは俺に効くから止めてくれ……。


「だから、妹と仲良くする方法を伝授して進ぜよう」


「良いよ、別に。多分、もう会うことはないだろうから」


「だめ、家族なんだから。家族は大切にしないとダメだよ」


 顔をそらす俺の頭を掌で挟んで無理やりルリハの方へ向けられる。

 ちょっと前まで帰るのが気まずいとか言っていた人とは思えない発言だな。だが、きっとこうして帰省して家族の暖かさというものを感じたんだろう。

 そんなルリハだからこそ、俺にも家族と仲良くしてほしいって思ったんだろうな。


 でも、無理なものは無理だ。

 俺は、俺という存在はもう死んだことになっているんだから。


「家族って言うのはね、血のつながっている数少ない人たちなんだから、大切にね」


「……善処する」


「ダメ」


「ぐっ、分かった。努力はする。だからもう許してくれ」


 善処って言葉ではぐらかせないかと思ったが、ルリハさんは許してくれなかったから、口先だけでも努力すると言わざるを得なくなってしまった。

 努力するって言っても、どうすりゃいいんだよ。俺はもう家族とは関わることも出来ないって言うのに……。


「ところでさ、ルリハ。両親はルリハたちが冒険者になるって言うのは反対してたんだろ? よく冒険者学校に行くことを許してくれたな」


「冒険者になることを反対されているのは特にハクの方だけどね。私も反対されてはいたけど、魔力の多さから魔法鍛錬は必須だったし、その流れで冒険者の道に進むって言うのはお父さんもお母さんも何となく察してたんじゃないかな」


「逆にハクちゃんはなんで冒険者になるのを反対されているんだ?」


「私も詳しくは知らないけど、昔いろいろあったっぽいよ。それで、冒険者はやめたんだって。オーズさんの依頼でたまに駆り出されることはあるけど、本格的な冒険者業はもうやっていないんだよ」


「へぇ……」


 気になるところではあるけど、人の家のことだからこれ以上突っ込まない方がいいんだろうな。

 ハクちゃんに頼まれたら鍛錬に付き合うつもりではあるけど、俺も俺で冒険者なんて危険なんだから、冒険者にならなくて済むならばならない方がいいと考えている派だ。

 冒険者になって命を落としてきた人たちは今まで何人も見てきている。だから、俺が教えるのは自己防衛ができる程度魔法を使えるようになるところまでだ。

 冒険者のいろはについて教える気はない。


 ルリハたちの意志を無視してルリハの大事な妹を危険に晒すわけにはいかないからな。

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