4-74『二人だけの秘密』
どどど、どうしてだ? いつだ? 気が付いたんだ?
カルマ状態ではそんなに関わっていないはずなのに、どうして感づかれた? 俺はちゃんと気を付けていたはずだ。
今もカルマの時とは違って魔力を抑えているし、姿だって変えている。あのカルマの大ファンであるルリハですら確証は持てないほどの変装ぶりになっているはずだというのに、なんでこの子まで俺の正体に感づいてるんだよ。
えぇ…………ベータテッド姉妹怖っ。
でも、今の聞き方だったら俺が本当にカルマなのかを確認しているというような聞き方だった。つまりは、まだ確信には至っていないということなのだろう。
ならばまだ、ごまかせる余地はあるのか?
「ちなみに私は99パーセント、お兄さんがカルマ様だと考えていますが……どうなんですか?」
あれ? これってごまかす余地なくないですか?
しかし、どこでそこまで確信に至ったんだよ。バルゼットとゼルドガルは例外中の例外だからあれなんだが、まさかハクちゃんに気取られるとは思っておらず、全く警戒をしていなかった。
あの……ここからごまかすことが出来たりってしますか? あ、できない? そうですか……。
答えあぐねている俺の目をまっすぐと鋭い目で見つめてくるハクちゃん。
ルリハのカマをかけるような視線とは違う。俺がどう答えるかによって今後の対応を決めると言った、警戒するような視線。
まぁ、ハクちゃんにとっては大切な姉が身分を偽っている不審者にたらしこまれているようなものだから、警戒はするか……。
ここで変に警戒されて、言いふらされたりしたりしても面倒だし……それにハクちゃんとはこれからも良好な関係で居たい。
……嘘をつくのは悪手だな。
ハクちゃんなら、話せばわかってくれると思う。ルリハにバレるよりかは数倍マシだ。
「そうだよ、俺が元賢者カルマ・エルドライトだ」
「あれ、案外すんなり白状するんですね?」
「まぁ、そこまでバレてたら誤魔化しようもないしね。本当は君にもバレるつもりはなかったんだけど」
「どうして、正体を隠してお姉に近づいたんですか?」
「単純にカルマ・エルドライトという人物は公式的には死んだことになってるし、俺が生きているっていうのがバレたら大変なことになるからだな」
本心は言っていないけど、これはもっともなことだから、嘘をついていることにはならないだろう。
実際に、俺がルリハたちに本当のことを言っていないのはこの側面もあるからだしな。
このことがあるから、俺は頑なにユイやルリハ、メルバードにも正体を隠しているわけだし。
あいつらも大丈夫だろうとは思うが、自分から正体を明かすようなものでもない。あと、魔王軍にも入るという危険行為を犯しているんだから、カルマだとバレることでどんなイレギュラーが発生するかわかったものじゃない。
危険の種は生み出さないに限る。
「知っていました? お姉ってカルマ様のことが大好きみたいですよ? 手紙にもすごいカルマ様の活躍について熱く語っていました」
何あの子、ハクちゃんにそんなことをしてたの?
めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!?
でも、なんとなく想像つく。
俺たちのパーティー内でもオープンでカルマ好きを公言しているくらいなのだから、家族にも隠さず、むしろ興奮して言っている可能性はあるなとは思っていた。
俺の何がそんなに気に入ったのだろうか。
正直言ったらなんだけど、俺の戦いなんて地味だぞ?
賢者の頃なんてほとんど身体強化して殴ってばかりだったし、格好いいって言ったらサックドとかの戦いの方が格好いいだろう。
別に特段俺を好きになる要素が見当たらない。
「…………でも、あなたの様子を見るに、お姉に近づく危険な人っていうわけじゃないみたいですね」
「まぁ、俺は正体は隠しているけど、何か危害を加えるつもりはないよ。むしろ、後継を育てているような気分だ。これからの未来を背負っていくのは俺じゃない、ルリハたち勇者パーティーだからな…………って、こんなことを言うには俺はまだ早いか」
「なんとなくわかっていました。でも、ちょっと確認して見たかっただけです。ごめんなさい……。知らなかったかもしれませんが、私お姉が大好きなんです」
「いや、知ってたけど」
「えっ」
あれでバレていないとでも思っていたのだろうか。
さっきの会話をしている時もハクちゃんは楽しそうだったし、俺がルリハと喋っているとやけに不機嫌そうに見えた。
考えてみるとあれは自分の姉が取られたと思ったことによる嫉妬のようなものだったのだろう。
だから、言われるまでもなく、ハクちゃんがシスコンであることは見抜いていた。
「えっと……だから、お姉に近づく害虫だと思って酷い態度をしてすみませんでした」
「が、害虫……」
そこまで思われているとは思わなかった。
でも、考え直してもらえてよかった。
「やっぱり、あの夜の事、夢じゃなかったんですね」
「あの夜?」
「はい、私に魔力の使い方を教えてくれたあの夜の事です」
あぁ、確かにあれは俺がカルマだということを感づかれないようにハクちゃんには夢だと思ってもらおうと思って白を切っていたんだよな。
俺がカルマだということが分かって確信したっていう所か。
「私、本当にうれしかったんです。お父さんもお母さんも私たちを冒険者にするっていうことは乗り気じゃなかったみたいで……でも、私もお姉みたいに立派な冒険者になりたいんです。冒険者になってこの街の外を見てみたいんです。なので、自分で練習をしていたんですが、どうにも上手く行かなくて……今日、一人の時にお兄さんに教えてもらったとおりに魔力操作をやってみたら、少しだけちゃんと動かすことが出来たんです。それが本当に嬉しくて……」
まぁ、魔力操作なんて目に見えないもの、一人で練習しようとして出来るならそいつは俺以上の天才だな。
俺は保有魔力こそ多いものの、今でも魔力操作が雑になってしまうことが多い。
ルリハの方がずっと俺よりも魔力操作だったら上手だ。俺の場合は多い魔力でごり押してるだけだからな。
人間が親の見よう見まねで腕を動かしたり、物を掴んだりするっていうのとは全く違うんだ。
目に見えない。自分の中の魔力を感じることが出来なければそもそも魔力を動かすことが出来ない。
魔法を唱えれば一応魔力は自動的に動いて魔法を使えるには使えるんだが、自動制御の魔力操作ってかなり無駄が多いんだよな。
あまり効果も期待できない。
だから、魔法を上手く使うためには俺みたいに雑でもいいから自分で魔力を操作できるようにならなければならない。
これが初心者から中級者になるための関門って言ったところだろう。
ハクちゃんはそこで躓いていた。誰にも教えてもらっていなかったとなると、当たり前っちゃ当たり前だけどな。
「私、もっと強くなります。強くなって、お姉たちの助けになって見せます」
「へぇ、勇者パーティーを目指すのか」
「い、いえいえいえ、そこまでおこがましいことは考えていません。ただ、少しでもお姉のサポートが出来ればって」
今の勇者パーティーはそれなりに強くなってきている。
バルゼットにはまだ届かないだろうが、ヴァルモダ位だったらあいつらはいい勝負をするんじゃないだろうか。
そんなパーティーの役に立ちたいというのなら、相当努力しないとな。
「頑張れよ」
ハクちゃんの適性は俺と同じく身体強化系、無属性魔法だ。
無属性魔法は習得が簡単ではあるが、他の属性の魔法と比べると最大火力っていうのが弱い。
俺も《豪拳》だけだと威力が足りないと判断して火属性を付与してハイドを倒した。
決定打で言ったら弱いんだよな。
だから、そこをどうカバーするかっていうのがカギになってくる。
俺の場合は魔力の暴力でごり押しで威力を底上げしているが、ハクちゃんの場合はそうもいかないだろう。
これから強くなれるかっていうのはハクちゃん次第っていうことだ。
「はい、頑張ります!」
でも、ルリハを助けたあの勇気、あれがあるならば、ハクちゃんはどこまででも強くなって行けそうな気がするな。
「それで、ハクちゃんはどうして俺の正体が分かったんだ? 結構俺、頑張って隠してたつもりだったんだけど」
「え、あぁ、声です」
「声?」
「はい、私耳がいいみたいなので、声もちょっと変えてるみたいでしたが、質が似てたので」
声っ!?
まさかあの戦いの最中ちょっとだけ聞いた声とハルトの声を照合して当てたっていうのか!?
もちろん、声でバレるっていうことに関しても対策している。
ハルトの間は喉に魔力を纏わせて少しだけ声を変えている。その甲斐もあって、あのカルマオタクであるルリハからも声で疑われたことはなかったんだけど、まさかそこまで耳がいいなんて……。
「あ、安心してください。隠している理由も理解できましたし、誰かに言ったりすることはありませんから」
「あ、あぁ……それは助かるよ」
なんでそう簡単に俺の正体に気が付くやつらばっかり近くにいるのかなぁ……。
ゼルドガル然り、バルゼット然り、ハクちゃん然り。この数か月の間にバレすぎだろ、俺。
「そ、その代わり……」
「ん?」
「これからも私に魔法を教えてくれませんか?」
「っ、あぁ、もちろんだ」
元々約束していたからな、正体がバレたとかは関係なく魔法の特訓には付き合ってあげるつもりだった。
ハクちゃんは意欲がある。
ちゃんと魔法に興味がある人はちゃんと成長する。だから俺はそんな彼女を見捨てることは絶対にしない。
ルリハの両親にはちょっと申し訳ないことをしている気分にはなるけどな。
「私もいつか、カルマ様みたいになって見せます!」
「お、大きく出たな。それじゃ、そうだな……いつか、俺を超えて見せろ!」
「はいっ!」
そうして俺はハクちゃんと魔法訓練の約束をして部屋を後にした。
やっぱりルリハには俺が居なくなったことには気が付かれていたみたいで、どこに行っていたのか問い詰められたが、とりあえず適当に誤魔化しておいた。




