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4-73『爆弾発言』

 魔人襲撃から一週間が経過した。

 俺はほとんど自然治癒のみに頼ったが、今ではほとんど体の痛みを感じないほどに回復した。もう普通に戦えるレベルだ。

 ただ、『破壊の一撃(デストロイヤー)』の使用についてはまだ控えた方がよさそうだ。


豪拳(インパクト)』や『烈火豪拳(クリムゾンインパクト)』は『破壊の一撃(デストロイヤー)』よりも負荷が少ないとはいえ、俺は戦いで壊れかけの拳を酷使してしまったのだ。

 しばらくパンチで戦うことは控えた方がいいだろう。

 幸いにも俺が一番得意な戦い方が『身体強化(ブースト)』を使用しての格闘っていうだけで、俺は魔法も人並み以上には使える。


 しばらくは魔法に頼って生きていくことにしよう。


「ハルト、私がハクの見舞いに行くときっていつもついてくるよね? ハルトは別についてくる必要ないんだよ?」


「いや、俺だってハクちゃんのことが心配だからなぁ」


 ルリハは退院できた。

 もともと、目立った傷というものもなかったし、検査入院というだけで魔力回路に関しては本人の自然治癒に頼るしかないため、もう退院できたようだ。

 魔法が使えないというだけで、動くには何にも支障はなさそうだ。


 それでルリハが退院したあとはこうして、毎日ハクちゃんのお見舞いに行っている。

 まぁ、ルリハからしたら俺とハクちゃんって接点無いように見えるかもしれないけど、一応俺は師匠らしいしな。

 師匠らしいことは一切していない気がするが、そう呼ばれるのは初めてだったから格好つけたくなってしまった。


 ハクちゃんはまだ目を覚ましていない。

 命に別状はないけど、あれは相当深い傷だったからな。まだ魔法耐性が低いハクにとってはかなりのダメージになってしまったことだろう。

 医師には大丈夫だと言われても、心配になってしまうものは心配だ。

 治癒魔法にも限度というものがあるわけだしな。


「気持ちは嬉しいけど、あの子、あんまりあなたにいい対応してなかったでしょ? あの子、人見知りだから家族以外にはあまりなつかないのよね」


 いや、話してみると結構いい子だったぞ。

 人見知りって言うのもあんまり思わなかったし、結構いい関係になれた気がする。ただ、こんなことを言ったらハクちゃんが隠れて特訓をしていたって言うことがばれてしまうから言わないけど。

 でも、そうだよな。ルリハからみたら俺って別にハクちゃんの見舞いに行く必要ってないんだよな。


「ま、ルリハの妹なら俺の妹でもあるわけだし」


「何その理論、もしかして私を口説いてるわけ?」


「もしそうだって言ったら?」


「ごめんなさい、私には心に決めたカルマっていう人がいるの」


 なんか振られてしまった。しかも、カルマって俺のことだからな?

 まぁでも、ファンであるルリハもさすがにカルマと結婚したいなどと本気では言っていないよな? ……え、言ってないよね?

 とりあえず、今のは軽口っていう認識でいいんだよね? 俺はそのつもりだったんだけど……。


 え、何その目。

 なんか俺のことをすべて見透かしたような目で見てきているけど、本当にカルマだってバレてないよね? 疑われてはいるけど、確証には至っていないはずなんだけど。


 そんなやり取りをしている間にハクちゃんの病室まで到着した。

 見舞いの果物を手に病室へ入る。そこにはいつも通り、ハクちゃんが寝ていて、静まり返った病室があるんだろうなと、そう想像しながら入室したのだが、思いもよらぬ光景がそこにはあった。


「あ、お姉」


「え」


 ルリハは目の前の光景に思わず果物が入ったバスケットを落としてしまったため、俺が慌ててキャッチすると、俺や果物には目もくれず、ただ一心不乱にハクちゃんへと駆け寄った。

 気持ちはわからなくもない。

 なにせ、昨日まで目を覚まさなかったハクちゃんがなんと、目を覚まして体を起こしているのだから。


「は、ハク……目が覚めたのね……本当に、本当によかった」


「ちょ、お姉、くるしっ」


「あ、ご、ごめんね」


 思わずハクちゃんを力いっぱい抱きしめてしまったルリハ。起きたばかりのハクちゃんにはちょっとその刺激は強すぎたらしい。

 息ができなくなったらしく、ルリハが離れたことでホッと息をついていた。

 今度は俺の方に視線を向けてくるハクちゃん。姉妹の感動の再開を邪魔したくはないが、ここで何も反応しないのは人間としてダメだろうからな。


「よっ、無事でよかった」


「……はい、お兄さんこそご無事でよかったです」


 ハクちゃんはまさか俺が見舞いに来るとは思っていなかったのだろう、俺の姿を一瞥して驚いたように目を見開いた。

 そして俺とルリハの姿を交互に見てきたため、おそらく俺が特訓のことをルリハに言っていないか心配しているのだろう。

 いや、でも、その記憶は夢として片づけたんだっけ?


「ハク、あなた一週間も眠っていたのよ」


「うん、聞いたよ。昨日の夜中に目が覚めて、お医者さんに教えてもらったんだ。私、お姉に心配かけちゃったみたいで……ごめんなさい」


「心配するのはお姉ちゃんなんだから当たり前じゃない。そこに負い目を感じる必要なんてないのよ。それに、ハクのおかげで私は今ピンピンしてるんだから」


 腕まくりをし、無い力こぶを作り上げてハクちゃんに元気アピールをするルリハ。

 ルリハも妹の前だとこんなキャラになるんだな。俺よりもずっとお姉ちゃんしてる。


 俺にも妹がいた。

 ただ、俺と妹の仲って言うのはあまりよくなくて、ルリハとハクちゃんみたいな会話なんてできなかった。

 まぁ、ほとんど俺のせいって言うのがあるんだけどな。


 魔法の特訓にかまけてあんまり妹にかまってやらなかった俺が悪い。

 いつの間にか俺たちの溝は修復不可能なレベルにまで広がっていたんだ。


 だから、ちょっとルリハとハクちゃんの関係って言うのがうらやましく感じる。


 ハクちゃんに妹を感じていたのは、俺が妹に兄らしいことをしてやれなかったという後悔から、ハクちゃんと妹を重ねて妹に懺悔するくらいの感覚だったんだろうな。

 だから放っておけなかった。


 二人がこの先も仲良し姉妹であれたらいいなと、そんなことを願う。


 それから二時間ほどが経過した。

 ルリハは一週間ハクちゃんと話せなかった分を取り戻すと言わんばかりの勢いでハクちゃんが気を失った後のことを饒舌にハクちゃんへ語っていた。

 特に俺のことを話しているときだけ妙にテンションが高かったのはちょっと恥ずかしかったが、ルリハはとても楽しそうで、そんなルリハの話をハクちゃんはにこにこしながら聞いていた。


 そして――


「今日はもうお姉ちゃんたち帰るから、ゆっくり休んでね」


「うん、ちゃんと治すよ」


 俺たちは帰る。

 いつものように、ルリハの家への帰路につく。

 だが、ちらっと最後にハクちゃんへ視線を向けてみると、なんとハクちゃんは手招きをしていた。

 それで俺は誰を読んでいるか確かめるためにまずはルリハを指さしてみたが、軽く首を振られてしまったため、今度は俺自身を指さしてみるとコクッと首肯してきた。


 ハクちゃんが個人的に俺に用がある、しかも普通に声をかけるんじゃなく、ルリハにはばれないように呼んできたということは、特訓関連のことか? などと思いつつ、ルリハに気が付かれないようにそっと病室へ戻る。


「どうしたの、ハクちゃん? 特訓なら、まずはその傷を完治させてから――」


「お兄さんって、カルマ様なんですか?」


 時が止まったように感じた。

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