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4-71『オルターンのエピローグ2』

「っ、な、何を言うんだ、君は? 冗談でしょ?」


「オーズ、テメェならオレが冗談が苦手ってこたぁ一番よく理解してるんじゃあねぇのか?」


「本気、なのか」


 そのオーズの問いに本気であることを示すため、自分の手のひらの上に風の玉を作り出してオーズに見せつけた。

 オーズは長年のゼルドガルとの付き合いで分かった。この風の玉に当たれば自分の風前の灯である命は一瞬にして刈り取られてしまうのだろうと。そして、ゼルドガルがこういう場面で冗談を言うような奴ではないということ。

 全てゼルドガルは本気で言っているのだ。


 そんなゼルドガルの暴挙に周りの冒険者も反論したいところではあったが、相手が賢者ゼルドガル・バッドレイだということもあり、この場は黙って事の顛末を見守るしかないと感じ、静観していた。


「そりゃ長生きしたいよ? だけど、僕の身体はそう長くない。だから、今のうちに後継者を決めておかないとっていう話なんだ」


「もし、もしだ。テメェの寿命を長くする方法があるとしたら、テメェは長生きしたいか?」


「僕の寿命を長くする方法? それはいったい……」


「テメェの寿命を縮めているその根本的な要因を排除する」


 オーズの寿命を縮めている根本的な要因、それはもちろんオーズの切り札(カード)『先見の明』の事である。  

 ただ、自分の意思で簡単にオフにすることもできないため、どうしようもないとオーズはずっと諦めてきた。

 これが無くなれば、オーズの身体はもっと休養に専念することが出来る。


 この力はオーズを強くしているものであると同時にオーズを苦しめているものなのだ。


「そんなこと、出来るわけがないだろう。だから僕は自分のこの切り札(カード)に殺されるまで、全力でこの街を守り続けると決めていたんだ」


「それが出来ると言ったら、どうする」


「っ、マジ?」


「あぁ、お前がやってくれというのなら、テメェの切り札(カード)を消し去る用意は出来ている。そこのデスタとかいう男が『悪魔の爪痕』って切り札でテメェの切り札(カード)を消し、そしてそこのメルフィーって女が『永遠(とわ)の祈り』って切り札(カード)で永遠にテメェの切り札(カード)を消す。努力の鬼であるテメェがこの街の冒険者の切り札(カード)を把握してねぇとは言わせねぇぞ」


「……」


 確かにゼルドガルの言う通り、オーズはこの二人の切り札(カード)のことはよく知っていた。

 デスタの切り札(カード)『悪魔の爪痕』は傷をつけた相手の切り札(カード)を一定時間封印するというもの。

 そしてメルフィーの切り札(カード)永遠(とわ)の祈り』は物の状態を保存することが出来るというもの。これを普段、メルフィーは食材の保存などに使用しており、かなり便利なものなのだが、生物に使用すると、生物にかかっている状態異常を何か一つ選んで効果時間を永遠にすることが出来るというとても強力な効果を持っている。


 そのため、理論上ではこの二人の切り札(カード)を組み合わせることによってオーズの切り札(カード)を封印して、オーズを呪縛から解き放つことが可能なのである。オーズも当然、この方法を考えなかったわけがない。

 だが、この方法を使わなかったのには理由がある。


「理論上可能なのと実際に可能なのは違うよ、ゼル君。その力、使うと彼女に凄い負担がかかるんでしょ? しかも、僕の切り札(カード)を消すほどの状態異常となったら、負荷に耐え切れなかったら死んでしまう……僕は彼女にそんなギャンブルは頼めないな」


 そう、メルフィーの切り札(カード)永遠(とわ)の祈りは生物に使うことで状態異常を何か一つ永遠にすることが出来るのだが、この効果の強さによってメルフィーには負荷がかかってしまうのだ。

 それがオーズがこの方法を使わなかった一番の理由。

 物や食材を保存する分には制約は何もない。強いて言えば、メルフィーがそのものがどういうものなのか、どういう効果を持っているのか、そしてどう使うものなのかを理解している必要があるのだが、負荷という負荷はかからない。


 だが、オーズに使用する場合、どれほどの負荷が彼女にかかるかわかったものではない。


「もちろん、その辺の話はそこの二人にはすでにしてある。二人とも了承してくれた。だから、後はテメェの判断だけだ、オーズ」


「え、二人とも、本当にいいの? もしかしたら死ぬかもしれないんだよ?」


「えぇ……それでオーズさんがこれからもこの街を纏め続けてくださるのでしたら、私は構いません」


「デスタ君も、妻が死ぬかもしれないんだよ? 君はそれで本当にいいの?」


「良いわけがないだろ」


 了承したというものだから「大丈夫」という言葉を口にするものだと思っていた周りの冒険者たちは驚いた。

 でも、それは当たり前の考えだ。妻が死ぬかもしれないという条件を簡単に了承することが出来る夫なんてこの世界に居るはずがない。

 しかし、それではあとはオーズの判断次第というゼルドガルの前提が崩れてしまう。


 どういうことなのかと考えていると、静かにデスタが口を開いた。


「良いわけがない、良いわけがないが、俺たちは元々二人とも冒険者っていういつ死んでもおかしくない仕事をしていた。だから、俺たちは死という覚悟はとっくの昔から出来ているつもりだ。そして、今回は妻が自分の意思であんたを助けたいってそう言っている。俺の妻があんたになら命を賭けることが出来るって、そう言っているんだ。だから、オーズさん。あんたはただ、その幸せを享受しておけばいいんだ」


 デスタの言葉には重みがあった。

 デスタもゼルドガルに言われてから悩みに悩みぬいた結論だった。

 オーズが診療所に運び込まれて、すぐにゼルドガルは同じく診療所にて目を覚ましたばかりのデスタに自分の考えを告げた。ボロボロで、意識を取り戻したばかりでまだ精神が不安定な状態のデスタにだ。

 そんなことを言われてデスタは冷静でいられるもなく、ゼルドガルに殴り掛かったが簡単にいなされてしまい、ただ、ゼルドガルの考えを聞くしかなかった。


 それから、今の今までずっと考え続けていた。

 そして、これがデスタの出した結論というやつだった。


 そんなデスタから発せられる言葉は今はゼルドガルの言葉よりもずっと重みがあった。


「……でも、この切り札(ちから)が無くなったら僕はただの人間だ。そんなただの人間には君たちは興味なんてないでしょ? 君たちは自分より弱い相手に従うのを嫌がっていたじゃないか」


 オーズが思い出しているのはこの街に来たばかりの頃、ギルドマスターになろうと奮闘していた最初の頃のことだ。

 彼らが何度もオーズを追い返そうとしていた理由は自分たちよりも弱いからということだ。

 だから、今自分が力を無くせば、彼らも自分に興味を無くし、自分にはついてこなくなるんじゃないかと考えていた。


切り札(カード)が無くなった僕には価値なんてないんだ。なら、切り札(カード)が無くなった俺に価値なんてものはない。君たちもそんな僕には従いたくなんてないでしょ?」


「いや、それは違うぜ、ギルドマスター」


 一人の冒険者がそう口にした。

 そしてその冒険者に続くようにして他の冒険者たちも口を開いていく。


「あぁ、確かに昔の俺たちは実力主義で、俺たちよりも弱い奴をギルドマスターには認めなかった」


「だが、今はあんただけなんだよ。俺たちをまとめ上げられるようなやつはあんたしか居ない」


「力が無くなったって、あんたはいつまでも俺たちのギルドマスターなんだよ」


「君たち……」


 オーズは見くびっていた。

 みんなのオーズへの忠誠心を、そして自分がどれほど慕われているのかを、分かりかけては居たが、ちゃんとわかってはいなかった。

 自分が力を無くせば、みんな自分に興味を無くすことになるだろうと勝手に考えていたが、そんな心配なんて全然いらなかった。みんな、オーズの力ではなく、今はオーズそのものを見ていた。

 オーズという人物を慕い、オーズという人物についてきていた。そこに力も何も関係ない。


 オーズがオーズという人物であればそれだけでいいのだ。


「本当に君たち、いいのか?」


「あぁ、俺たちはオーズさんが生きてればそれだけで充分だ。これはこの街に居る冒険者の総意だぜ」


「…………」


 オーズは天を仰いだ。

 まさか自分自身を見てこれほど慕ってくれている人が居るとは思ってもおらず、冒険者たちの言葉に涙がこぼれ落ちそうになってしまったため、それがこぼれないよう天を仰いだの。

 そしてそんなオーズに改めてゼルドガルは問う。


「オーズ、もう一度聞くぞ。今すぐにこれから先も長生きするか、今ここで死ぬか……二択だ」


「はは、これじゃあもう、選択肢なんて無い様なものだろ。酷いなぁ、ゼル君ってこんなに外堀を埋めてくるような人だったっけ? 僕の記憶の中の君はその時その時を生きていて、考えもなく突っ込んで行くような人だった覚えがあるんだけど」


「ま、オレもちったぁ成長してるってことだ。特に、テメェみたいな堅物理論野郎を落とすには話をする前に万全の準備を整えなければ説得なんてできやしねぇって思ったからな」


「ははは、間違いないね。そうだ、その通りだ。僕は君に言われただけだったら納得はしなかっただろうね」


 でも、これだけ多くの冒険者、メルフィーやデスタと言った当事者、そして親友にここまで言われてしまっては、ここで断るとオーズが悪者になってしまう。

 ゼルドガルが問いかけているようで、これはまるで問いになっていない。オーズがここで断るという選択肢を取れないということを分かったうえでわざと選択肢があるかのような言い方で聞いているのだ。

 これはオーズがよくやるやり方だ。それをゼルドガルが模倣した。


 昔のゼルドガルだったらこんなことはしなかっただろう。

 でもどうやったら親友を救うことが出来るのか、それをゼルドガルなりに真剣に考えた結果だった。


「さぁ、選べ。生きるか、死ぬか」


「はは、成長したと言っても、その選択肢が君っぽいね……わかったよ、選べばいいんでしょ?」


 そして一拍を置き、オーズは答えを告げた。


「僕は、生きるよ。生きて、この街をこれからもまとめ上げて見せる。みんなの期待に応えて見せるよ」

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