4-70『オルターンのエピローグ1』
魔人たちは全て撃破することが出来、一件落着したかのように思われた。
だが、まだ解決していないことが一つ存在していた。それはオーズ・ウケイランドのことだ。
彼の身体はボロボロの状態で、無茶をしたら古傷が開いて命にかかわりかねないという状況。そんな状況で無茶をしてしまったものだから、古傷が開いてしまい、一時は死にかけた。
オーズは他の誰もなることのできなかったオルターンのギルドマスターで、この街の戦力の要ともいえる存在。
彼の身体的に、本格的に戦うということはそうそうないが、それでも彼が居ることによって冒険者たちの統率が取れていたというのは事実。彼が死ぬというのはこの街にとって大問題だった。
そのため、彼を生かすため、緊急処置が行われた。
多くの『治癒』使いが招集され、彼を延命処置され、傷を決して塞ぐことというのはできないが、何とか最低限生命活動が出来る程度の処置はされた。
だが、彼の身体にはもっと根本的な問題というものが残されていた。
それは――
「ここは……」
「っ、オーズギルドマスターが目を覚ましました!」
オーズが目を開け、声を出すと近くにいた治癒師が叫んだ。戦いから実に、丸一日後だった。
オーズが目を覚ますまでの間、複数人の治癒師たちが交代で常に『治癒』をオーズにかけ続けていたのだ。それは、オーズがいつ目を覚ますかわからないため、オーズの様子を見るためというのと、オーズの肉体が『治癒』をかけ続けていないと死んでしまうというのがあった。
そのため、必ずオーズの近くには治癒師が一人は付いていたのだ。
そして、その治癒師の叫び声を聞き、多くの冒険者たちがオーズの病室へと集まってきた。
「本当に、目を覚ましてよかったです」
「俺たち、ギルドマスターが死んだらと思ったら、夜も眠れませんでした」
「大げさだなぁ、君たちは……」
はははと笑うオーズ。
オーズは気が付いていなかったが、数年この街でギルドマスターを続け、最初こそ彼を認めないという冒険者も多かったが、彼の仕事ぶりを見て今ではオーズのことを慕っている冒険者も多いのだ。
これはオーズの努力の結果であり、オーズの求めていた功績というものでもある。
ばらばらだったこの街の冒険者たちをまとめ上げる。それは想像を絶する苦労の末に成り立っているものである。
これはオーズにしかできないことだ。だから、オーズの代わりというものは誰も存在しない。
ゼルドガルに置いていかれているなんてことはなかった。
人はそれぞれ得意分野というものが違う。オーズはこの分野において、ゼルドガルにもできないことを成し遂げて見せていたのだ。
「オーズさん、目が覚めてよかった」
「本当に……あなたが死んだらこの街の冒険者を纏めることが出来る人は居なくなってしまいますから」
「ベータテッド夫妻……君たちには大変な役目を任せてしまったようだね。だけど、僕の判断は間違ってなかったようだ」
オーズの言葉に苦笑いを浮かべるデスタとメルフィー。
実際はガラドを撃破したのは魔族のマナなのだが、魔族と共闘したなんてことを大声で言うことは出来ないため、自分たちが撃破したということを否定することは出来ず、ただただ苦笑いを浮かべることしかできないのだ。
「君たちは冒険者を引退したというのに、君たちに戦わせて申し訳なかった。君たちには何度頭を下げても足りないくらいだよ」
「いや、そんな。頭を下げないでくれよ、オーズさん。俺らだって元冒険者だ。この街の危機だっていうんなら、命がけで戦うさ」
「君たちの娘二人も戦いに巻き込まれて重傷を負ったっていう話をさっき治癒師の方から聞いたけど、大丈夫なのかな?」
「まぁ、俺たちの娘ですから。あの子たちは強いぞ。命には別条はないそうだ。ルリハの方は魔力回路にちょっと異常があるだけで、普通に飯も食っていたらしい。ハクの方は目が覚めてないけど、死ぬことは無いみたいだから、とりあえず安心だな」
「そうか、それはよかった」
オーズはデスタの言葉に微笑んだ。
しかし、その表情は戦い前の物とは違ってかなりぎこちないものとなっていた。
そう、オーズの身体は魔痕よりももっと根本的な問題がずっと蝕んでいたのだ。
「それで、ここからが本題なんだが、オーズさんのことを診た治癒師が言っていたんだが……」
「僕の余命は幾ばくも無い……そう言うことだね」
「知っていたのか」
「僕の身体だ。他の誰よりも僕が一番よく知っている」
そう、オーズは気が付いていた。
自分の寿命があと少ししかないということ。そして、その寿命が今この瞬間も刻一刻と迫ってきていることに。
それでもオーズは平静を装って何事もなかったかのように日々を過ごしていた。自分の命が尽きるその日まで、全力で今を生きようと戦っていたのだ。
だが、先日の戦いで無茶をしてしまったことによってその短くなってしまっていた寿命がさらに短くなってしまった。
目を覚ましてからオーズは誰にもバレない様に『先見の明』で一年後の未来を見ようとした。
だけど、オーズの目には何も映らなかった。
オーズの『先見の明』にはある特徴がある。それは、常に数秒後の未来を見ることが出来るようになっており、能動的に発動することによって遠くの未来も見ることが出来るというもの。
そして、自分が死んだ後のこの世界の未来は見ることが出来ないというものだ。
つまり、オーズは一年後には自分は死んでしまっているのだということを悟っていた。
だが、悲しくはなかった。
ここまでオーズは全力で生きてきた。そのため、もう後悔という後悔は特にない。
強いて言えば、ゼルドガルに追いつくことが出来なかったということだが、あれはああいう生き物なのだと考えることで踏ん切りがついた。
「ごめんなんだけど、僕が死んだあと、デスタ君にギルドマスターを任せられないかな。僕は君ならば、この街のギルドマスターが務まると考えているんだ。君の実力があれば、鍛錬を続けることでもしかしたら賢者に届きうるかもしれない。君が、適任だと考えているんだが、どうだろうか」
「馬鹿な事を言わないでもらえるか?」
「……というと?」
「理由は三つある。まず一つ目、俺はもう冒険者じゃない。二つ目、俺にはあんたみたいにこの街の冒険者を纏めるなんてことは出来ねぇ。三つ目、あんたなんだよ、あんたしかいないんだよ、この街、オルターンのギルドマスターはよ。あんた以外に務まると思ってんのかよ。自分の代わりはまだほかに居るとでも思ってんのかよ。ふざけるな、この街を纏めることが出来るのも、この街の冒険者が慕っているのもあんたしかいないんだよ。あんたが来るまで誰一人として今までギルドマスターをやろうとした奴らを認めなかった冒険者が今、あんたをこれほど慕っているんだ。あんた以外に代わりが務まると思ってんのかよ!」
デスタが両腕を広げて言い放つ。
そしてオーズが周囲に目を向けてみると、デスタの言葉に同調するように冒険者たちが口々に「そうだそうだ」とデスタの言葉に同意した。
この場に居る冒険者は全員オーズ以外にギルドマスターを認めるつもりは無いし、オーズが死なないことを祈っている。ここでやっとオーズは自分がこの街の冒険者たちに慕われているということを知った。
彼は知らず知らずのうちにこの街の冒険者の象徴的存在になっていたのだ。
「でも、僕はもう死ぬんだ。だから、これから先もずっとギルドマスターをやるっていうことは……」
「死なせねぇ」
「っ」
突如乱雑に病室の窓がこじ開けられ、風が病室内に吹き込んできた。
同時に聞こえてきた声にオーズは驚き、弾かれるようにして窓の方へと視線を向けた。
すると、そこに居たのは賢者ゼルドガル・バッドレイだった。彼は賢者として忙しいため、オーズは自分を診療所に運んだあと、すぐにこの街を去ったものだと思っていた。
だから、この場に居ないのも当然だと思っていたのだが、思わぬ登場にさすがにオーズも驚愕した。
「なんだオーズ驚いて。テメェは未来を視れるんじゃなかったのかぁ?」
「それはそうだけど……でも、どうしてここに?」
「テメェ、今すぐにこれから先も長生きするか、今ここで死ぬか選びやがれぇ」




