1-13『魔人の核』
「ハルト君!」
「ユイ、今はあいつを見る」
「で、でも……うぅ、わかった」
いや、それが正解だ。ルリハはかなり冷静な判断が下せるようだ。戦いという場においては一瞬の判断の遅れが致命的なダメージにつながる可能性がある。
非情だなんて思われるかもしれないが、ぶっ飛ばされた仲間のことをかまっている余裕があるならば目の前の敵に集中した方がいい。そういうことをするのは俺たちサポーターの仕事なわけだからな。
まっ、そのサポーターがぶっ飛ばされたわけだけどな。
「ふ、ふは、ふははは、強い、強いぞこの力は!」
突如として気味悪い笑い声をあげる青年。その顔はまるで正気とは思えないほどに目がキマっており、真っ黒な隈もできていた。
ぼさぼさで若干紫色かかっている黒髪、そしてまるで放浪者かとも思えてしまうほどのボロボロの衣服を身に纏っていた。
「あなたは一体何を」
「あ? あぁ、まだ居たのか。弱すぎて気が付かなかった……。それで、何をしようとしているのか、だっけか? ダンジョンの改変だよ」
「っ、それって」
「そう、これからこのダンジョンの情報を書き換え、Sランクダンジョンとして生まれ変わらせる。このダンジョンがSランクになったらどうなるのか……興味がわかないか?」
にやにや笑いをしながらそんなとんでもないことを言い放ってくれた。
ダンジョンの改変って現在はまだ解明されていなかったはずなんだが、なぜこいつがそんな力を持っているんだ。
いや、予想は付いていたが、このダンジョンでそんなことをされてしまっては大惨事。大勢の死傷者が出るぞ。
「あは、あははは、あひゃひゃひゃひゃひゃ」
「っ、どうやってそんなことをしているのか分からないけど、このダンジョンでそんなことをしたらどれだけの被害が出るかわかってるの?」
「あぁ、当然さ。わかっている。このダンジョンの近くには王都があったな。ここがSランクになればあそこが真っ先に被害を受ける。そうなれば王都は潰れ、この国は大混乱だろうな」
「そ、それが分かっているならなんでこんなことをするんですかっ!」
「復讐だよ。俺の力を正当に評価しない奴らへのな」
俺はこいつのことを知っている。だからこそ俺は「こいつは何を言っているんだ?」と首を傾げることしかできなかった。
「ガルガ・レイヴン。Sランク冒険者……充分評価されているじゃないか」
「お? まだ生きていたのか」
「ハルト君!」
「よかった、無事だったんだ」
こいつは二年くらい前まで王都でも指折りの冒険者として活躍していた男だ。そして俺とこいつはほとんど同じくらいの時期に冒険者になったから結構絡まれた記憶がある。
だが、二年前から行方不明だと聞いていたから少し心配していたんだが、どうやら心配する必要はなかったようだな。こんなにピンピンしているんだから。
「確かに俺はSランク冒険者だった。だが、俺の力はこんなところでとどまる物じゃねぇ。俺は賢者、いやそれ以上にもになれる存在なんだ! こんなSランク如きで埋もれてていいわけがねぇ。そんな俺の実力を正当評価しない世界は必要ないと思わないか?」
「そんな、そんなことのためにこんな恐ろしい事件を起こしたんですか!?」
「そんなこと、だと?」
瞬間、暴風にも似た殺気が周囲に解き放たれる。
さすがにこれには俺もまずいと感じるほどで、Bランクの二人からしたら蛙が蛇に睨まれているようにも感じるほどだろう。
するとガルガはユイに手のひらを向けた。
「『バルマ』」
「ユイっ!」
ガルガの手のひらから放たれた漆黒の魔弾。ユイのスピードならば攻撃に気づいてすぐ回避したら間に合うくらいのスピードなのだが、殺気に充てられて全く動けなくなっている様子だった。
咄嗟に体が動いた俺は全速力で飛び出し、ユイの体を横から突き飛ばして、射線から外すことに成功したものの、代わりに俺がバルマに直撃、そのまま俺の体は再びぶっ飛ばされて壁に体を激突させた。
ダメージ自体はたいしたことは無いが、さっきからぶっ飛ばされてばっかりだなとため息をついてしまう。
俺はベースボールの玉でもサッカーボールでも無いし、壁役になるためにサポーターになった訳でもないんだが……。
「ハルト君……くっ、よくも……」
「はっ、お前が悪いんだぞ? 俺の思想を否定するからなぁ! だからあいつは死んだ」
いや死んでないぞ、勝手に殺すな。
「違う。悪いのはどこまで行ってもお前だ。そんな事のために国を滅亡に追い込むのは間違ってる。ハルトとは短い付き合いだったけど、それでも彼は私たちの仲間だった。絶対に許さない」
そーだそーだ――待て、だから死んでないって。
「ハルト君の敵、取らせてもらいます」
「死んでねぇよ! 勝手に殺すな」
どいつもこいつも勝手に殺しやがって! そんなに死んで欲しかったのか!?
あと、ルリハに至っては途中までまともなことを言っていたから完全に肯定しそうになったじゃねぇか。
「まだ生きてるのか。しぶとい奴だな」
「それが取り柄なんで」
しかし参ったな。BとSの間には高すぎる壁がある。俺が身体強化を二人にかけたところで勝てるかどうか分からない。
こうなったら正体バラして全力で倒す? いや、それは最終手段だ。
このブレスレットは余程の事がない限り絶対に外すなと言われてるんだよな。
「ん?」
どうしようかと考えつつ天井へと目を向けると、そこには紫色に妖しく輝く球体のようなものが浮き、回転していた。
それからは妙な力を感じる。
「おい、あれはなんだ?」
「あれ? あぁ、あれは魔人の核って言うらしいぜ。詳しいことは知らないが、あれの力を使えばこのダンジョンを魔改造する事が出来るってわけだ」
聞いたのは俺なんだが、少し驚いた。
「へぇ……随分と素直に言うんだな」
「このまま蹂躙されるだけじゃ可哀想だからな。俺からの施しだ、有難く受け取れ」
「ふぅん……よしユイ、ルリハ。目標は決まったな」
「はい!」
あの魔人の核を破壊し、このダンジョンの改造を止める。これがこのバトルの勝利条件。
「『身体強化』」
まずはユイに身体強化を施す。
ちょっと予定とは違うけど、この戦いに勝つことが出来れば大きく成長できるのは間違いないだろう。
だから全力でサポートをする。
「ありがとうございます、ハルト君!」
ガギィィィン!
身体強化を受けたユイはガルガの真正面から踏み込んで直線で斬りかかり、ガルガはそれをどこから取り出したのか分からない剣で受け止めた。




