4-67『もし道を誤らなければ』
「俺は魔人になった後、多くの人々を殺してきた。自分の中に渦巻く破壊衝動に従うように、人間を全て消すつもりで行動してきました。その過程でガラドとテライも巻き込んでしまいました。これが俺の罪です」
ハイドの罪、そしてそこに至るまでの経緯をすべて聞き、俺は何も言えなくなってしまった。
確かにハイドのやったことは許されることではないし、その罪は死を持ってしか贖うことができないのかもしれない。
だが、それにしたって、ハイドのこれまでの人生が悲惨すぎて、全てを責めるということが俺にはできなくなってしまっていた。
ハイドも昔は冒険者をやっていて、大切なパーティーメンバーをすべて失うと同時に人への信用も失ってしまった。
もう何も信じられなくなってしまった所に魔人化してしまった。
魔人化していなければ、ハイドはここまでの事件を引き起こさなかったかもしれない。だが、魔人化したのが運の尽きと言ったところだったんだろう。
聞いていて思った。
ハイドの境遇っていうのは冒険者である以上、誰にだって起こりうることだ。そして、その誰にだって起こりうることが、ハイドの場合、最悪の方へ転がっていってしまったということだ。
俺だって一歩間違えたら賢者では無く、ハイドと同じ立場になっていたかもしれない。俺だって魔人に昔のパーティーメンバーを全員殺されているのだ。
俺とハイドの違い、それは周りに仲間が居たかどうかということだろう。
パーティーメンバーを失った俺の隣にはギルドの仲間たちがいっぱい居た。だが、ハイドを励ましてくれる人はだれも居なかったから、何でも良いから縋りたかったに違いない。
俺は許せない。
ハイドがじゃなく、ハイドをそそのかして魔人に変えたやつ。恐らく口ぶり的にそいつがすべての元凶と言ったところなんだろう。
だが、それはそれとしてけじめはきっちりとつけなければならない。
これほどの被害をもたらしてしまったハイドを可哀そうだからと言う理由で野放しにするということは出来ない。
俺はハイドに同情はするが、容赦はしない。
ここで手を抜くというのは優しさではない。
俺は賢者として、魔人ハイド・バッカスを討伐する!
その次の瞬間、俺の視界はもとに戻っていた。
俺とハイドの土塊の拳がぶつかり合い、周囲に衝撃波は放たれる。
とてつもなく重い一撃に思わず俺は顔をしかめてしまう。
ここで負けてしまったらこれからもハイドはその衝動に身を焼かれながら戦い続けることになってしまう。
魔人化してそれなりに長いだろうに未だに罪の意識を抱いているということはハイドは魔人化したことを強く後悔しているということなのだろう。
なら、ここで終わらせてあげたい。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ドゴオォォンという轟音を鳴り響かせ、土塊の拳が完全に破壊された。俺の蓄積されたダメージを上乗せした一撃のほうが強かったようで、貫通してハイドの顔面に向かっていく。
そこでハイドは俺の拳をキャッチするようにして手のひらを向けてきた。
ハイド、今戦っているのはお前の意思なのか? どうなんだ?
辛いんなら、後悔しているんなら、もう、抵抗しないでくれ……っ!
「切り札『壊滅掌命』」
「ハイドぉぉぉぉぉっ」
俺の拳がハイドの手のひらに触れた瞬間、俺の炎と魔力が消されていく。だが、それに負けじと次々に新たな魔力を拳に送り込み、燃え上がらせる。
ハイドの力を上回るほどの勢いで攻撃をしたらハイドにダメージを与えることが出来るはずだ。だから、この後のことなんてもう考えない。
他の魔人はこの街の人とマナがなんとかしてくれていると信じて、後先考えない全力をハイドへとぶつける。
ハイドが自分の力を正しく使うことが出来ていればハイドはどれほどすごい冒険者になっていたのだろうか。
俺とハイドは境遇が少し似ているところがある。だから、もし道を誤らなければ俺とハイドは俺とゼルドガルのような関係になれていた可能性もある。
もう後戻りはできない。
ハイドはもう謝って許される次元を優に超えてしまった。だから、俺がここでハイドを打ち倒すしかない。
だけど、もしそんな未来があるんだとしたら、俺はちょっと見て見たかったかもしれない。こいつが闇落ちしなくて済んだ世界線。
「ハイド……」
「あ?」
「来世は間違えるなよ」
拳の炎が燃え上がり、俺とハイドを包み込む。
俺たちを包み込む炎は俺とハイドを焼き焦がし、俺のパンチ力と炎量は身を焦がす炎からのダメージによって増幅していく。すでにハイドの切り札で打ち消すことが出来るほどの炎量はとうに超えていた。
そして――
「だあああああああああああああああああああああああああああ」
俺の拳はハイドの手を弾き飛ばし、ハイドの顔面へクリーンヒット。ハイドのことを燃やしながら殴り飛ばした。
「はぁ……はぁ……」
今のは俺も結構危なかった。
もう少し拮抗していたら俺は自分の身すら焼き、自滅してしまう所だった。あまり火力を上げすぎると自分の身そのものを滅ぼしかねないから、この技は調整が必要だな。
俺の身体の炎はすぐに消火。だが、ハイドの身体を燃やす炎はなおもごうごうと燃え続けている。
あのままだったらハイドの身体は燃え尽きて灰になってしまうだろう。そして、長いこと苦しみ続けることになる。
だから、介錯の意味も込めてとどめを刺してやろうとしたその時。
「『狂化』」
「っ!」
あいつ、まだやる気なのかよ。
本当に勘弁してくれ。こちとらだいぶ満身創痍なんだぞ。
今の『烈火豪拳』でだいぶ魔力を使ってしまった。そのため、魔力量も枯渇しかけており、ふらっふらで今にも倒れそうだ。これほどまでに魔力を消耗したのは久しぶりかもしれない。
間違いなく鍛錬している分、エイフィルよりもハイドの方が強い。よく被害をこれだけで収められているなと自分を褒めたいくらいだ。
だが、これ以上は無理だ。
しかも、ここから『狂化』の相手をするのは本当に無理だ。ワンチャンマジで俺たち、死ぬかもしれないな。
だから、最後にハイドに言っておきたいことがある。
「ハイド、お前はそんなことをしたくて、力を手に入れたのか!? お前の人間へのその憎悪、それは本当にお前自身の物なのか!?」
「っ」
「確かに、最後は最悪だったかもしれない。人間の裏の部分、弱い部分を見てしまったのかもしれない。だけど、人間はそれが全てだったのか!? お前にとって、あのパーティーはもっと暖かいものだったんじゃないのか! 人間は、お前が思っているよりもずっと、いや、お前が思っていた通り、暖かいんだ! お前、本当は後悔してるんじゃないか?」
あのパーティーの最後はそれはそれは悲惨なものだった。
だが、あれは極限状態によって生み出された狂気の産物でしかない。普通に探索に成功していたら、今もあんなことにはなっていなかったことだろう。
だから、あれが人間の全てだなんて思って絶望しないでほしい。ハイド自身も狂気に飲まれて、過去を全てなかったものにしないでほしい。
ハイド……お前は――
「お前は、冒険者になれるっ!」
「っ!」




