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4-65『ハイド・バッカス3』

 走る。

 メイと共にはぐれてしまったユナとアズマの姿を探してダンジョン内を走り続ける。

 正直、今俺たちがいる場所がどの辺りなのか、それすらもわからなくなってしまっていた。それほどに無我夢中で、生きるために必死に逃げてきたのだ。


 まだ二人共死んでいないと信じたい。

 あの二人は俺と同じBランク冒険者だ。そんな簡単にやられるほどやわな奴らじゃないはずだ。

 だから、どこかで生き延びていることを俺たちは願い走り続ける。


 頭がどうにかなってしまいそうだった。

 無機質な洞窟内、永遠に続くかと思うほどの道のり。仲間とはぐれてしまったという事実が俺たちに精神的負荷をかける。

 正直メイが居なければ俺はもうすでに壊れていたかもしれない。


「ハイド、大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ」


「少しは休んだほうが良いんじゃない?」


「いや、大丈夫」


 俺に休んでいる暇なんて無い。こうしている間にもユナたちが死にそうになっていると考えるだけで休もうにも休めなくなってしまう。

 それなら限界でも足だけは動かし続けて、一刻も早くユナたちを見つけたほうが精神的にはいい。


 既に足は限界が訪れていて、走ったりなんかしたらもつれて転んでしまいそうな足取りになってしまっていたが、俺は足を止めるようなことはしない。

 俺は意地になっていた。

 本当はここでメイの言う通り、休むべきだったのかもしれない。でも、俺は胸騒ぎがして仕方がなかったんだ。

 だから、歩き続け――


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 突如としてダンジョン内にユナの悲鳴が響き渡った。

 その声を聞いた俺とメイは互いに顔を見合わせると、悲鳴の聞こえてきた方へと走り出した。足の限界が来ていて、もつれそうになってバランスを崩すが、なんとか体勢を立て直し必死に走る。

 そして――


「――えっ」


 曲がり角を曲がった先の光景を見て絶句してしまった。


 地べたに仰向けで倒れ込んでしまったユナ、そしてそれに覆いかぶさるアズマ。まるでユナがアズマに押し倒されているかのような状態だが、ユナは全く抵抗する様子はない。というか、微動だにしない。

 何が起こっているのか、全く理解することが出来なかった。


「おい、アズマ……これはどういうことだ」


 震え声でアズマへと声をかける。

 頭では多分、状況を理解しているのだろう。だが、理解したくないと脳が叫んでいて、俺の頭の中がぐちゃぐちゃになっている。


「あぁ? あぁ……見てのとおりだ。魔物にユナが殺された。俺が居る中、不甲斐ないばかりだ」


 暗い口調でそう告げるアズマ。

 ユナが死んでしまった、そのショックがとても大きく、頭の中が真っ白になってしまった。他にも色々と聞かなければいけないことはあるはずなのに、何も考えられない。

 ただ、俺は動かなくなってしまったユナと覆いかぶさるアズマの姿を眺めながら固まるしか無かった。


 だから、そんな俺の代わりにだろう、メイが問いかけた。


「ユナちゃんが殺された……それは分かった。だけど、君……服を脱ぐ必要はあるのかな?」


「っ!」


 そう、アズマはユナに覆いかぶさるだけではなく、ズボンを脱ぎ、半裸の状態になってしまっていたのだ。


「いや、これは……」


「それにユナちゃんの胸に突き刺さってるそのナイフ……それは君が昨日、武器を新調するっていって買っていたものじゃないか。どういうつもり?」


 俺はそこでようやく我に返った。

 見てみると確かにユナの胸には昨日アズマが買っていたナイフが突き刺さっていた。それに関しては俺も買い物に付き合っていたから、あれが間違いなくアズマが買ったナイフだって言うのが分かる。

 そして、さっきまであのナイフで魔物と戦っていたんだから、前衛同士で共闘している俺たちは互いの武器をよく見ている。


 俺は素手、アズマはナイフ。

 隣で戦っていた俺がアズマの武器を見間違えるわけがない。


 だとしたら、あのナイフはなんでユナの胸に刺さってるんだ?


「君、答えようによっては今ここで首を落とすよ」


「…………」


 メイはもうすでに答えにたどり着いている。

 だけど、わざわざアズマに答えを委ねているのだ。それはメイも勘違いであってほしいという思いがあってのことなのだろう。

 ここまで一緒にやってきた仲間が……何ていうことは考えたくはなかったから。


 だけど、俺たちは現実を突きつけられることになってしまった。


「だってよ、仕方ねぇじゃん! あんな強い魔物が居て、俺たちが勝てるわけがない! このまま逃げ続けていても、最後には殺されるだけだ! それじゃあ、あまりにも辛いじゃん。苦しいじゃん! だから、最期くらい、俺もいい思いしたっていいだろ! もともと、ユナとメイの身体は良いなと思ってたんだからさ、死ぬ前くらい、良い思いさせてくれたって良いだろ! だって言うのに、こいつは俺の誘いを断って、出来るかも分からねぇ、俺たちが合流して地上に出るという希望をつらつらと並べやがる。俺はそこまでポジティブにはなれねぇんだよ! なんだ? お前らのリーダーはいつでもポジティブ思考で、どこまでも引っ張っていける完璧なやつに見えたか? 残念、これが本当の俺、ネガティブ思考で、常に悪い方向に思考が向いてしまう。だから今回も生き残れるかもなんていうポジティブ思考にはなれねぇんだよ。馬鹿野郎……俺を買いかぶるんじゃねぇ! こいつも最期の最期までそんなキラキラした幻想を吐きやがった。一緒に生きて帰ろうとか、ふざけるな。出来るわけねぇだろ! 出来もしねぇ幻想を吐きながら、俺に呪いを浴びせてくる。生きる希望を与えようとしてくる。希望なんて抱くだけ苦しくなるだけだ。……だから殺したんだよ」


「っ!」


 さらにアズマは捲し立てるように言った。


「はは、びっくりしたか? これが俺、アズマ・テスロノッドと言う人間なんだよ! お前らがいつも見ていたのは偽りの俺だ、明るく元気に振る舞おうと頑張っていた俺が作り出した偽物のアズマなんだよ! 俺にお前らを引っ張っていけるほどの器量なんてねぇんだ。それを勘違いして、俺に全部背負わせるな! もううんざりなんだよ。俺たちはここで死ぬ。だから、最期に良い夢を見せてもらうんだよ」

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