4-61『ルリハ/オーバーライド』
必死に言葉を投げかけていると、ルリハの手が抱きしめている俺の腕にそっと優しく重なった。
そのことにハッとしてルリハの表情を見てみると、さっきまでのような怒りに我を忘れたような表情ではなく、なんだか申し訳なさそうな表情をしていた。
そのことに俺はほっと一安心する。
「また、迷惑をかけてしまいましたね」
「また? いや、別にこれくらいなら迷惑でも何でも無いよ」
またっていうのがちょっと引っかかったけど、ルリハはガルガの時とか、エイフィルの時なんかも助けてるからその時のことを言っているのかと思って納得する。
ただ、あれらも別に迷惑という迷惑をかけられた気はしないし、俺の方こそルリハには助けられているからお互い様っていうものだと思っていたんだけど。
「私、ハルトっていう仲間には無茶をするなって言ってるんですけど、そういう私が一番無茶をしてしまうところがあって……今も医者からは魔力回路を酷使するなって言われていたのに、我を忘れて魔法を乱発してしまっていました。カルマ様に助けてもらえなければ私は取り返しのつかないことになって後悔していたと思います」
「いや、でも、ハクちゃんを攻撃されたんだからこれは仕方がないよ。姉として当然のことだと思う。俺もルリハの立場だったらどうなっていたか分からないから」
そう、これは仕方がないこと。だからルリハを責めるつもりはない。
だから、ハクちゃんがやられたりするっていうことに関しては俺が一番気をつけていなければいけなかったんだ。
それなのに、俺がよく見ていなかったせいでハクちゃんがやられてしまった。
どちらかと言うと、俺が責められるべき案件だ。
二人のことを守りながら戦わなければいけない。それが賢者としての俺の責任だというのに、何をやってるんだろうな。
「カルマ様、一つお伺いしたいことがあります」
「なに?」
「魔力を外に放出しない『身体強化』なら、魔力回路への負担も少ないですよね」
「え、あぁ、確かに少ないけど、わざわざルリハの状態で使うものでもないぞ。それに、負担が少ないだけで、負担が全く無いってわけじゃないからな。無理はするな」
「今、カルマ様が私の愚行を止めてくださったことには感謝します。ありがとうございます。だけど、それはそれ、これはこれです。私、ルリハ・ベータテッドという人物は大切な妹をやられて黙っていられるほどいい子ちゃんじゃないんですよ。だから、先に謝っておきますごめんなさい。ここで無理をしなかったらきっと私は人間として、冒険者として、姉として……終わってしまうから!」
「っ、ルリハ!」
慌ててルリハの事を止めようとした時、既にルリハは俺の腕の中から抜け出してハイドへと突っ込んでいってしまっていた。
まずい、ルリハとハイドの相性が悪い上にルリハの魔力回路は弱っている。
そんな状態で火属性魔法を豪快にぶっ放したら今度こそルリハの魔力回路は壊れてしまう。
ルリハの魔力回路が壊れてユイたちが悲しんでいる姿なんて俺は見たくない!
「止めろ、ルリハ!!」
「カルマ様、力を貸してください。『豪拳』」
「むっ」
ルリハが突っ込んできたことによって防御の体勢を構えたハイド。
だが、ルリハのその小さい拳は腕の防御をすり抜けていき、そのままハイドの顔面に突き刺さった。
これは俺にとって予想外だった。
ルリハは今まで一度も物理攻撃をしたことはなかったし、火属性魔法が得意ということから、攻撃をするとしたら火属性魔法がほとんどだった。
だからまさかルリハが『豪拳』を使うなんて夢にも思わなかった。
でも――
「お前、『豪拳』使ったこと無いだろ。痛くないぞ!」
そう、ルリハのタイプは魔法使い。そのため、筋力も近接タイプよりもずっと劣り、『豪拳』などの物理技の練度も低い。だから、付け焼き刃で『豪拳』なんて使ってもハイドにダメージを与えられるはずがない。
でも、そんなことはルリハもよく分かっているはずだ。
ルリハは勇者パーティーの中でもよく頭が回る方だ。だから、ルリハがそんな初歩的な事を見落としているとは思えない。
「こう、こうっ」
だが、ルリハは止めること無くハイドの腹を蹴り上げ、ハイドの事を蹴り飛ばした。
流石に威力が弱いとは言え、『身体強化』の力が載っているため、ちょっとよろめくハイドだったが、初戦はその程度。
大したダメージはなっていない。
「遊んでいるのか? 俺のことを馬鹿にしてるのか!」
威力が弱いとは言え、小突かれ続けたらイライラしてくるものだ。
ハイドは怒りを顕にして声を荒げる。だけど、ルリハの様子が変わることはない。
ルリハの狙いは一体何なんだ?
「こう……こう……こう……カルマ様なら……」
ぶつぶつと呟きながら動き続けるルリハ。
その口から俺の名前が飛び出してきた。
まさか、ルリハのやつ、俺の動きを模倣してようとしているのか? 俺と言う存在を自分に下ろして戦おうとしているというのか?
無茶だ。
ルリハにはルリハに合った戦い方というものがある。だから、俺の戦い方は絶対にルリハには向かない。
そんなことが分からないほどルリハは愚かじゃないはずだ。
なのに、なんであんな自信を感じるんだ?
妙な自信というものを感じれて、思わず止めるのではなく見守りたくなってしまう。そんな雰囲気が今のルリハにはあった。
「こう、こう、こう、こうっ」
「しつこいぞ、小娘!」
「そして、確かこうだったはず!」
攻撃を受け続け、痺れを切らしたハイドがルリハに掴みかかろうとした時、ルリハはバックステップでその手を回避し、そしてハイドから少し距離が離れた位置で立ち止まった。
何をしようとしているのか、その答えはすぐに分かった。
ルリハは指をパチンと鳴らす。
そう、俺の切り札を発動する時のポーズを真似しているのだ。
だが、切り札というのはその人の人生を示すような人の数だけ存在していて、全く同じ切り札が存在しないと言われているほどの固有技だ。
同じポーズをしたからといって全く同じことが出来るというわけじゃない。
残念だけど、ルリハには俺の切り札『業』は使えない。
そう思っていたときだった。
ルリハの眼の前が急に燃え上がり、その炎の中からなんと、キラキラと輝くカードが出現し、それをルリハがキャッチした。
「馬鹿なっ」
その光景には流石にハイドも驚愕した様子。
かく言う俺も、まさか出てくるとは思っていなかったため、目を見開いて固まってしまっていた。
まさか、まさかまさかまさか、出来るのか?
俺をトレースすることによって切り札を発言させるなんて。だが、いくら切り札を発動できたところで、俺と全く同じ効果の切り札になるということは決して無い。
それだけは絶対に断言できる。
あの切り札からは何が飛び出してくる!?
「切り札…………『桜花天炎』」
その次の瞬間、周囲一体が炎の海と化してしまった。
一瞬の出来事だった。
一瞬で視界が真っ赤に染まり、見渡す限り一面が炎。灼熱地獄と言ったところだ。
この場にいるだけで魔力で身を守れない人は焼け死んでしまいそうだと思ってしまうほどの強烈な熱気に思わず咽てしまう。
「こ、これは……ルリハの力なのか」
普段のルリハの様子とは違う。
メラメラと敵を焼き焦がすような強烈な熱さ。怒り、苦しみ、執念、それらが全てこの炎の海に込められているように思えた。
これが本当の私なのだと、俺に本当の私を見ろと、そう訴えかけてきているような感覚を覚える。
そうか、普段は膨大な力を抑え込んでいたが、ルリハの中にはこれほどの力があったのか。
「周りにある炎は私の力。そして私のストック」
「何言ってるんだ、お前」
次の瞬間、周囲に存在していた炎の一部が徐々にルリハの手の中に集まっていき、そしてそれがやがて弓矢を形成する。
周囲にある炎を利用してあの弓矢を作り出したようにみえた。
周囲にある炎からはルリハの力は感じないし、恐らくあれは魔力回路を経由せずに火属性魔法を放てるという、ルリハにとって最強の魔法使いモード。
「穿て、『紅蓮廻炎』」
ルリハの手から放たれた『紅蓮廻炎』はハイドに真っ直ぐ向かうのではなく、ちょっと手前側を狙って放たれた。
そのため、ハイドの足下へ『紅蓮廻炎』は着弾し、爆発した。




