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5-59『ルリハ・ベータテッド5』

 ユイとパーティーを組み始めてから少し時が経過して私たちは二年生になった。

 この年、新しい賢者が就任したというニュースが国中に轟いた。


 最年少で賢者になったのはゼルドガル・バッドレイだけど、彼に継ぐ年齢で賢者になったカルマ・エルドライトという男の子。

 年齢は私たちと一個しか変わらないらしいけど、もう賢者になっているとはすごい人も居たものだ。しかも、彼もこの冒険者学園を卒業したというのだから、やっぱり名を上げるのには冒険者学園を卒業するというのが一番の近道だったらしい。

 ただ、ちょっと彼は特殊でたった一年で卒業したみたいだから、この学園の卒業生と声を大にして言っていい物なのかは正直分からないものなのだけど、ゼルドガルだってこの学園を一年で卒業したわけだし、上に行く者たちというのはそういうものなのだろう。


 なに? 賢者になるには冒険者学園を一年で卒業しなきゃダメとかいう条件みたいなのがあるのかしら?


 でも、私は別に賢者になりたいわけじゃなくて、ただ名を上げたいだけだからそこまでの上に登り詰めなくてもいい。

 だから、私はそんなに賢者にかかわるということは無いんだと思っていた。


「…………」


 私は呆然としていた。

 いや、私だけじゃない。ユイもそうだし、他のクラスメイトだって呆然としていて、中にはざわめいている人も居た。

 今はいつも通りダンジョン探索実習をするということでダンジョン前に集まっているところ。今日はいつもよりも難易度の高いダンジョンに挑むということで、Dランクダンジョンにやってきていた。

 さすがにまだDランクになっているという人は居ないからちょっと早いのではないかという意見が無いわけでもない。だが、学園は毎年この時期にはDランクダンジョンに潜らせているそうだ。


 そして、安全のためにいつもプロの冒険者を数名監督に着けているらしいんだけど、今回の監督者というのが――


「えー、俺自身どうしてこんなところに居るのかは分からないんだけどさ……なんかギルドマスターからの直々の依頼ということで受けざるを得なくなったカルマ・エルドライトです。どうしてこの程度の案件で賢者をつけるのか、疑問ではありますが、受けた以上しっかりやらせていただきます」


 誰も想像していなかったことだろう。

 今は新しく王都付近に配属された賢者は王都のギルドマスターにこき使われているという噂があったけど、まさか本当にこき使われていたとは。

 そうじゃないと賢者がこんな場所に居るはずがないから。

 カルマさん自体もあんまりやる気ではなさそう。


 とにかく、私たちの初めてのDランクダンジョン探索は想定外の展開で幕を開けた。


 とはいえ、Dランクダンジョンと言えども魔物がちょっと強くなっただけで、一つ上のランクならそこまで大きく違うことはない。

 私とユイの二人で力を合わせれば特に危なげなく探索することが出来た。


 でも、ピンチは油断している時に襲い掛かってくるというものだ。

 それは普通に探索している時の事だった。周囲を警戒し、魔物の気配を探りつつ、道を歩いていく。

 カルマさんも私たちなら特に助けなくても問題ないと判断したのだろう。私たちはダンジョンに入ってから一度も見かけていない。おそらく他の探索者のことを見に行っているんだと思う。


 私たちなら行ける、そう太鼓判を押されているような気がしてちょっといい気になってしまったのだろう。


 私は失念していた。DランクからはEランクの時にはなかった色々な危険が起こり得るということを。


 特に何もなかったと思う。だけど、私が地面を踏んだ瞬間、それは私に牙を剥いてきた。

 突如私の足元が崩れ、まるで落とし穴の様に私の事を下層へと誘ってきたのだ。


「ルリハちゃん!」


「っ」


 気付いた時にはもう時すでに遅し、私の身体は重力に従って落ちていくのみ。ユイが慌てて私の事を掴んで引き上げようとしてきたけど、その手は私の手を掴むことはできず、私は穴の中に飲み込まれてしまったのだ。


 地面が柔らかくて崩れるなんてことはダンジョンではありえない。これは間違いなくトラップだったのだ。

 そして、その穴の下は特殊な空間が広がっていて、一気にいくつもの階層を飛ばして最下層にまで落ちてしまった。

 最下層、そう、そこにはダンジョンガーディアンが存在している。


 この実習ではダンジョンガーディアンとは絶対に戦うなとしつこいくらいに言われているのだが、私は意図せずしてダンジョンガーディアンの存在する空間にまで落ちてしまったのだ。

 そう、このトラップは引っかかった冒険者をダンジョンガーディアンの存在する空間に誘って碌な準備もさせずに戦わせるというものだったんだ。


「ひうっ」


 さすがに恐怖を覚えた。

 今、私の目の前にはおじさんのような石造が動いている姿が映っている。あれがこのダンジョンのダンジョンガーディアン、アンクロック。

 幸いにもまだ私の事には気づいていないようで、ゆっくりゆっくりと空間内を動き回っている。薄暗いし、あれはあんまり目がよくないというのもあって私の事が見えていないのだろう。


 チャンスだ。

 さすがに今の私が戦って勝てるという保証は無いし、無理して戦っても怒られるということが分かっている。

 なら、何とかこの場から逃げて上の階に戻るしか――


 逃げようと出口へ向けて歩き出すと、私の目の前に岩が落ちてきて肝を冷やす。

 地面に突き刺さったその岩を見て、この一撃に当たっていたら私はどれほどの負傷をしてしまっていたのだろうと考えると生きた心地がしない。


 この岩は明らかに魔法で形成されたもの。つまり、あのアンクロックは私に気が付いていなかったというわけじゃない。私の様子を伺っていたのだ。

 それで逃げ出そうとしたから魔法を使ってきたということね。

 やっぱり私は戦いを避けるということはできないらしい。


 今の私がどれほどダンジョンガーディアンとやり合えるか分からないけど、やるしかないのなら、戦うだけ。


「『紅蓮廻炎』」


 今私が出すことが出来る最大火力。

 ちょっとでも怯ませることが出来れば御の字。その隙に私は逃げ出して上に戻る。

 今倒そうなんて考えない。勝てるかもしれないと驕って死んで来た冒険者を私は何人も知っているから、その人たちの二の前には絶対にならない。


 私の放った炎の矢がアンクロックに直撃し、爆発を引き起こす。

 どうだとアンクロックの様子を伺うが、アンクロックは何事もなかったかのようにゆっくりと歩き続ける。つまり、私の攻撃は反応するほどの物じゃないということ?

 今の、私の全力なんだけど。

 全く効いていない。確かにアンクロックは魔法耐性は高いって聞いたけど、まさかあそこまでに魔法耐性が高いなんて。


 魔法がメインウェポンである私では全く歯が立たない。

 対処できない。


「私じゃ、倒せない……?」


 逃げようとしたら岩を落とされ、攻撃をしても全く通用しない。


 ――詰み。

 そんな絶望した私の考えがアンクロックにも見えたのだろう。私に策が無いと知れるやいなや、私の方へと走り出してきた。


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