4-57『ルリハ・ベータテッド3』
私は元々お父さんとお母さんに魔法を教えてもらっていた分、ほかの人よりもスタートが早かった。だから、最初はほかの人よりも進んでいたし、何だったら飛び級をしないかとまで言われた。
でも、飛び級の打診は断った。
私はちゃんとこの学校で学びたかった。急いで冒険者を目指していたというわけじゃないし、何よりちょっと気がかなりことが出来たから。
私は基本的に、ほかの人とは関わらずに学園生活を過ごしていた。
外界から隔絶された街から出てきたということもあって、私は話について行けなかったりして、仲良くなろうにもなれず、いつしか私は一人で過ごすようになっていた。
そんな私は最近、気になっている子がいた。
「おい、フィートベル。もっと体内の魔力を意識しろ。魔法を撃つということを意識するんだ」
「は、はい!」
あの子、ユイ・フィートベル。
同じクラスになって半年。他の子たちは順調に魔法が撃てるようになってきているけど、どうにもあの子は魔法が得意じゃないようで、魔法を発動することに苦戦しているようだった。
どうやら保有魔力量というのが少ないらしい。だから、彼女は射出する系の魔法を使うとき、どうしても魔力量が足りず、ふにゃふにゃな魔法になってしまうという感じだった。私の真逆といった感じ。
ただ、剣筋はとてもよく、剣術の授業ではトップの成績を収めているらしい。
剣術に関しては選択授業となっていて、私は全て魔法に全力を注いでいたため、剣術の授業は取らず、魔法一本。保有魔力量が多いというアドバンテージを活かさない理由は無かったから。
だから、ユイの剣術の授業をこの目で見たことがあるわけじゃないんだけど、それでも噂で聞こえるくらいには凄いっていうことだろう。
でも、どうしてもこの世の中、魔法の方が優遇されがちだ。
近距離で戦うよりも、魔法で遠距離戦が出来た方が絶対的に有利だし、近接戦も出来た方がいいけど、魔法の方が優先度が高い。だから、剣術が出来るだけでは進級に必要な単位を貰うことはできない。
あれだけの才を持ちながら可哀そうだとは思うけど、人には得手不得手というものがある。こればっかりはどうしようもないことなのだ。
最初は本当にユイにかかわる気なんて全然なかった。
そんな考えが変わったのはある日突然の事だった。
私はいつものように自主練をするために訓練場へとやってきた。夜、殆どの人はもう寮の部屋で休んでいる時間で、この時間なら私以外はここを使う人が居ないというのもあり、ほぼほぼ貸し切り状態。
だから私はこの時間に自主練をするために訓練場へと来ている。
さすがに消灯時間以降は訓練場も開いていないから消灯時間前だ。
そして今日も自主練をしようと訓練場へ入ると、いつもとは違う光景がそこにはあった。
「はぁ……はぁ……『風刃』」
いつもはそこに居ないはずなのに、今日はどういうことなのか、ユイ・フィートベルがそこで自主練に励んでいた。
今までこの時間にユイとエンカウントしたことなんて一度もなかった。だからこれからもここで会うことはないだろうと思っていたのに、予想外の事態に固まってしまい、何を思ったのか彼女の自主練を見守るようにして陰に隠れた。
彼女の表情は真剣そのもの。
いつも上手く行かない魔法の練習をしていた。彼女は魔法の中では風属性が一番安定して使えるそうで、今もこうして風属性で何とか合格点まで届かせることが出来ないかと練習しているみたいなんだけど――
「っ、『風刃』」
やっぱりどうにも上手く行っていないらしい。
見ていたら的にどうにか風の刃を当てようとしているみたいだけど、魔法がへろへろすぎてそこにたどり着く前に魔力が霧散している。
射出した後の魔力を操るっていうのは体内で操る事よりもずっと難しい。そしてその難易度は魔力の定着度にもよるんだけど、あまりにも弱すぎる魔力だと体外にある物だったら認識しにくくて操りにくいというのがある。
ユイが魔法に込められている魔力というのが少ないせいでうまく操ることが出来ないという状態になっているんだ。
正直、ここで私が彼女を助ける義理なんてものは無かった。だけど、私は何となく彼女のことが気になってしまったのだ。
努力をしている、剣術の腕だってすごいものがある。だから、冒険者になったら彼女はすごい冒険者になれるだろうと思う、こんなところで躓くのはもったいない。
「ねぇ、ユイ」
「うわわっ、びっくりした……えっと……ルリハちゃん、だよね?」
「覚えてたんだ」
「うん、だって、同じクラスでしょ?」
同じクラスだからってあまり話さない相手のことを覚えている人はどれくらいいるだろうか。
少なくとも私はクラスメイトの名前を言えと言われても半分も言えない自信がある。
いつも彼女の周りにはいっぱい人が集まっていた。こういう所が人を引き付けるんだろうな。
ちゃんと人を見ているっていうことだから。
「ルリハちゃんだって私の名前覚えてたんじゃん」
「いや、それは……」
「それは?」
「なんでもない……」
有名だから知っていましたっていうのはなんだか気恥ずかしくてごまかしてしまった。
ユイが私を知っていたのと違ってユイのことは有名だから知っていたというだけで、別にクラスメイトのことを私はちゃんと見ていたわけじゃないんだから、ユイと一緒にされたらちょっと困ってしまう。
「まぁ、いいけど……ルリハちゃんも自主練?」
「そう」
「そうなんだ~私も自主練なんだ~」
それくらい見たらわかるわよ。
「どうにも魔法をうまく使えなくてさ。何度もイメージしてやってみてるんだけど、どうしても弱弱しい魔法になっちゃって的に当たらないんだよね。それに比べてルリハちゃんはすごいよ。この間だって、魔法の実技テストですごかったじゃん」
「っ!」
まさか、そんな所まで見られているとは思わなかった。
どうやら思っていたよりもしっかりとクラスメイトのことをちゃんと見ていたらしい。
ま、他の人のことをちゃんと観察するというのは大事だと思う。見ていたら、その人の良いところ悪いところがそれぞれ見えてきて、それを自分の糧にすることだってできるだろうから。
その点で彼女は他の人よりもずっと努力をしていると言えるだろう。
こんな子が冒険者になれないっていうのはちょっとかわいそうな気がする。
だから、思わず口を出してしまった。
「あなた、杖の役割って知ってる?」
「え、うん。小さい魔力で大きな力を出せるようにサポートしてくれる武器だよね?」
「一般的にはね。だけど、それだけじゃない」
お父さんとお母さんには杖の役割についてもう一つ教えてらもった。
「杖にはもう一つ役割がある。それは、魔力コントロールの補助」
「魔力コントロール?」
「通常、使う魔力が小さければ魔力を維持することが困難となり、上手く魔法を制御するということが難しくなってしまう。だけど、杖を使うときはどう? 使用している魔力量は少ないのに安定して魔法を使うことが出来ている。それ即ち、杖が魔力コントロールを補助してくれているということ」
「え、そんな役割があったんだ。知らなかったよ!」
と言っても、私が今持っている杖にはそう言った役割は省き、逆に使用できる魔力を制限する力が加えられているけど、それは言わなくてもいいだろう。
とにかく、一般的な杖には魔力コントロールの補助機能があるから、小さい魔力でも安定して魔法をコントロールすることが出来るということだ。だから、魔法使いは魔法を使うときに杖を使う人が多い。
その方が安定して強い威力の魔法を使えるから。
賢者でも魔法使いタイプの人は普通に魔法を使うときに杖を使ってるし、どれだけ強くなったとしても杖は魔法補助としては完璧な武器なんだよね。
「じゃ、じゃあ、私も杖を使えば!」
「あなた、剣士でしょ? それなのに杖を使ったら本末転倒じゃない。これからあなたは魔法使いとして戦っていくの?」
「うぅ……それは厳しいです」
杖を使うのは基本的に魔法使い。
それ以外の人たちは武器で戦うため、魔法は補助的にしか使わないから杖なんて使わなくてもいいし、逆に戦う上で邪魔になってしまうから杖を持たないっていう人も多い。
だから、基本的に杖を使うのは魔法をメインとする魔法使いということになる。
でも、そうしたらユイの魔法コントロールはどうするのかという話になるのだけど――
「あなた、剣士なら剣で語ってみるのはどう?」
「…………いや、そんな剣豪みたいなことを言われましても」
「そうじゃない。魔法は基本的にイメージなの。イメージがはっきりとしていれば小さい魔力でもちゃんと操れるようになると思う。だから、あなたが魔法を射出するときにイメージしやすいことをイメージするの」
「イメージ……風の刃……剣で風の斬撃を飛ばすとか?」
「そうそう、そんな感じ。剣に魔力を纏わせて、剣を振るうと、その切っ先から鋭い風の斬撃を飛ばすことが出来る。とまぁ、こんな感じで、要は魔法は連想ゲームだから」
私も最初は火を使いたいなという連想から魔法を使えるようになったわけだし、魔法というのはイメージ次第で何でもできる。
色々な魔法が魔導書に載っているけど、オルターンに居た冒険者たちは魔導書に載っていないオリジナルの技に改変して魔法を使っていた。
だから、使いやすいように自分で魔法を改変して使うっていうこともできる。
本来『風刃』は本来、手のひらから大量の風の斬撃を飛ばして攻撃する魔法だけど、それを剣から射出するとイメージする。
「剣から……」
彼女は剣の才能はぴか一だ。
だから、魔法を剣に絡めてあげればもしかしたら魔法も上手く使えるようになるんじゃないかって、そう思っていた。
だけど、その効果は私が想像していた以上で――
「はぁっ!」
彼女が剣を振った瞬間、大気が揺れ鋭い風の斬撃が生み出され、それはさっきまでのへなへなな斬撃ではなく、まっすぐ鋭く的へ目掛けて飛んでいき、そして――的を一刀両断して見せた。
私はその時、才能というものを見てしまった気がする。
魔法の質としては今までずっと魔法を使い続けて来た人たちよりは劣るものの、でも、そんなのはすぐに追い抜かしてしまえそうな、そんな恐怖を今味わった気がする。
今までの魔法の使い方が彼女に会っていなかっただけなのだ。それを強制しただけでこれほどまでに……っ!
「出来た! 出来ました! やったぁぁぁぁっ!」
まるで子供の様に飛び跳ねて喜ぶユイの姿に、私はただただ呆然としていることしかできなかった。
こうしてユイのオリジナル魔法『迅』の原形が完成した。




