4-56『ルリハ・ベータテッド2』
夕食中、私の唐突な宣言にお父さんとお母さんは固まり、手に持っていた箸をポロリと落としてしまった。
お父さんもお母さんもあまりのショックに動けないようだし、仕方がなく私が二人の落とした箸を拾い集めて新しい箸を用意してあげる。
「る、る、るるるる」
「お父さん、急に歌いだしてどうしたの?」
「ルリハ! な、何かあったのか!? お父さんたちの魔法の教え方が気に入らなかったのか? どこかダメなところがあったか!?」
「いや、全然」
「る、ルリハ? 別にそんな所に行かなくても魔法だったら私たちが教えてあげるわよ?」
確かにそう。
二人共今現在は冒険者を引退してしまっているが、元Sランク冒険者なのだ。本来であれば下手な冒険者に魔法を習うよりも二人に魔法を教えてもらったほうが色々と学べることは多いだろう。
でも、ダメなのだ。私が心置き無く魔法訓練をするためには冒険者学園じゃないとダメ。
それに、私は二人が元冒険者だって言う話を聞いてから冒険者というものに興味が湧いていた。魔法使いになるには二人に魔法を教えてもらうので問題ないだろうし、その先で冒険者になることだって出来ると思う。
でも、冒険者として名を上げる一番の近道はやっぱり冒険者学園なのだ。
冒険者学園の卒業生で活躍している人なんていくらでもいる。
例えば、賢者チャート1位に君臨しているゼルドガル・バッドレイだって冒険者学園の卒業生だし、この街のギルドマスターであるオーズ・ウケイランドだって冒険者学園の卒業生。
逆に、冒険者学園を出ずに名を上げるというのはかなり至難の業となる。なにせ、冒険者学園で頑張ればBランクスタートとなるけど、最初はみんなEランクからのスタートなのだ。
Eランクはかなり冷遇され、まともな依頼ももらえないという話だし、名を上げるのは大変だろう。
冒険者になるんなら冒険者学園に通うのが一番なのだ。
「それでも、私は冒険者学園に行く。冒険者になって世界を見てみたい」
「冒険者になるのは苦労するぞ、辛いぞ……死ぬかもしれないんだぞ」
「うん、分かってる。お父さんたちが戦っているところを前に見たことがあるから、冒険者が死と隣り合わせだなんて理解している。だけど、でも、それでも私は冒険者になりたい。冒険者になって色んな人を救って、色んな場所を見て、自分の力を試して、鍛えたい。私はもうすぐ十歳になるんだから、もう、お父さんとお母さんにおんぶに抱っこじゃないんだよ」
お父さんとお母さんに何を言われても私の意思は揺るがない。
私は一度決意したものは絶対に曲げない。それがどんなに険しい道だとしても、命を落とす危険性があるのだとしても、絶対にやり遂げるまで止まることはしない。
止まったら、それは私じゃなくなっちゃうから。
お父さんとお母さんが私が冒険者になることを反対してくるということは最初から分かっていた。
お父さんもお母さんも、私たちが冒険者に興味をもたないように家では冒険者の話題を一切出さなかったし、私が戦っているところを見たのだって偶然街に侵入しようとしている魔物をお父さんが討伐しているところを陰から見てしまっただけだった。
二人が冒険者だと知ったのも、近所の人の噂話を耳に挟んだだけ。
そこまで徹底的に私たちを冒険者から遠ざけようとしているということは何かあって、絶対に私を冒険者にしたくないんだろうなというのは感じていた。
でも、私だって折れるわけにはいかない。
絶対に私は冒険者になる。
「そうか……ルリハももう十歳か……」
「やっぱり私たちの子供ね」
「あぁ、冒険者からは切っても切れない関係って言うわけだな」
「ん? どういう事?」
「いや、こっちの話だ。確かにルリハはもう十歳になる。成人ももう近い。俺たちがルリハの人生に対して口を出すのも違うよな」
「え、じゃ、じゃあ!」
「その代わり、絶対に冒険者になれ。目指すならオーズを超えて賢者入りだ! わかったな」
「う、うんっ!」
もうちょっと反対されるかと思ったら意外にも私の意思を尊重してくれた。
だから私はお父さんとお母さんが大好きなのだ。
私が冒険者学園に通うのだから、ハクはどうするかと聞いた所、ハクはこの街に残ると言った。
ハクの得意属性は無属性で、この森に被害をもたらしてしまう可能性は低いし、ハクは私と違って冒険者というものには興味がないらしい。
だからこの森の中でゆっくりと魔法を練習して強くなるつもりなのだとか。
そうして私は護衛付きの馬車に乗り込み、冒険者学園のある場所、王都へと向かった。
今まで私はこの森から出たことはなくて、木々が大量に生い茂っているというのが私の中での世界だったから、森をでた後に広がっている草原の光景はとても新鮮で、美しいと思った。
薄暗い森では見ることが出来ない綺麗で透き通るような青空。眩しいくらいの日差し。
私にとってはどれも見ているだけで楽しいものばかりだった。
街へ入ると視界に人の姿が入らない場所なんて無いというほどに多くの人々が行き交っていた。
オルターンではこれほど人が居るという光景を見ることが出来ない。
武器屋防具屋も少し進めばあるというほどに大量に存在していて、家も所狭しというほどに並んでいる。
オルターンは木の上に家を建てる関係上、これほどに建物が乱立するということは有りえない。私にとっては異様な光景と言わざるを得なかった。
「はっはっは、ルリハちゃん。この街の光景、珍しいか? ここがこれから君が生活する街、王都だ。国の中心地というだけあって流石のでかさだよな」
「はい、楽しみです!」
「まぁまぁ、目をキラキラと輝かせちゃって……ま、俺たちは応援してるからさ、冒険者学園頑張ってこいよ」
「はい!」
これから始まる。
私の冒険者への道!
この世界の成人年齢は十歳です。
つまり、成人したら冒険者学校に行って冒険者について学ぶということになりますね。




