4-55『ルリハ・ベータテッド1』
「ねぇねぇ、見てみてお母さん!」
ある日私は突然お母さんに炎を手のひらに出して見せた。
私はその日まで魔法という概念を知らなかったし、魔導書を読んだこともなかった。ただ、焚火という存在を知って、一度やってみたいと思った。それだけで私は火をどうするかと考えていた時にすでに手から火を出せるようになっていた。
魔力という概念も知らず、魔力の扱い方も知らない子供が突然火を出した。その事実にお母さんもお父さんも大騒ぎ。私は天才だと騒いでその日はお祝いとしてちょっと豪華な夕食になった。
私の適性は火。
意識せずともまるで当たり前かのように、息をするかのように火を扱える。
だから今でも私のメイン魔法で一番火力を出すことが出来るのは火属性なのだ。
私の魔力量は生まれつき多い。だから、強い魔法だって私ならすぐに習得することが出来ることだろう。
だけど、一つだけ問題があった。
それは、私の生まれ育ってきた街というのが森の中であるということ。こんな森の中で火属性魔法の練習なんてしたらいつ引火するかわかったものじゃない。
お父さんもお母さんも何とか出来るのかもしれないけど、子供ながらにそこら辺を気遣ってしまい、思うように魔法の練習が出来なかった。
「よし、ルリハ、杖を買いに行くぞ」
「え?」
それは突然の事だった。
ある日突然お父さんが急にそんなことを言いだし、私を武器屋に連れて行った。
私には魔法の才能がある。だから、そんな私の魔法をサポートするために杖が必要とのことらしい。だけど、私に杖は売ってもらえなかった。
「おい、どういうことだよ。杖を売れないって」
「俺は今までいろんな客を見て来たから客を一目見たらどれほどの力があるかっていうのが分かるんだ。んで、お宅のお嬢さん、とんでもない才能を持っているようだ」
「そ、そうだろ! 俺のルリハはすげぇんだ」
「でも、それが命取りになる。お前さんも知っているだろ? 魔力回路は成長するにつれてより強いものとなり、より大きな魔力を動かすことが出来るようになるって」
「あぁ、それは常識だな」
「あの子、魔力量が異常に多い。杖なんかで威力をサポートしちまったらそれこそ、お嬢さんの魔力回路がぶっ壊れてもおかしくねぇ」
「な、なんだって!?」
そう、私の魔力量は私の年齢にしては多すぎたのだ。
そのせいで、本来は私の年齢の魔力回路に流してはけないほどの魔力量を流すことだって可能となっている。更にそれを強くするとなると、間違いなく私の魔力回路が耐え切れないという店員の判断だった。
この店員は客を選り好みしているわけではなかった。ただ、私のことをちゃんと見て、正しい判断を下しただけだった。
「そんなぁ……」
落胆するお父さん。
でも、店員さんの言っていることは御尤もだったため、お父さんは諦めるしか無いかと踵を返しかけたその時、その店員さんは一本の杖を出した。
「普通の杖はあげられねぇが、こいつなら良いかもしれない」
「そいつは?」
「こいつは魔法抑制の杖だよ。本来、魔法訓練の為に使う魔道具で、戦闘用のものじゃねぇんだが、お嬢さんには丁度いいだろう。こいつを使えばある程度魔力を抑制してくれる、制御しやすい程度の魔力にしてくれるはずだ。お嬢さんがこのまま鍛えれば必ず身体に見合わない程度の魔法を使えるようになるだろう。だから、こいつで抑制してしまえ」
「そうか……じゃあ、そいつをもらおう」
そして私は魔法抑制の杖を手に入れた。
確かに魔法抑制の杖を構えて魔法を使うと、今までと比べて大きな魔力を出すのが難しく感じた。
あまりにも大きすぎる魔力を使おうとすると、ストップを掛けられたかのような感覚に陥って、それ以上の魔力を出すことができなくなった。
でも、その御蔭で私は幼いながらに安全に上級魔法でも使うことが出来るようになった。
そのことにはお父さんもお母さんも喜んでくれた。ハクが「おねえちゃんすご〜い」と喜んでくれるのがすごく嬉しかった。
だけど、一つだけ問題があったんだ。
それは、この街が森の中にあるということ。
私が得意としている属性は火属性であり、あまりにも大きな魔法を使いすぎると、この森を燃やし尽くしてしまう危険性があるということだ。
もちろん、そうなったときにはお父さんとお母さんがなんとかしてくれると信じては居たけど、子供ながらに遠慮しがちだった私はどうにもその辺が気になって魔法訓練に集中することが出来なかった。
出そうと思えば他の属性の魔法だって普通に出せる。
だけど、一番扱いやすいのはやっぱり火属性なのだ。私が成長するためには火属性をこれから先、どんどんと伸ばしていかなければならない。
それなのにこの環境では思うように訓練できない。
お父さんとお母さんは私が魔法を使えるということを知ってからすごく丁寧に魔法の使い方を教えてくれているし、二人に学べばちゃんと魔法を使えるようになるんだろうなと思う。
だけど、私はどこか遠慮し勝ちになってしまっていた。思う存分魔法を使うことが出来ない。
だから私は言った。
「私、冒険者学園に行く」




