4-54『ルリハ/オーバーロード』
「殺す、殺してやる」
マズイ、ルリハが我を忘れてる。
自分の身体の状態も忘れて魔法を使おうとしている。このままじゃルリハは自滅してしまうこと間違いない。
これ以上魔法を使うと、本当にもう魔法を使えなくなってしまうかもしれないんだぞ。そうなったらユイやハクちゃんだって悲しむことになる。
ルリハにはもっとこの先も勇者パーティーを支えてもらわないとダメなんだ。
「お、落ち着けルリハ! あつっ」
ルリハはもうなりふり構わなくなっている。
魔力が溢れ出し、それが炎となってルリハの身体が燃え始める。魔力回路が壊れる前にルリハの身体が燃え尽きてしまいそうな程の勢いだ。
本来、ルリハはこれほどの魔力を放出していい状態じゃないんだ。
こんなに魔力を使ったらルリハの身体がもたない。
「かはっ」
ルリハの口から血が溢れる。
魔力回路に多大なダメージを受けて肉体が悲鳴を上げているという証拠だ。
俺の魔力の防御をも貫通して熱を与えるほどの火力、そんなものを纏って平気で居られるはずがない。
俺の頭の中に一つの単語がよぎる。
――暴走。
魔力が暴走し、理性を無くして本人の意思とは関係なく魔力に振り回されて暴れ狂ってしまうこと。
でも、暴走してしまうと周囲を見境無く壊し尽くしてしまう魔物と同じ状態になってしまうから、まだ周囲を破壊していないだけ暴走一歩手前と言ったところか。
暴走したらハクちゃんを焼き、俺にも襲いかかってくるはず。だけど、ルリハは自分の熱でハクちゃんを焼いてしまわないようにハクちゃんを地面に下ろして更に『守護』で覆っている。
まだ理性がある証拠だ。
なら、まだ戻せる可能性がある。
「ルリハ!」
「『紅蓮廻炎』」
「すごい火力だ。だが、魔法など手で触れれば一瞬で消すことが出来る」
ルリハが身を焦がして放った『紅蓮廻炎』もハイドの手に触れた瞬間、無に帰る。
やっぱりあの魔力を消す速度を上回るほどの火力をぶつけなければ魔法などハイドには通用しないということなのだろう。
ルリハにはそんな魔法を使うことは出来ない。つまり、決死の思いで発動した魔法ですら、ハイドには何の効果ももたらさないただの自滅行為になってしまうということだ。
「ルリハ、止めろ! ルリハ!」
俺は必死に呼びかける。
今ならまだルリハを正気に戻すことが出来るかもしれないから。本当に暴走してしまったらもう手がつけられなくなってしまう。
ルリハが暴走してしまわないことを祈りながら必死に言葉を投げかける。
「『ファイアボール』」
「ルリハっ!」
しかし、そんな俺の呼びかけにも何の反応もすること無く、ただひたすらにハイドへと攻撃魔法を放つルリハ。
もうこれで四発目の魔法だ。
本来、一発ですら使っちゃダメと言われているのに四発も使ってしまった。
次また魔法を使ってしまったらルリハの魔力回路がどうなってしまうか分かったものじゃない。今度は本当に魔力回路に致命的なダメージを与えてしまうかもしれない。
「ダメだルリハ。魔法を使っちゃダメだ! そんな無茶をしても誰も喜ばない。ハクちゃんだって、ルリハに無茶をしてほしくて攻撃から庇ったわけじゃないはずだ! 俺が絶対にハクちゃんを死なせないし、絶対に助けてみせるから、今は落ち着いて矛を収めてくれ! お願いだ!」
「許さない……殺す……殺す……殺す」
「ルリハ、お願いだ! お前が戦えなくなったらユイとメルバードはこれからどうしたらいい! お前があのチームを纏めなくて誰が纏めるんだ! あのチームを纏めることが出来るのはお前しか居ない! ルリハしか居ないんだ!」
「殺す……殺す……殺す」
ダメだ、どんな言葉もルリハの耳には届かない。
ルリハが大切に思っているハクちゃんやユイの言葉ならば届かせることが出来るかもしれないけど、ハクちゃんはもう気絶してしまったようだし、ユイはこの場に居ない。
ご両親ならとも思うけど、今からデスタさんとメルフィーさんを呼びに行っている時間は無い。
頼む……俺の言葉を聞いてくれ……ルリハ。
「頼む……お願いだ。ルリハ……落ち着いてくれ……自分の身を焦がす必要はないんだ」
「殺す……殺す……殺す。『紅蓮廻――」
「ルリハっ!」
再度ルリハが炎の弓矢を構えようとしたため、俺は思わず止めるために熱で焼かれることも厭わずルリハを抱きしめてしまった。
「っ!」
瞬間、ルリハの表情に同様が走ったような気がした。
そして俺はルリハに畳み掛けるように言葉を紡ぐ。
「それ以上やったらユイやハクちゃんが悲しむ。それに俺だってそんなにぼろぼろになるルリハの姿を見たくない。俺はユイやメルバードと一緒に冒険者やって、三人でいつまでも楽しそうにしているルリハを見たいんだ。だからお願いだ、踏みとどまってくれ。俺のことは焼いてくれて構わない。だけど、自分の体のことは大切にしてくれ。ルリハを大切だと思っている人はルリハが思っている以上に多いんだ」
ユイのこととか、ハクちゃんの話とか。
あれらは全て口からでまかせというわけでもないし、事実二人共ルリハの事を大切に思っているだろう。
だが、あれは俺の思いではない。ユイとハクちゃんの気持ちを代弁しただけだ。
だから、全然気持ちが伝わらなかったし、ルリハが止まってくれなかったんだ。
なら今度は包み隠さず俺の感情を全て言葉に乗せて伝えた。
これでルリハが止まってくれなかったら俺はお手上げだ。




