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4-52『テライ・ベストノイ1』

 私は物心がついたときから人の気配に敏感だった。

 寝ていても人が近づいてきたということに気がつくし、それが誰なのかというのもすぐに分かった。

 だから誰かが近づいてきたら直ぐに起きて挨拶をしていると、よく気味悪がられたっけ。


 今思うと物心ついたときから『テライの世界』は発動していたんだろうけど、その時はまだ切り札(カード)なんて存在は知らなくて、みんな私と同じだと思っていたから何にも不思議に思っていなかった。

 むしろ、どうしてみんな私のことをそんなに怖がるのか、それが意味分からなかった。


 私のこの力が特別なもの、切り札(カード)何だということを知ったのは暫くしてのこと。

 私が魔法を先生に習い始めた頃のことだった。


 私も他の人たちと同じように冒険者学校に通いたかったけど、私の家はとても大きくて貴族というものだったから外に出してもらえず、冒険者学校に通える年齢になるよりもずっと早くに家庭教師をつけられて魔法の勉強をしていた。

 その時に私の動きを見ていた先生が私の切り札(カード)に気がついて、指摘してくれたことによって私だけの力なんだと知った。


 その時はとても喜んだ。

 だって、私だけの力ってなんだか格好いいし、頑張れば先生のことも欺くことだって出来たから、これがあれば私はもっともっと強くなれるって、そう思っていた。


 私が部屋の外に出れるのは決まって先生に稽古をつけてもらうときだけ。しかも、屋敷の外には出ることは許されず、中庭で教えてもらうのみ。

 私の中でどんどんと外へのあこがれが膨れ上がっていった。


「お父様、私、お外行きたい!」


「何バカなことを言っている。そんな事を考えている暇があったら勉強しなさい」


「……」


 部屋に来たお父様に希望を伝えたとしても、勉強しろの一点張りで、一度も外に出る許可は出してもらえなかった。

 あとになって分かったんだけど、これは私を外の世界と関わらせないためというわけではなく、私の切り札(カード)の効果が気味が悪いから、他の人に見せたくないということだったらしい。

 如何にも貴族らしい体裁を保つための手段だった。


 でも、その時の私はそんな事知る由もなく、ただただ落ち込むのみだった。


 魔法のお勉強は大好きだった。

 魔法を学べば学ぶほど自分の知らない世界が見えてきたような気がしたから。

 魔法は凄い。自分の知らない力がどんどんと分かってきて、そして出来ないことがどんどんと出来ていくその感覚が私にとっては新鮮で、外の世界にはどんな魔法があるんだろうと、好奇心旺盛だった私は先生を質問攻めにしたことだってあった。


 魔法を学ぶのは楽しい。

 だけど、そんな生活を続けているといずれ私にも限界が訪れた。


 好奇心旺盛だった私は屋敷の人たちの目を盗んで一人勝手に屋敷を飛び出して屋敷の外に出てしまった。

 すっごく新鮮だった。

 見たことのないもの、見たことのない料理。私の知らない世界はそこにあった。


 いつしか私はスキップをするようになっていた。


「世界はこんなに広くて美しいものだったんだぁっ」


 お父様やお母様に縛られることもない、自由な世界。

 屋敷で一生を終えていたら確実に見ることが出来なかった世界。今までの私の世界は屋敷の中が全てだったけど、この日から私の世界は大きく広がった。


 次の日も私は屋敷の人たちの目を掻い潜って外に出た。

 こんなに楽しいこと、止めろという方が無理な話だ。だから私は毎日のように屋敷を抜け出して遊びに出た。

 もちろん、バレないように先生が来てくださる日は自制して魔法に励み、先生が来られない日に抜け出す。やっちゃいけないことをしていると言うスリルもあって、私はとても楽しかった。


 そんなある日のことだった。

 私は偶然、川辺に集まっている数人の子どもたちを発見した。


「おいおい、こいつ、魔法もまともに使えないんだぜ?」


「はっ、最低だなぁ! こんなんで将来冒険者になりたいとか言ってんのかよ」


「寝言は寝て言えよ」


 大声を上げて取り囲んだ一人の女の子を嘲る男の子たち。

 私はいじめと言う言葉は知らなかったけど、それでも男の子たちの言葉を聞いていると段々と不快になってきて、気がついたときには身体が動いていた。


「みなさん、寄って集って悪口を言って、恥ずかしくないんですか?」


「ち、なんだお前」


「これからが良いところなんだから入ってくるな」


「そーだそーだ」


 男の子たちの目からしたら私はただの世間知らずのお嬢様。

 どうせ私は何も出来ないだろうと思って好き放題言ってくれた。だけど、私は今日までたくさん先生から魔法について教えて貰ってきた。

 だから、男の子たちを追い払うのなんて簡単だった。


「『ファイアボール』」


 男の子たちには当てないようにちょっと離れた位置に『ファイアボール』を撃ってみせると男の子たちの態度は激変。

 目が飛び出そうな表情をし、鼻水を垂れ流しながら『ファイアボール』によって焼け焦げた草に目を向けると、ゆっくりと私へ視線を向けた。


 そして、今度は当てるというように手のひらに再び『ファイアボール』を作り出してみせると、男の子たちは脱兎のごとく逃げ出した。


「う、ぐすっ」


「もう大丈夫ですよ? はい、ハンカチをどうぞ」


「あ、ありがとう。えっと……」


「私はテライ・ベストノイ! あなたは?」


「わ、私はニル……ニル・エステンダー」


「ニルね! いい名前」


 それから私とニルは直ぐに仲良くなった。

 その日は一日中ニルと遊んで、おやつの時間にはニルの家に連れて行ってもらって、一緒にお菓子を食べた。

 あの時の楽しかった時間はどれだけ時が過ぎようとも色褪せることはないとおもう。


 このまま楽しい日々が続けばいい。そう、思っていたのだけど。


 その日、いつもご飯を配膳してくれるメイドさんが新聞を手に持っていた。

 それ自体はよくあることだし、普段なら気にもとめないのだけど、その時は気になってしまってメイドさんにお願いして新聞を見せてもらった。

 なんか、嫌な予感がしたんだろう。これが恐らく虫の知らせってやつなんだ。


「え、ニル」


 そこに書いてあった内容は、エステンダー一家が行方不明となったと言う最悪のニュースだった。

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