4-50『オーズ・ウケイランド4』
「ぐああああああああああああああああああああああああああああ」
「弱い弱い、こんなに弱い人間が、俺にどうしては向かうことが出来る? 命知らずの自殺志願者にかまっている暇は、俺にはないんだよね」
「ぐ、ぐぅ……」
すでに地べたに這いつくばり、指一本動かせないほどにぼこぼこにされてしまったオーズ。だが、それでも決してあきらめない。ここで諦めていたら自分は一生賢者なんかにはなれやしない、ゼルドガルの隣に立つことはできないだろうからと。
だからもう鉛のように重くなってしまった身体を必死に動かし、魔人に食らいついた。
「もう、しつこいなぁ。君、まだその傷なら助かるかもしれない。だというのに、命を捨てて俺に立ち向かうというのかい?」
「オレの覚悟だ」
「ふーん、まぁいいさ。じゃあ、死にな」
簡単に蹴り飛ばされたオーズに迫る魔力弾。
それをオーズに防ぐ術など持ち合わせておらず、そのまま魔力弾はオーズの肉体を貫いていった。しかも心臓をかすっていった。
「こ、はぁっ」
あまりにも強い魔力を浴びてしまったオーズの肉体は貫かれたことよりも魔力に焼かれるような苦しみを味わうことになり、あまりの激痛にオーズは地面に転がり、苦しみ藻掻くことしかできなくなってしまった。
その光景に魔人は笑みを浮かべる。
「何だよその恰好。覚悟だなんだと格好つけた割にはかっこわりぃじゃねぇか。藻掻くその姿、死にかけの虫みたいで気持ち悪いぞ。あはははははははは」
悔しい。何が何でもぶん殴ってやりたい。
オーズがそう思っても力が入らないものはどうしようもない。
オーズの努力虚しく、このまま魔人はオルターンへ向かってしまい、自分はここで犬死してしまうのかと、オーズが絶望しかけたその時だった。
「オレの友達を笑うんじゃねぇ!」
幼馴染兼親友がの声が聞こえた。
凄まじい風が吹き荒れ、力が入らないオーズは風に飛ばされるしかない。
この風を浴びたことによってゼルドガルが来たということを理解したオーズは安心してしまい、意識を手放してしまった。
その後、魔人とゼルドガルの戦いがどうなったのか、オーズは知らない。
だが、いつの間にか戦いは終わっていて、オーズは診療所のベッドに寝かされていた。全治一年というとても重い症状。
それもそのはず、オーズはこの戦いで魔人の強い魔力を浴び、胸に魔痕が出来てしまっていたのだ。そしてそれは体の内部にまで出来上がってしまっていて、心臓にも魔痕は出来上がってしまっていた。
魔痕があると傷口は永遠に塞がらない。
とりあえず延命処置としてこの傷口が開いたままでもこれまで通りの生活が送れるような処置は施されたが、それでも心臓に魔痕が出来てしまったという事実はとても重く、激しく運動をすると心臓が痛み出し、最悪の場合ショック死してしまうという非常に難儀な体になってしまった。
☆☆☆☆☆
心臓の魔痕は今でもオーズの肉体を蝕み続けている。
そのため、戦おうなんてした暁には、今の様に心臓が痛み、動けなくなってしまうことも珍しくはない。だが、今ここでオーズが動かなければこの場にいる冒険者たちは全員テライによって惨殺されてしまう。
それはオーズが自分の身を犠牲にしてでもどうしても避けたい未来だった。
だから、心臓が痛み、活動の限界が来ていたとしても、そしてその結果自分が死ぬことになろうとも、今この街を守れるなら本望と考える頭のねじが外れてしまっているオーズは心臓の痛みなんてないと言わんばかりに堂々と立ち、テライを睨みつけた。
(雰囲気が変わった? さっきまでとどこか違う。もしかして、自分で戦う覚悟が決まったのかな? ギルドマスターさんはどんな戦い方をするのかな~楽しみっ)
オーズの雰囲気の変化を感じ取るも、それを危険に感じていない辺り、魔人としての自信があり、どんなことがあっても自分が負けることはないと信じ込んでいるということが分かる。
だが、それが命取りとなる。
「さぁ、どこからでもかかってきていいよ!」
「じゃあ、遠慮なく」
もう、自分の体がぶっ壊れてもいい。その覚悟で自分に『身体強化』を施す。
これはオーズの身体がこうなってしまう前に使っていたオーズの戦法。『先見の明』と『身体強化』を掛け合わせた戦い方だ。
未来が見えるオーズには『身体強化』の速度で戦っていたら、今後の展開が全て見えるも同然。スピードを生かした近接戦、それがオーズの得意分野だ。
ダンっと地面が抉れるほどの力で地面を蹴って走り出したオーズは一瞬でテライの視界から外れる。
(速いっ!)
瞬間速度はテライの速度を大きく上回っており、あろうことに魔人であるテライの動体視力で追いつけないほどの速度を出してしまったのだ。
完璧にオーズを見失ったテライは周囲を警戒する。
視界から外れたとしてもテライには『テライの世界』がある。これさえあれば範囲内にある有色物の位置は完璧に把握することが出来る。だが、そのレーダーにオーズの反応は無かった。
「なんでっ!?」
それはテライにとっても初めての経験だった。
色がある相手だというのに『テライの世界』で動きを捉えられなかった人は今までただの一人として存在しなかった。それもそのはず、テライが今まで戦ってきた人で、今のオーズ以上の速度を出せる人というのは存在しなかったためである。
オーズの本気は賢者一歩手前と評されるほどの実力。賢者に一歩届いていないだけで、賢者に片足を踏み入れているような存在なのだ。
ナメていると魔人であろうが、痛い目を見るのは確実。
「だぁっ!」
「ぐぅっ!?」
突如左側から迫ったオーズはテライの顔面に右ストレートを放ち、殴り飛ばす。
その威力は速度も相まって『豪拳』を使ったわけではないというのに、その威力を上回るほどの威力を出してテライをぶっ飛ばす。
いくつもの木々を薙ぎ倒してようやく止まることが出来たテライにさらなる攻撃が迫る。
「お前がどこからでもいいって言ったんだからな、後悔するなよ」
「ちょっ!」
次々と繰り出される連続の拳。
戦えないオーズだって今日の今日までただただ事務仕事だけをしてきたというわけじゃない。あまり激しい運動はするなと言われてはいたものの、特訓自体はずっと続けていた。
今日のような日がいつ来てもいいようにずっと備え続けていた。
今、その成果を見せる時。
「『増殖拳』」
「ぐあああああああああ」
最後のトドメとばかりに顎へのアッパーカットで上へ殴り飛ばす。
この一撃はさすがに聞いたのか、テライは地面に落ちて倒れる。
テライは恐らく自分の切り札に過信していて、あまり鍛えると言ったことはしてこなかったのだろう。それがオーズとテライの差というものだった。
同じような能力を持った二人。だが、努力を続けて来た者と努力を怠ってきた者。その差は歴然だった。
(ぐっ)
そこでこれまでにないほどに強い胸の痛みを感じたオーズは思わず倒れ込んでしまった。
当然だ、活動限界を超えた状態でこれほどの動きをして見せたのだ。代償は当然ある。だが、その代償があまりにも重すぎた。
体は一ミリも動かないし、意識は朦朧。今にも気絶してしまいそうだった。
魔痕が痛み、そして胸から出血までしてきてしまった。魔痕の傷口が悪化してしまったのだろう。
元々『先見の明』によって体に負荷がかかっているところに更に無茶をしてしまったのだ。
(だ、だめだもう動けない。このままテライが倒れてくれればいいが、動くならもう……)
オーズは願う。このままテライが起き上がらずに周りの冒険者に倒されるということを。
だが、現実は非情だ。オーズの願いも虚しく、テライはその体を起き上がらせ、立ち上がる。上から倒れて藻掻き苦しむオーズの事を見下ろした。
「あっはっは、なにがあったのかは知らないけど、どうやら私の勝ちのようだね! ざーんねんでしたー。いやぁ、もうちょっとで私を倒せたかもしれないのにねぇ。でも、もうあなたは動けないんでしょ? ならもう諦めるしかないよね。いやぁ、人間にしてはよく頑張った方だと思うよ。でも、これが人間の限界というやつなんだよね」
悔しい。
もうちょっと動ければオーズはテライを倒せていたかもしれない。だというのに、今はもう体が一ミリも動かない。これ以上動いたら自分は死んでしまうというのが直感的にわかるのだ。
「じゃあ、さようならだね。惨めなギルドマスターさん」
死を覚悟するオーズ。
だが、そんなオーズに攻撃が襲い掛かってくるということはなかった。何かが殴られたような鈍い音はオーズの耳に届いたが、それはオーズが殴られたことによるものじゃない。
「おい、オーズ。大丈夫か」
そいつは凄まじい暴風が吹き荒れるとともにオーズの目の前に現れた。
倒れている自分の目の前でしゃがみこみ、後頭部を殴られて自分への攻撃を防いだ人物。
見慣れていて、この場で一番頼もしいと思える幼馴染。
それはゼルドガル・バッドレイの姿だった。
まぁ、心臓の魔痕自体はオーズが急ぎすぎて魔人に一人で突っ込んでしまったことによる自業自得なのですが、優秀すぎる幼馴染を持つと辛いんですよね。
どれだけ追いつきたいと思っても追いつけない存在。だからこそ、オーズは焦ってしまったんです。
さて、あともうちょっとでテライ戦終わります。
なんだかんだ言ってそれなりに長くなってますね。




