1-11『なんかショックだ』
気を取り直して鍋を焚き火の上にセットして水を注ぎ入れる。今回は別容器に予め入れて置いた水をストレージから取り出して注ぎ入れた。
ウォーターショット等で水を作り出して入れても良いんだけど、俺が加減を間違えると洪水が発生する危険があるから基本は別容器に水をストックしてある。そろそろ火付けの道具も買おうか検討中。
そこで昨日食べた残りのレッドボア肉をストレージから取り出す。ストレージに入れてあったから全然腐ってない。
「それ、なんのお肉ですか!?」
「こんなに大きい塊肉、初めて見た」
ユイは目をキラキラさせ、ルリハは興味深そうに肉を観察する。
まぁ、魔物料理なんて奇抜なもの取り扱っているところはほとんど無いし、自分で好き好んで作ったりする人以外あまり魔物肉なんて目にする機会は無いんだろう。
「これはレッドボアの肉だ」
「へぇ〜レッドボアですかぁ」
「え?」
「……ん? え、レッドボアですか!?」
「ユイ、反応遅い」
「え、え、レッドボアって魔物ですよね!? 魔物って食べて大丈夫なんですか? 魔素があるとか聞いたことがあるんですが」
まぁ、大抵はこんな反応になる。
裏の市場では適切な処理の施されていない魔物肉が販売されていて事件にまで発展したこともあるからな。
「魔物によっては適切な処理をしたら食べられるようになる魔物もいる。レッドボアはその内の一体だ。ただし、スライムなんかはどんな処理をしても食えないから気をつけろよ」
「そんなことを言われなくても食べないわよ!」
「絶対に食べませんっ!」
心配はなかったようだ。
でも、スライムの他にも食べられない魔物って割と多いから気をつけて欲しい。間違って食べたらお陀仏だ。
レッドボアの肉を適当な大きさに切って野菜と一緒にぶち込み、調味料を適量入れたら俺がいつも作っている適当スープの完成。
とりあえず腹を満たせて温まることが出来る者と考えて作ったものだ。栄養は摂れる。
「スープですかぁ、いいですね」
「ありがとう」
器にスープをよそい、二人に手渡してから俺も自分の分をよそって近くの岩に腰を掛け、スープを食べ始める。
うん、いつも通りの味だ。特筆して美味しいというわけではないが、冒険中の食料としてはこれで十分だろう。
レッドボアは良い出汁が出るからこれだけ適当に作ったスープでもある程度形になる。
「暖かい汁ものを飲むと落ち着きますね」
「魔物を食べることが出来るとは……私も試してみようかな」
「ルリハちゃんはやめてね!?」
魔物の調理は俺もあまりお勧めしない。魔素を完全に取り除くのは大変だし、少しでも間違えたら死ぬ。
あと、なんかさっきからルリハが料理について興味を示すとユイが全力で止めるんだが、過去に何があったんだよ。大体は予想着くけど。
「……もしかしてルリハって料理は」
「…………」
ルリハの方を見ると目をそらされてしまったので、今度はユイの方を見てみると「あはは」と乾いた笑いを漏らした。
「ルリハちゃんは何というか……すべてに関して天才なんですよ。魔法の腕も、剣術の腕も学園では学年一番だったんです。飛び級の話もあったくらいで、断ったみたいですけど」
「それはすごい。でも、なんで断ったんだ?」
「ユイを一人にはできない。絶対に何かやらかすから」
「なるほど……」
「なるほどじゃありません!」
ルリハの一言ですっげぇ納得した。
「と、とにかくルリハちゃんはすごいんですけど、料理だけはちょっと……なので、いつも食事は私が作っています」
「なぜか私が作ると劇物になる。本当になんでだか分からないんだけど」
「私も本当によくわかりません」
やっぱりルリハは料理が出来ないらしい。
それにしても、劇物になる程度か……フッ、勝ったな。いや、別に俺は普通に料理できるけどな? スープ作れるからな!?
「ハルト君、どうしてそんな勝ち誇った顔を?」
「気にしないでくれ――」
そこでとある問題に気が付いた。
「え、ユイが料理を? 大丈夫!? 指切ったりとかしない?」
「ハルト君の中で私の評価がどうなっているのか気になりますが、料理だけはできます。えっへん」
「ユイは料理と剣術だけは出来る。特に料理はお店と遜色ない」
そんな、馬鹿なっ!? 俺が、負けただと?
俺はこの時、初めての挫折というものを味わった。もう金輪際料理できる風に装うのは辞めようと心に誓った。
「なんか、今度は打ちひしがれていますが、大丈夫ですか? かなり情緒が不安定なような」
「ユイ、気にしないであげて。男の子にはこういう時期もあるのだろう」
「な、なる……ほど?」
ルリハに変なレッテルを貼られてしまった気がするが、今の俺にとってはそれどころじゃなかったため、ツッコミを入れることすらできなかった。




