4-49『オーズ・ウケイランド3』
未来を見ることが出来るようになってからの成長はとても早かった。
オーズが習得した未来視、切り札『先見の明』(オーズ命名)は常に発動されている物であり、通常であれば切り札を使用することによって切り札を鍛えることが出来る者ので、常時発動タイプであるオーズのそれは生きているだけでも鍛えることが出来るというものであった。
しかし、それと同時にある欠点を抱えていた。
常時発動型ということは、切り札を使用するときにかかる負荷というものが常にその身にのしかかってきているような状態なのである。
そのため、オーズはいくら休んだとしても疲れは取れず、それまでの様な戦い方というものがだんだんとできなくなっていった。だが、それでも『先見の明』を習得したオーズは多少実力が落ちたとはいえ、未来が見えているため、端から見たら前よりも成長しているように見えるほどのものだった。
そしてオーズが切り札を習得してから約一か月、ついにオーズは冒険者を返り討ちにした。
「はぁ……はぁ……わ、分かったかい? 僕は君よりも強い」
決して誇れるような状態ではなかった。
必死に『先見の明』で冒険者の動きを読み、攻撃を回避してタイミングを見計らって投げ飛ばす。ただそれだけの事なのに、冒険者とは違ってオーズの息はかなり上がっていた。
だが、それでもオーズが冒険者を投げ飛ばしたということは事実だ。
「オーズ……とか言ったか?」
「ようこそ、オルターンへ。歓迎するぜ、ギルドマスター」
「じゃ、じゃあ!」
「まさか、あの時の坊主が俺を投げるまでに成長するとは思わなかったけどな。ま、戦いを続けたら間違いなく俺が勝つだろうが、あんたの成長に免じて認めてやるよ。頑張れよ」
「はいっ!」
こうしてついにオーズは魔境オルターンのギルドマスターとなった。
ギルドマスターになった以上、これまで以上に強くならなければ話にならない。冒険者たちを纏めなければいけないのだから、所属している冒険者たちよりも強いのは大前提として、ギルドとして仕事の斡旋や事務仕事なども山積みだ。
どこのギルドマスターも山のように積まれる書類にはいつも苦しめられている。
そして、そのキツキツスケジュールの中、ギルド内最強の実力を求められるオーズは必死に努力をした。
幸いにもオーズは切り札のおかげで飛躍的に実力を伸ばせる。ただ、その過密スケジュールのせいで、ただでさえ休ませることが出来ていない体に鞭を打つ結果となり、オーズの疲労は更にひどいものとなって行った。
「隈、酷いなぁ……最近寝ても寝た気がしないし……やっぱ『先見の明』のせいかな」
オーズも気が付いている。
自分が切り札を得てから全然体を休ませることが出来ていないということを。オーズはそれに気が付かないほど馬鹿ではなかった。
あまりにも深く刻み込まれた隈。これはちょっとやそっとメイクを施したところでごまかせる代物ではないだろう。
この顔で人前に出たら心配されてしまう。
「どうしたものかなぁ……」
そこでオーズは思い出した。
「そう言えば、この前出張した街でサーカスを見たんだよなぁ。あのピエロのメイク、結構濃かったけど……ちょっとやってみるか」
ギルドマスターがピエロのメイクというのはどうかと思ったオーズだが、この顔のまま人前に出るよりはいいと考えた。背に腹は代えられない。
試しにピエロメイクをしてみたオーズだが、これがビンゴ。見事、隈を隠しきることに成功した。
ただ、突然ピエロメイクをしたオーズに冒険者たちは困惑。体調の心配はされることはなかったが、代わりに頭の心配をされることになってしまった。
だが、元々オーズはこの街ではひょうひょうとしたキャラを演じていたため、ピエロ衣装とも合っており、特に違和感なくすぐに受け入れられるようになった。
「お、おいオーズ、なんだよそれぇ、かっはっは、ひーひっひ、腹痛てぇ、なんだその恰好」
「それで、今回ゼル君に来てもらった理由なんだけど」
「おいおい、そのまま話し進めんのかよ! もうちょっとテメェの格好について説明してくれよ」
目の前で笑い転げるゼルドガルを無視してオーズは話を続ける。
「僕の『先見の明』で、この街が滅びる未来が見えた」
「…………はぁ? マジか?」
ゼルドガルがまじめなトーンになって問い返す。それに対して静かにオーズは首肯した。
オーズは今日までの間、切り札を成長させてついに自分の意思で発動することによって切り札の効果を高くすることに成功。一週間以内だったら周囲の未来をぼんやりと見ることが出来るようになったのだ。
「テメェも居るし、この街の奴らはSランクが多いんだろ? なんで、んなことになってんだよ」
「わからない……でも、この街を滅ぼすことが出来るほどの脅威が近づいてきていることは間違いないはずなんだ。『先見の明』が外れたことは無いんだから」
「はぁ……なら、この街はもう終わりなんじゃないか? テメェの言葉が正しけりゃ、何してもこの街の滅びは防げねぇんだろ?」
「そう……だけど、頑張れば未来を変えることが出来る。僕が冒険者を投げ飛ばして、このギルドのマスターに就任できたみたいに。君なら、君の力なら、どんな強大な相手が居たって何とかなる、そんな気がするんだ」
「随分とオレを高く買ってくれてるみてぇだが、オレも一人の人間だ。救えねぇ命もたくさんある。そのことは忘れんじゃねぇぞ」
「あぁ、全てを救ってくれるなんて、そこまでのことは期待してないよ」
「はぁっ!? 期待しろや!」
「一体どっちなんだい……」
自分一人ではどうしようもない。だからオーズは久しぶりにゼルドガルに連絡を取って助けを求めた。
もうゼルドガルに助けを求めずともどうにかなると思っていた。だが、その矢先に見えたこの未来。オーズは覚悟よりも恐怖が先に来ていた。
オーズは次期賢者候補とまで呼ばれるほどに成長していた。
この街の冒険者たちよりもずっと強くなっていて、オーズ一人いればたいていの魔物は対処できるというほど。だが、それでもオーズ本人は賢者と自分の間には大きな差というものを感じていた。
それはオーズが知っている賢者という存在がゼルドガルだけだったからなのかもしれない。ゼルドガルが賢者としてのオーズの基準となってしまっていたのだ。
もっと強く、もっと早く功績を上げなければと焦る。
数日後、オルターンには一体の魔人が現れた。オーズは間違いなくそいつがオルターンを滅ぼす原因の魔物だということを理解し、魔人がオルターンに到達する前に一人で魔人へと立ち向かった。
理由としては、オルターンの人々を守りたいという思いが強かったし、何よりももっと早く強くなってもっと功績を上げなければいけないと思ったからだ。
魔人をソロ討伐することが出来れば功績は十分すぎるほどの物だろう。
だから、焦ってしまったのだろう。




