4-47『オーズ・ウケイランド1』
「あっはは〜、そう、その表情だよ! 私はその表情が見たかったんだよ! ギルドマスターという人物が絶望した表情。どう? 悲しい? 悔しい? それともそのどっちもかなぁ? とてもその表情いいよ! あなた、ずっとその表情で居たら? あっははは!」
オーズの表情を見てテライが楽しげに笑う。
目を伏せ、仲間が大量に傷つけられたことを悲しんでいる彼のその表情はテライの目には最高に面白い表情に映っているのだろう。
オーズは再認識する。
やっぱり魔人と言うやつは本当に化物揃いであるということを。
Sランクの魔物くらいならこの場にいる冒険者が一丸となって戦えば倒すことは出来るだろう。だが、魔人はそんな次元に居ない。
Sランクに上り詰めた、その努力も全て嘲笑うかの如く全てを無に帰す。
「くっ」
オーズは胸に手を当てた。
眼の前に居る魔人をどうしたら倒すことが出来るのか、この場にいる人たちだけでどうやったら倒せるのか……。
何度考えても良い策は思いつかない。何度『先見の明』で見たとしてもみんながこのテライという魔人に惨殺される未来しか見えない。
正しく絶望の未来だった。
そして改めて思う。こんな魔人と戦える賢者もまた、化物であると。
ただ、魔人を倒すためには賢者が複数人必要だと考えられている時点で、Sランクでは到底太刀打ちできるはずがないのだ。
(なぜ、俺はなぜ今こうしているっ。俺は賢者に最も近づいたSランク冒険者と呼ばれたんだぞ)
一時期、オーズは賢者入りするんじゃないかと言われるほどに実力をつけていた。だが、今ではそんな声は全く聞かなくなった。
今、オーズは自分で戦うことはそうそうなくなり、ギルドの事務仕事に力を入れていたり、戦いの面では指揮はするものの、他の冒険者たちを戦わせている。
オーズも別に戦えないわけじゃない。
前線を離脱して力が衰えているわけでも決して無い。オーズには戦えない理由があった。
「はぁ……はぁ……くっ」
苦しげな息を漏らしギュッと胸の辺りの服を握りしめるオーズ。
(限界か……)
オーズも本当は出てくるつもりはなかった。だが、あまりにもテライが予想以上に強かったため、出てこざるを得なかった。
出てくるとしたら本当はもっと早くに戦いを終わらせて直ぐに切り上げなければいけなかったのだが、その想定をすでに大幅に超えてしまっていた。
視界が歪む。仲間たちが次々とやられていく姿を見るというストレスもオーズの身体に負担をかけていた。
(心臓が痛む……視界もぼやける。でも、俺はまだ――)
オーズは意識が朦朧とする中、とある事を思い出した。
☆☆☆☆☆
十年前、オーズ・ウケイランド十五歳。
この日、オーズは冒険者学園を卒業し、ついに一人前の冒険者となった。
「おい、オーズ。おせぇぞ」
「ゼル君、君が早すぎるだけだ……まさか一年で卒業しちゃうとは」
オーズとゼルドガル、二人は幼馴染であり、共に冒険者学園へ入学した間柄だった。
だが、ゼルドガルに関しては入学して一年で飛び級卒業を果たしてしまったため、オーズにとっては一緒の学園に通っていたという感覚は無かった。
ゼルドガルはそれほどの天才だった。
「まさかオレが在学中に賢者にまでなるなんてね」
冒険者学園を卒業して二年後のことだった。
国中に賢者就任のニュースが轟き、ゼルドガルが賢者になったというのだからオーズは目が飛び出そうなほどに驚愕した。
もともとゼルドガルの戦闘センスは異常なものが有り、何度手合わせをしてもオーズがゼルドガルに勝てるということはなかった。
その頃からオーズは感づいていたのだ。ゼルドガルなら、賢者に届くんじゃないかと。
流石にこんなに早いとは思ってはなかったが。
「オレとしてはただがむしゃらに戦ってただけだけどな」
「はいはい、天才君は凄いですねぇ」
「あ、テメェ今オレのこと馬鹿にしたか!?」
「そんなそんな、賢者様のことを馬鹿にするなんてそんな恐れ多い……」
「やっぱりテメェオレのこと馬鹿にしてるだろ!」
立場は変わってしまった。
だけど、二人の仲はそんな立場ごときで切れるようなものでもなく、オーズは賢者ゼルドガルと軽口を叩ける唯一の人物となった。
冒険者になったらパーティーを組もうと約束していた二人だが、流石に賢者が特定のパーティーに入って冒険をするわけにはいかず、二人はパーティーを組むことは出来なかった。
でも、オーズが助けを求めたらゼルドガルは何を置いても最優先で協力するようになった。
流石に賢者とそんなに親しげにしていたらやっかみもあったが、二人は全く気にすることはなかった。
だが、そんな日々も長くは続かない。
オーズもゼルドガルと共闘できるようにと必死に努力を続けた。
流石にゼルドガル程の天才ではなかったが、通常ではありえないほどの速度でランクをあげていき、一気にSランクまで駆け上がってしまった。
だが、駆け上がるほどに分かる、幼馴染との距離。
どれだけ走ったとしても距離が縮まっている気がしないと、オーズは体感した。
このままじゃダメだ。
なんとかして功績をあげなければと焦ってしまったのだ。
『オーズ・ウケイランド』がこの話含めて四話続きます。




