4-46『テライの世界』
オーズが合図を出したのを皮切りに大量の魔法がテライへと遅いかかった。
テライの全方位を包囲した視界を埋め尽くすほどの魔法に目を輝かせるテライ。その様子はまるで新しいおもちゃを見つけた子供のよう。
テライは自分がこれを乗り越えることが出来るかどうか、自分の限界がどれほどのものなのか試したくてうずうずしているのだ。
「あはっ、ハイドについてきてよかった!」
楽しそうにそう言葉を漏らすとテライは目をきらりと輝かせ、そして体を動かした。
オーズはてっきりこの量の攻撃ならばさすがに『守護』を使うものだとばかり思っていたのだが、テライは『守護』を使うことはなく、無防備な状態で魔法の嵐に立ち向かう。
目に見えている魔法。普通なら回避する道なんて見える物じゃないのだが、テライには見えていた。
的確にどの魔法が一番早く自分に到達するかの遠近感を見極め、そしてわずかに生じた魔法発動のタイミングのずれを咎めるように身を動かし、隙間を縫って回避する。
こんな芸当、魔人だから出来るというわけではない。
賢者ですらこんな動きが出来る人は居ないことだろう。つまり、テライの動体視力は普通で考えても異常だということが分かる。
「死角ってもんは無いのかっ」
テライの動きに、さすがのオーズも笑うしかない。
オーズは『先見の明』で予めこのパターンだとテライはどう動くかというのを見てから指示を出して魔法を出させている。だが、テライはオーズのその『先見の明』から大きく外れている。
テライは『先見の明』に左右されない特異点。
(オレの『先見の明』でも動きを捉えられないのは賢者トップ三位なものだと思っていたが、こいつもオレが捉えることが出来ない相手っ!)
気が付くとテライはオーズの目の前にまでやってきていた。
「やっほー」
「敵陣の大将をいきなり討ち取りに来るとはマナーがなってないね」
「だってそれがセオリーでしょ?」
「間違いないねぇ」
再び目の前に迫るテライを見て額に冷や汗をかくオーズ。
オーズの基本スタイルは指揮。タイマン勝負となった時にかなり分が悪い勝負となる。
テライはオーズに迫り、オーズとの直接対決を望んでいるのだろうが、オーズがそんな勝負を受ける義理なんてものは無い。そのため、オーズが取る行動はただ一つ。
「オレは逃げるけどね」
「なっ」
テライが踏もうとしたその地面、そこに予めオーズは魔法を仕掛けていた。
無属性の罠魔法、『スリップ』。その場所の摩擦を完全にゼロにし、滑りやすくするという罠魔法だ。ただし、効果範囲が狭いため、相手がどこを通るかを正確に把握できるオーズくらいにしかまともに使いようがない。
オーズの読み通り、『スリップ』を踏んだテライは抵抗できずにそのまま地面へ転がり、その隙にオーズは背後へ飛び退いてテライとの距離を開ける。
ここでオーズは違和感を抱いた。
(さっきまで彼女はありとあらゆる魔法の位置が分かっていてどのように動くかも完璧に把握しているような動きをしていたけど、『スリップ』にだけは気が付かなかったのか?)
確かに普通で考えたら見えなかったからと説明が付くが、さっきまでのテライの様子を見ていたら見えなかったからで説明を片付けるというのは少々難しい。
さっきまでの動きはまるでテライ同様、未来を見ることが出来ていて、そこに魔法が飛んでくることが分かっているから回避出来ているような立ち回りだった。
(いや、待てよ? 見えなかった?)
オーズは一度自分が否定した言葉が引っかかった。
今までテライが対処してきている物は全て見えている事象に限られている。目では見えない『スリップ』や、テライの攻撃に反応して発動した『守護』には対処できず、オーズに攻撃を止められていた。
これがオーズのような未来を見ることが出来る力を持っているのだとしたら、間違いなく『守護』を突破してオーズを攻撃していたことだろう。
(つまり、見えないものは対処できない? なら、試してみる価値はある)
オーズは指揮をする。
転倒したテライに対して再び魔法を放つように指示。テライを大量の魔法が襲い掛かる、だが、その中の一つにだけ『遅延』を掛けるように指示を出した。
『遅延』は魔法のエフェクトはそのままに、効果の発動タイミングだけ遅らせることが出来る。つまり、実質的に見えない魔法を未来へと飛ばすという効果があるのだ。
そこにオーズは目を付けた。
「もうっ、何をやっても意味はないって言って――」
ドガン。
テライは完ぺきに魔法を回避していたはず。だというのにテライの体は爆発を引き起こした。
これはテライが爆発したというよりかはテライに直撃した『遅延』を付与された魔法『紅蓮廻炎』が爆発したというもの。そしてそれに直撃した衝撃によってリズムが崩れたテライには周囲の魔法が次々と襲い掛かった。
(そうか、やっぱり見えないものには反応できないんだ)
初めてテライにまともに魔法が直撃した。そのことに自分の考えが正しかったんだと答え合わせをすると同時に確かな手ごたえを得るオーズ。
テライの厄介さはあの回避能力にある。あの回避能力さえ奪ってしまうことが出来ればオーズたちの勝ちだ。
「もう……やっぱり面倒くさいね。あんまりやりたくなかったんだけど、ちょっと乱暴するよ」
「え?」
体勢を整えたテライは左右に手を広げると魔法を発動する。
「『風刃』」
それは風属性の初級魔法。風の斬撃を飛ばすことによって相手を斬り裂くという魔法だ。
誰もが覚えることが出来るほどの魔法ではあるが、このタイミングで使うには相応しくない。
そんな魔法を使おうともオーズの『先見の明』の前には全く通用しない。だからオーズは全力で『先見の明』を使い、『風刃』がどこへ飛んでいくのかを予知する。
そこでオーズはとんでもないことに気が付いた。
オーズが見た未来、そこではオーズには一切『風刃』が飛んでくることはない。その代わり――
「お前ら全員、全力で身を守るか逃げろ!!」
指揮をすることも忘れ、オーズは叫ぶ。
建物の上や地上など、テライから直接狙うことが出来るような位置にいる冒険者は常に身構えていた。そのため、オーズの声が聞こえた瞬間に状況を把握して『守護』を展開。
さすがに『守護』を破ることが出来るほどの威力は無いため、身を守ることに成功していた。
だが、建物の陰や内部に潜んでいた冒険者に関しては、テライから視認することはできないし、何かにぶつかったら消えるような儚い攻撃のため、自分に届くことはないだろうという浅はかな考えで油断をしていた。
その結果がこれだ。
「があああああああああああああああああああ」
「ぐうああああああああああああああああああ」
「がはぁっ」
「ぎゃああああああああああああああああああ」
そこら中から悲鳴が聞こえる。
これらは全てオーズが潜ませていた冒険者たちの声。オーズは青ざめた。
テライが放った『風刃』は確かに操ろうと思えば操ることが出来るため、障害物を躱して相手にぶつけるということは可能だけど、見えていない冒険者の位置を完璧に把握し、障害物を完璧に避けて冒険者に直撃させていた。
威力的に死に至ってはいないだろうが、当面動くことが出来ないくらいのダメージにはなっているはず。
「ふぅ……これで君に集中できるよ。ギルドマスターさんっ」
「どういうことだ。なぜ冒険者たちの場所を」
「君の読みはとてもよかった。見えない物には対処できないって、そう思ったんでしょ? その通りっ! 私はね、透明な物には反応することが出来ないの。逆に言うとぉ、不透明なものは完ぺきに把握できる。私には君たちの動き、全て見えているんだよ。私の周囲にある物全て、私には手に取るようにミエテイル」
「っ!」
「君たちはね、最初から私の世界――そう、『テライの世界』に迷い込んでいたんだよ!」
そう言ってテライは自分のポケットに手を突っ込む。そうして手を出していた時には一枚のキラキラと輝くカードが握られていた。
今回からテライ戦を最後までやっていくわけなんですが、たぶんガラド戦ほどはいかないどころか、半分くらいになる気が。
実は、ガラド戦も実際の半分くらいの長さで想定していたんですよ。だって、最初は連続で走り切るなんてことは考えていなくて、最後まで交互に書いていく想定だったので、全部同じ長さで話数を確保していたんですよ。
ただ、想定よりもかなり長くなってしまいましたね。
さて、今回オーズが心の中でオレと言っていますが、これはミスではなく、オーズ本来の一人称になります。
普段僕って言ってるのは柔らかい雰囲気を出すためという感じですね。
さて、たぶんあと2話か3話でテライ戦がかんけつするんじゃないかな?
テライ戦は長引かせる予定はないので。というか、テライの能力的には長引いてもおかしくないスペックなのですが、今後の展開的に長引かせようもないんですよね。
では、お楽しみに!




