4-44『ガラド・ダルドラーン3』
「おいおいぃ……俺にちょっかいかけるならよぉ……もうちょっと頑張ってくれよおいぃ……」
「うがああああああああああああああああ」
俺は人間としての道を外れてしまった。
未だにギャンブルは続けていたが、それ以外にわざわざ危険な路地裏なんかに行って襲い掛かってきたならず者たちを返り討ちにしてストレスを発散していた。
人を襲おうとしてきたんだ。なら、殺されても文句はないだろう。
切り札で動けないくらいに痛めつけたあと、俺はゆっくりゆっくりと痛めつけていく。
その最中、あまりの激痛でショックのあまり死んでしまうやつも居るが、こんな場所にいる人間のクズなんか死んでも誰も何も思わないだろう。死んだって社会は何も変わらない。
逆に世界が浄化される。
そう、俺はすでに正義のヒーロー気取りだった。
だからだろう、そんなことをしていたから俺の目の前には一人の男が現れた。
「なんだぁ?」
「お前がガラド・ダルドラーンか」
そう言った男の視線は俺が組み伏せて、今ちょうど腕を折った男へと注がれる。
明らかに常軌を逸していて、普通ならこの男――ハイドがやばい奴なのだと気が付くはずなのだが、この時の俺はかなり頭がイってて、特にその男に対して脅威などは感じなかった。
「俺にぃ、何か用かぁ? それとも、お前も俺にちょっかいかけるつもりかぁ?」
「俺はお前をスカウトしに来た」
「スカウトだぁ?」
「共に人間どもを殲滅しよう。この世の害悪を全て消し去り、世界をクリーニングしよう」
最初は何を言っているんだと思った。
だけど、ハイドは強く人間を恨んでいて、すぐにそれが本気なんだと気が付いた。
俺はハイドの誘いに乗った。
どうせ俺は人間としては逸脱しているのだ。なら、今更何をしようとも同じ、それなら最後に少しでも誰かの役に立って死にたいと思ってしまった。
そして俺は魔人になった。
魔人は魔力回路を必要としない。今まで上手くいかなかった魔力操作が自在に行えるようになった。
魔人は俺にとって天職だった。
俺はやっと真に自分の力を手に入れることが出来たのだと感じた。
今までの枷は完全に無くなって何も気にせることなくやっと自分の力を振るうことが出来る。そのことに歓喜し、この力を与えてくれたハイドには深く感謝している。
この力があれば俺は誰にも負けない。この魔力量を持ち、俺の切り札があれば一番になれる。
だが、それ以上に湧いてくるものがあった。
俺の中に入ってきた力、それが俺にささやいてくる。復讐をしろと、今まで自分を見ようともしてくれなかったこの世界へ復讐をしろと。
父は魔物に殺されたが、母を殺したのは紛れもなく人間なのだと。
その声が聞こえてからはもう歯止めが効かなくなっていた。
俺は元々ギャンブルにこの鬱憤を晴らしていただけで、元々この感情はあった。だからこそ切り札を使えるようになってからは憂さ晴らしをするようにならず者たちを必要以上に痛めつけていた。
やりすぎているという自覚はあったけど、人を痛めつけているその時だけは人間への怒りを忘れられる。
もう、俺は人間の道には戻れなくなっていたんだ。
俺の怒りは、恨みは、憎しみは、この世界に蔓延る人間どもを駆逐することでしか晴らすことはできないだろう。
だから俺はもう止まれないし、止まるわけにはいかない。どんなことがあろうともハイドと、テライと共に俺は人間どもを殲滅する。
☆☆☆☆☆
瞬間、ガラドの背後から巨大なルーレットが出現し、周囲の動きが完全にストップした。
それは完全に私たちの想定外の事態で、このルーレットの登場には誰も反応することが出来ずに無防備な体勢のまま全員止まってしまった。
急に自我を取り戻した!? 自我を失っている状態で切り札など使えない。
いや、それ以前にそもそも切り札に関してはデスタの切り札によって使えないように封じられていたはず。なのにどうして今使えるように!?
「ち、あいつ、精神力で足掻きやがった! 俺の切り札から抜け出しやがった! なんて奴だ、そんな奴今まで一度も見たことがねぇ! 普通不可能なはずなんだがなぁ!」
「お前ら、調子に乗ってるんじゃねぇぞ。この俺を誰だと思ってる。俺は、魔人ガラド・ダルドラーンだぞ! その程度で俺の力を封じれると思うんじゃねぇ!」
ルーレットが回転を始める。
今からじゃどうしようもない。足掻きようがない、だからとにかく私たちは致命的な内容が出てこないように祈ることしかできない。
ゆっくりと回転が遅くなっていくルーレットだけど、その動きが何だか私たちへの死へのカウントダウンの様に思えてくる。
自我を取り戻した『狂化』した魔人ほど厄介な相手は居ない。私たちの勝ち目はもう――
やがてルーレットが停止。示したマスは緑だった。
次の瞬間、私たちの肉体は自由になる。そして、ガラドの表情はそこまでいいものではなかった。つまり、これはガラドが有利になるというものではないということなのだろう。
ガラドが自我を持って動けるようになったことで、すぐさま攻撃の中から脱出し、デスタとメルフィーとの距離を取る。だが、そんなことをデスタが許すはずもなくデスタはガラドが逃げる速度に追いつくよう、雷を纏って駆ける。
次の瞬間、デスタの足元が爆発し、デスタは吹き飛ばされた。
「ぐあああああああああああああああ」
「で、デスタさん!」
地面を転げるデスタに駆け寄るメルフィー。
見ると、デスタの右足は爆発によって酷くボロボロになっていた。千切れずに保っているのが逆にすごいというほどのもので、もう走れるようには思えないほど。
地面が抉れるほどの爆発を受けたんだ。あの程度のダメージで済んだのが奇跡と言わざるを得ない。
「まぁ、俺に有利になったわけじゃないけどさぁ。別にお前らに有利な効果ってわけでもないんだよなぁ。そいつは地雷だぁ。俺にもどこにそいつがあるかは分からねぇ完全ランダム式爆発罠さぁ。どうだぁ? ギャンブルみてぇでテンション上がるだろぉう?」
「それでテンションが上がるのはあなただけ! 『シャインバスター』」
「まぁ、そりゃ、遠距離なら近づかなくても攻撃できるから地雷を踏む心配はないと言えばないけどさぁ……それ、俺に当たんの?」
「っ!」
雷を纏っているガラドの速度は下手な遠距離魔法では太刀打ちできないほどのスピード。
ガラドは一瞬だけ地面に足を付けて思い切り飛ぶとメルフィーの真横に迫った。そして――
「『デルタスパーク』」
「あがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
メルフィーに手のひらを押し付け、直接高圧電流を流し込むことによってメルフィーの肉体を焼き、一瞬で意識を落とす。死に至っていないというのはメルフィーが魔法を得意としていて、魔法耐性が高かったからということなのだろう。
だが、これでデスタもメルフィーも戦えなくなり、残っている戦える人というのは私のみということになった。
結局最初と同じ。私とガラドの一騎打ち。




