4-43『ガラド・ダルドラーン2』
その日初めて俺はカジノという場所に入った。
その中には俺が今まで見たことのない世界が広がっていて、色々な勝敗がそこかしこで発生していた。
知略を凝らして相手を欺くもの、大金を失ってショックのあまり呆然自失してしまっている者。第一印象としてはまさにこの世の終わりのような場所だなという感じだった。
色々な勝負内容があって、勝てれば金が増え、負ければ金を失う。
一攫千金、人生一発逆転して一気に勝ち組ロードへの道を目指すことが出来る場所。
その中で俺が目を付けたのはルーレット。
ルーレットのマスはそれぞれ倍率が設定されていて、その倍率に金を賭けておけば賭けた金をその倍率分獲得できるという内容。
俺は正直、実力や才能という世界に疲れ果てていたところだった。だから、知略を凝らしたり、相手を欺いたりではなく、運での勝負というものをしたい気分だったのだ。
俺はルーレットを選び、勝負した。
結果俺はその日――大勝ちした。
目がくらむような大金を一夜にして手に入れてしまったのだ。
今までの冒険者業が馬鹿らしく思えてしまい、わらけてくるほどの大金。
もう冒険者をすることに疲れを感じ始めていたタイミングだったため、俺はその大金を獲得した次の日、冒険者を辞めた。そしてそれから毎日と言っていいほどカジノに通う日々となった。
勝つ日もあれば負ける日もある。だが、それでいい。
勝負をしているその時、俺は冒険者をやっている時よりも余程生き生きとしていた。生を実感できた。
金が増えれば血が湧きたつ。外れればまるで真冬の寒空の下、素っ裸でいるかのような感覚に陥る。血が沸騰したり血の気が引いたり、いつしかそれが俺の生きがいとなっていた。
「ふは、笑えてくる。今日も勝てた」
今日も勝利し、ウキウキ気分で帰宅中、俺は懐かしい顔ぶれに遭遇した。
「あれぇ? その顔はガラドく~んじゃないですかぁ」
「っ、なんでこんなところに。バッド」
「俺たちも居るぜ!」
カジノがある路地裏を出たその時、俺は昔共に冒険者を学んだ冒険者学園の同級生たちに遭遇したのだ。
懐かしいという感情以上に俺はこいつらに対して悪感情しか湧いてこなかった。こいつらは在学中ずっと、俺が魔法をまともに使えないことについてバカにし続けて来たから嫌気が差していて、こいつらが王都の近くで冒険者をするというから俺は遠く離れたこの地まで来て冒険者をしていたというのに、こんな場所で会うなんて。
「懐かしいなぁ。お前、まだ冒険者やってんのかぁ? 無理無理、お前なんかが冒険者を続けていたっていつか魔物の餌食になるだけだって」
「っ」
バッドは俺の腰に着けられた短剣を一瞥して馬鹿にするような口調で言ってきた。
これは俺が冒険者をしていた時に魔法をなるべく使わずに戦えるようにと持っていた物。冒険者を辞めた今、そこまで必要のない物なんだけど、なんだか手放すことが出来ずにずっとつけていた。
「いや、俺は冒険者はもう辞めたんだ」
「おぉ、ついに辞めたか! いやぁ、お前がずっと冒険者っていうのは目障りだったからなぁ。俺たちをお前みたいなのと同じに見られたくないからな!」
「あんまり言ってやるなって、くくく、それ以上言うと可哀そうだろぉ?」
絶対可哀そうだなんて思ってない。その証拠に笑って面白がってる。
ただの演出だ。
「これでお前は完全に俺たちの下になったわけだ。もう俺たちに逆らうんじゃねぇぞ」
ドンッと胸を突き飛ばしてくるバッド。
バッドの胸についている通行許可証、それはDランクであることを示していた。俺も同様、元Dランクだった。
だから落ちこぼれであるはずの俺と同じランクというのが気に入らなかったんだろう。その鬱憤を発散するかのように挑発的な表情を向けてきていた。
お前もそんなにランクが高いわけじゃないくせに。
そう思ったら表情に出てしまったのだろう。気が付いたらバッドを睨みつけてしまっていた。
「おい、ガラド。その目はなんだ。お前が俺にそんな目を向けていいわけないだろうが!」
「がはっ」
俺の表情に怒り狂ったバッドは俺の顔面を殴り飛ばしてきた。
この威力、間違いなく『身体強化』を使っている。こんな力を人に向けて使っちゃだめだと冒険者学園でも口うるさく言われるというのに、こいつ、躊躇なく俺に使ってきた。
口の中を切ってしまったのだろう。口から血が出てきて、口内に鉄の味が広がる。
「そうだ、ガラド。この中から出てきたということはカジノに行ってたんだよなぁ? なら、金を持ってるんじゃねぇのか?」
こいつ、調子に乗りやがって。
第一、俺と同じランクだったのはお前の努力不足だ。お前は魔法の才能があったし、俺とは違って健康的な魔力回路だった。
自分の努力不足を棚に上げて、俺を見下して蔑み、あまつさえ魔法を使って俺を殴り飛ばす。本当に人間の屑というほかない。
「ほら、持ってる金を全部寄こせよ。お前みたいなクズが持っていたってどうしようもねぇだろ? それなら俺たちが有効活用してやるからさ、金を全部俺に寄こして来世は才能を持って生まれてくることを祈って人生諦めろ」
金を出さない俺にしびれを切らしたのか、何度も何度も蹴ってくるバッド。
クズは一体どっちだよ。人からカツアゲをして、人のことをあざけり、こうして暴力をふるう。これが冒険者のやることか?
俺が憧れた冒険者はこんなのじゃない。
俺が憧れた冒険者はいつでも人に対して親切にし、努力を怠らず、街を守るために全力を尽くす。そんな冒険者だ。俺も冒険者になってからは常にそうあろうと努力をしてきた。
だが、こいつらはどうだ?
こいつらは冒険者の風上にも置けない。冒険者というのはこの世界のダンジョンの謎を解明して、人類の発展の役に立てたり、街の人々を守るために組織されているもののはずだ。
こんな奴ら、冒険者だなんて認められるはずがない。
――いや、こいつは冒険者じゃないんだ。それどころか、こんな所業、人間がするはずがない。
そうだ、こいつはニンゲンじゃ、無いんだ。
そう思った時、なんだか楽しくなってきた。
ニンゲンじゃないのなら、我慢する必要は無い。人に危害を加えるというのなら、それはもはや魔物と一緒だ。
つまりこれはただの魔物退治。
「お、おい、やるっていうのか? 俺に逆らうっていうのか!? クズのガラドが俺に勝てるわけがないだろうが!」
「おい、それはさすがにまずいって、バッド!」
「魔法で攻撃したらただの弄りじゃ済まなくなる!」
「うるせぇ! こいつは今、俺に逆らった、それがどういうことなのか、こいつに思い知らせてやるだけなんだ! 黙ってろ!」
俺に手のひらを向けて魔力をためていくバッド。
もうすでに魔法を利用して俺を殴っているんだから手遅れだ。今更いい子ちゃんをしようとしたって俺を身体強化で殴ったという事実は変わらない。魔法で冒険者でもない一般人に危害を加えたという冒険者にあるまじき事実は変わらないんだ。
「地獄で後悔しろ! 『ファイアボール』」
切り札というものはその時のその人の人間性によって効果が変化するらしい。
俺の場合はギャンブル中毒者。まさにバッドの言うようにギャンブルに脳を焼かれた人間のクズというものだ。
だから、俺は身の危険を感じたその時、咄嗟に発動したそれは――ルーレットだった。
「なっ」
バッドが発動しようとしていた『ファイアボール』は不発に終わった。というよりも、後から考えたらこれはガラドが止まってしまい、魔法も停止したから発動できないということだったんだろう。
だが、突然のことに俺は驚いてその時は理屈を理解することはできなかった。
ただ、分かることは俺の背後には巨大なルーレットが出現し、黄色のマスを示した時、周囲に稲妻が解き放たれ、俺以外のみんなが一斉に気絶したということだった。
バッドももちろん気絶し、地面に倒れ込んだ。
もう俺が何をしようとも抵抗することはできない。
ごくりと生唾を飲んだ。
さすがに抵抗はあった。だが、今までされてきた、言われてきた数々のことを思い返してみると、怒りが湧き上がってきて、魔が差してしまったんだろう。




