4-41『必死に戦え』
「みんな逃げて!」
私は喉が張り裂けそうな勢いで叫んだ。
凄まじい魔素が周囲に充満する。元々この森は魔素が濃い場所ではあるものの、それがさらに濃く、魔素の影響を受けないはずである魔族の私ですらむせ返りそうなほどの魔素が充満した。
この魔素、ちょっと前に感じたことがある。
ユイたちと初めて共闘したあの時、ガルガという魔人が『狂化』をした時。
あの時、あいつはとてつもないパワーアップを遂げた。だけど、あれはまだ弱い位。
魔人の力に適合し、その力を意のまま操ることが出来るようになった魔人はもっと強いし、もしその状態で『狂化』をしていたら私たちは全員あの場で殺されていたことだろう。
その最悪の事態が今、目の前で起ころうとしている。
ガラドはガルガよりも全然強かった。そいつが『狂化』をしたらと考えると……。
『狂化』は基本、使うとその力が強すぎて力に飲まれ、自我を失うことになる。だが、まれにその力に適合し、自我を保ったまま『狂化』をする魔人も居ると聞く。
それなら最悪だ。
あの超パワーを意のままに操られたら私たちには絶対に勝ち目はない。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ガラドの雄たけび。それを認識した瞬間には目の前に拳が迫ってきていた。
その拳を前にした時、私の脳裏にはただ【死】という一文字が頭を過る。だけど、私の深層心理では自分の身に危険が迫ってきているということを理解していて、それを全力で回避するために動き始めていた。
どしんという鈍い音と共に私の体は凄まじい衝撃波によってぶっ飛ばされた。私を掴んでいた手は私を離し、そしてすべての手を合わせて拳を防ぐことに全力を注いだのだ。
それによって私に拳が直撃することはなかった。だけど、その威力は凄まじく私の体は抵抗することが出来ずに地面を転がる。
だが、その程度の被害に抑えることが出来た。
見てみると今の一撃で亡者の手がボロボロになってしまっていた。それほどの威力を誇っている一撃だった。
亡者の手が破壊されてもまた出せば大丈夫。だけど、私のこの肉体が全く動かない。
また亡者の手を出して私の体を回収させたけど、やっぱり私の体は言うことを聞いてくれない。私の体はこんなにも脆いものだったのか、この程度の攻撃で動けなくなるほど脆いものだったのか……。
先代勇者が今の私の姿を見たらお笑いものね。
「ぐるるるるるぅ」
ガラドが唸り声をあげている。どうやら私の想定していた最悪の事態にはなっていない様子。
自我が無いというのなら、ただただ暴れまわるだけでさっきの厄介な切り札を使って来るということはないだろう。となれば、単純な力勝負となる。
自我の無い相手ならば、私が一番扱い方をよく知っている。魔物の中には自我の無い子も多いから。
問題はその破壊力なのだけどね。
「があああああああああああああああああああああああああああ」
またまた私に飛び掛かってきてパンチを繰り出してきたため、咄嗟に亡者の手に投げ飛ばしてもらって回避、飛んだ先で亡者の手にキャッチしてもらってまたガラドへと向き直る。
ガラドは元々雷属性の適正者だったみたいだし、その影響か『狂化』した後もスピードが速い。
でも、魔法に頼っていたからか、ガルガよりは攻撃の威力が低いようにも思える。
あの状態になることによってすべての力が大幅にパワーアップしていることだと思う。だから魔力も強くなっていて、防御力も上がってる。だから、私一人の力で勝つというのは非常に難しいことだと思う。
だけど、今私は一人で戦っているわけじゃない。
「俺を、無視するんじゃねぇ魔人がぁっ!」
雷を纏い、電光石火のスピードでデスタがガラドへと突っ込んで行く。
その拳は間違いなくガラドの顔面を捉えており、そのままの勢いでガラドを殴り飛ばしたため、ガラドの肉体はまるで蹴り飛ばされたゴムまりのごとく簡単に飛ばされて行き、その威力のあまり木々を薙ぎ倒してゆく。
「はぁ……はぁ……どんなもんだ」
でも、相手は『狂化』した魔人。その程度の攻撃では致命傷に至り得ない。
そもそも、こうなる前にも撃破には至れなかった相手。それを『狂化』した後に撃破出来るわけがない。
ぶっ飛ばされて行ったガラドもすぐに体勢を整えて地面を蹴ると今度は逆にデスタへと突撃し、その顔面に拳を振るった。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ぐぅっ、スピードは上がってるが、対して攻撃力は上がってねぇなぁ! こんなへぼ攻撃で俺をぶっ飛ばせると思うんじゃねぇ!」
でも、ガラドとは違って地面に足を叩きつけて踏ん張り、顔面に叩きつけられたガラドの腕を両手でしっかりつかんで受け止めた。
「ほらな、俺には効かねぇ。ぐふぅ」
強がってはいるけど、全く効いていないわけない。
今の耐えはかなり無茶をしているはず。踏ん張るために身体強化を全開にして受け止めたせいでかなりの魔力を消耗したと見える。でも、デスタは余裕を見せるために笑う。
「俺は、とっととお前をぶっ倒して家族団欒を過ごしてぇんだ!」
ドンっと力いっぱいガラドを足で蹴り、突き飛ばすデスタ。その真横から光が放出された。
「『シャインバスター』」
ガラドを襲う光線。それを放っているのはメルフィーだ。
それはガラドを焼き焦がさんとするが、その攻撃は肉体に纏われる魔力によってその肉体にまでは届かない。
だが、そんなことはデスタもメルフィーも分かっている。だから、そこへデスタの魔法が轟く。
「これが元Sランク冒険者の力だ!! 『壊雷豪拳』
周囲への被害を最小限に抑え、最後の雷の拳のみを飛ばし、ガラドへと叩きつける。
光線と雷の同時攻撃。さすがにこの攻撃を耐え切ることが出来るほどの防御は備わっていなかったようで、徐々にガラドのその肉体は焼け焦げて行く。ちゃんとガラドにダメージが入っている。
だが、それでもガラドの肉体は崩れない。普通ならいくら魔人でも死んでいてもおかしくないほどの火力、『狂化』していてもただじゃ済まないだろう。
意識は無いはず。
それでも必死に戦っているように私には見えた。今まで多くの魔族たちの姿を見て来たからなのかもしれない。
どうして……どうしてそこまで戦うのだろう。
彼には一体、何があるんだろう。彼の行動原理って一体何なんだろうか。
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」




