4-40『ガラドの慟哭』
まともに拳を食らったガラドは簡単に殴り飛ばされ、毬が蹴り飛ばされた時の様に地面をはねて転がる。どうやらあの様子を見るに筋力増強の効果もきれてしまったらしい。
このタイミングで切れるなんて運が悪いわね。もしかして、さっきまで豪運が過ぎたからその帳尻合わせが来ているのかしら?
「ご、がぁ」
ガラドの口から大量の血があふれ出してくる。
相当なダメージになったことだろう。だが、それよりもガラドの様子からして、本来発動するはずだった切り札が発動しなかったのが余程堪えている様子。
ガラドは倒れ込んだまま呆然としてしまっていた。
基本、切り札というものはその人の自信になる。
魔法と違い、自分しか使えない特殊な能力。最後の切り札とも呼べるほどの力を持っていて、使えば圧倒的に自分に有利な状況を作り出せる可能性が高い。
だから、切り札をいつ発動するかという駆け引きも重要となってくる。
だけど、駆け引きがどうこうではなく、ガラドは今、切り札を発動できなかったらしい。普通で考えたらさっき使ったばかりなんだから当たり前と言ったところなんだけど、ことガラドに至っては使えないことがおかしいレベルだ。
デスタの口ぶり的にデスタが何かをしたみたいだけど、どういうこと? 爪痕?
「どうぅ、してぇ……俺のルーレットが出てこないぃ……」
「それはデスタさんの切り札よ」
デスタは答えない。その代わりにメルフィーが口を開いた。
「デスタさんの切り札は自分が傷をつけた相手の切り札を一定時間使用不能にするという効果があるのよ。だから、今あなたは切り札を使えなくなった」
「かーど……切り札だとぉ! カードなんてどこにもねぇじゃねぇか!」
「カードならあるだろ。お前の腕、その傷痕に」
「はぁ!?」
デスタの言葉に驚き、弾かれるようにして腕に視線を落としたガラド。
そこにはまるで爪で引っかかれた傷痕ように三枚のカードが並んで腕に埋まっていた。刺さっているわけではない、そう見えるだけでデスタが切り札を使うとそう言う刻印が出てくるようになっているのだろう。
これは実際に説明されないとデスタが切り札を使っているかどうかなんて初見じゃ全く分からないわね。
「メルフィー、しゃべりすぎだ」
「切り札の封印だとぉ!? ふざけるな! そんなもの認められるわけがないだろう! 切り札っていうのはな、人それぞれ違う強力な効果を持っている、いわば個性のようなものなんだよ! それがそいつの人生を、特徴を象徴するものなんだよ! あんたはそんな個性を封じるっていうのか! あんたに人の心ってもんはあんのかよ! 俺はギャンブルが好きだ、ギャンブルが好きで好きで仕方がない。ギャンブルがこの世の中から消えたら俺は速攻でこの世を去るっていう自信がある。ギャンブルをやっていると熱くなれる、勝ったときなんかは脳汁が止まらなくなる。快楽部室がドバドバ溢れて脳がとろけそうになる。あの快感をもっと味わいたい。お前はそんな俺からギャンブルを奪ったんだぞ! 返せ……俺からギャンブルを、切り札を返せ!」
「別にお前からギャンブルを奪ったわけじゃねぇんだが……どうやら話が通じる状態じゃないみたいだな。切り札を封じたことで自棄になったか?」
デスタがガラドの切り札を封印したことでガラドは錯乱している様子だ。
目を回し、まるで子供の様にぎゃんぎゃんと泣きわめきながら手のひらに魔力を集めていく。
結局、何が一番怖いって自棄になった人の戦い方だ。だって、自棄になった人は自分の体を労わらず、全力で攻撃してくるから、被弾した時の被害は通常時とは比べ物にならないほどになることもある。
「『雷哭』」
手に稲妻を纏わせたガルガは地面に思い切り両手を叩きつける。
その瞬間、周囲に無差別に攻撃するようにして稲妻が解き放たれた。その威力は簡単に近くにあった家を破壊してしまえるほど。直撃してしまったら致命傷は免れなさそう。
ただ、無差別に私たちを狙って撃っているというわけじゃないから、射出方向を読みにくい。こっちを永遠に狙って来るんなら対処法は思いつくんだけど、なかなか難しい。
ワンチャン『守護』で行けるか? でも、ガラドが使ってきた『雷哭』は超級魔法、『守護』で守り切れる保証なんてどこにもない。
どうしたら……。
「行くわよ、デスタさん」
「あぁ、大丈夫だ」
二人はそう言うと、一つの魔法を唱えた。
「「『重ね守護』」」
聞いたことのない防御魔法だ。
発動されると、通常の『守護』よりもずっと防御膜の色が濃く、分厚いように見える。
多分これは、互いの『守護』を掛け合わせることによってより強固な防御膜を生み出したということなのだろう。基本、私たち魔族は共闘をするということは無かったらその発想はなかった。
だけど、超級魔法を舐めたらだめだ。
これほど強固な『重ね守護』でも稲妻が直撃すると揺らいでいる。これじゃあ、破られるのも時間の問題。
だから私も二人の『重ね守護』に重ね合わせるようにして『守護』を発動した。
「マイちゃん?」
「お前も使えたのか」
「そこまで得意というわけじゃないけどね……さて、二人で『重ね守護』、三人で『三角守護』と言ったところね」
私の『守護』が加わることによって防御膜が安定した。
とりあえずしのいでチャンスを伺おう。あいつは今、切り札を封じられているんだ。もうこれ以上厄介なことはできないはず。
だが、私は忘れていた。魔人最大の強み、魔人の一番の脅威。
「俺から切り札を奪ったこと、地獄の底で後悔して懺悔しろ! 『狂化』」
瞬間、周囲に濃い魔素がドバァッとあふれ出すのだった。




