4-38『マナと強力な助っ人』
「流石に一撃じゃぶっ壊れねぇか」
魔弾が隕石に衝突し、結構な威力が出たものの、破壊には至らなかった。
そしてそんな残念そうな声言葉をつぶやきながら私たちの間に現れた一人の男性、どことなく雰囲気がぼんやりと勇者パーティーのあの青髪の子に似ているような気がする。
あの子を男性にして筋肉質にしたらこうなるのかな? いや、違うかもくらいの容姿だ。
「もう最初からその程度の攻撃じゃダメだって言っていたでしょ?」
そして男性に遅れるようにして今度は走って女性が現れた。
今度の人は完全にあの青髪の子を大人にしたらこうなると思うような容姿で、おっとりとした雰囲気を纏っている優しそうな女性だ。
この二人は間違いなくこの街の冒険者なのだろう。そして、私たちの戦いの騒ぎを聞きつけて助けに来てくれたということか。
「オーズのやつにメルフィーも連れてここに来いと言われたのだが、まさかこんな事態になっているとはな。魔族と魔人か……厄介だ」
「っ」
私が魔族だということがバレてる。
容姿自体は知れ渡ってないから、私が魔王だということには気がついてないみたいだけど、冒険者に私が魔族だとバレたのはかなり痛い。
この街の冒険者はすごく強いらしいから、今の状態の私が戦って勝てる保証なんてどこにもない。下手したらガラド討伐のついでに私まで討伐されてしまう。
魔王である私がガラドのついでに討伐されてしまう。
「よく見て、お父さん。あの魔族の子、すっごくぼろぼろになってるわよ」
「それがどうした?」
「もしかしてあの子、私たちが来るまであの魔人と戦ってこの街を守ろうとしてくれていたんじゃないかしら?」
女性が私の予想外の言葉を言い放った。
確かに、状況からその事を推察することは出来るだろうけど、私は人類にとって敵なのだから、問答無用で攻撃されるかと思っていたのに、男性が攻撃しようとした瞬間、女性はその攻撃を止めた。
「魔族が? どうして」
「分からないわ。だけど、状況から考えるにそれしか思いつかない。だから、あの子を討伐するのはちょっと待ってみましょう? もしかしたら話せるかもしれない」
「……はぁ、俺は考えるのが苦手だからな、そこら辺はお前に任せるとする。俺はとりあえずあの空のデカブツをぶっ壊す」
「えぇ、任せてちょうだい!」
女性の言葉に男性は考えることを止めたらしく、再度隕石に向かって攻撃をし始めた。
そして女性がゆっくりと私の方に近づいてきた。
もしかしたらついに殺されてしまうのかもしれない。
ここでこの女性に殺されるのだとしたら私は抵抗することが出来ない。今の私の目的は人間を殺すことではなく、ガラドを倒すことなのだから、人を殺すということはしない。
今攻撃されたとしても、それが自然なことで私はそれを受け入れるしか無いだろう。だから、どんな攻撃が飛んでくるのかと身構えていると、女性は私の眼の前にまでやってきて口を開いた。
「ねぇ、あなたの名前は何ていうの?」
「え?」
またまた予想外だった。
この状況で名前を聞いてくるなんて思わなかったから困惑してしまう。
今まで数多くの人間と会ってきたけど、私と会話をしようとしてきたのは先代勇者とユイだけだった。
どうしてこの人は私に声を?
とりあえず話をして考えを探らないと。
だけど、答えようにも本名を告げると一瞬で魔王だとバレてしまう可能性があるから、答えることが出来ない。
だから、申し訳ないという気持ちになりながらも私は偽名を告げることにした。
「マイ」
「へぇ! マイって言うんだ。私はメルフィー・ベータテッドって言うのよ」
「は、はぁ……」
「あなたはどうして魔人と戦っていたの?」
「……この街が気に入ったから。破壊してほしくなかったから」
これは本心。
エシュドと観光を楽しんで、私はこの街のことが好きになった。こんな場所はそう簡単に失われて良いはずがないって思った。
魔族としては異端な考え方だろう。でも、紛れもなくこれは本心からの言葉だから。
メルフィーに届かなくても良い、ただ私は本心を伝えたかった。
「良かった」
「『雷天』」
そこで上空から爆発音のようなものが聞こえ、この場に光が差し込んだ。
降ってきていた隕石が粉々に破壊されたのだ。
破壊された断片が近くに降り注ぐけど、周囲に人の気配を感じないことは把握済。隕石がそのまま落ちてくるよりも被害を抑えることに成功したらしい。
「俺の隕石を破壊するたぁ、なかなかの火力だな」
「今のを放ったのはお前か? 面倒な仕事をむやみに増やすんじゃねぇよ。あれ、どかして直すの大変だろうが」
隕石は破壊できたものの、断片があちらこちらに落ち、周囲の物を色々破壊してしまっていた。
それを何とかするのも冒険者の仕事なのだろう。男性は嘆いていた。
「おい、メルフィー。どうなんだ?」
「とりあえず、この子に害意は無さそう! だから、今はこの子を何とかするよりもまずそこの魔人をなんとかしましょう」
「了解だ」
あの男性は女性の言う事に素直に従っている。
そんな、私が戦っている間に暴れ出さないという保証はどこにもないというのに、どうして私のことを放置してガラドと戦おうとしているんだ。
今だったらこの二人の不意をついて容易に殺すことが出来そう。
メルフィーも男性もガラドの方を向いて私に背を向けてしまった。
背中ががら空きで、ちょっと攻撃したらイチコロだ。
メルフィーなんて手を伸ばせば簡単に触れることが出来る距離にいる。
「安心して、マイちゃん。私たちがあの魔人を倒すから」
「オーズは全部予見して俺をこっちに寄越したのか? 相変わらずすげぇなあいつの『先見の明』ってやつは」
止めておこう。
二人共、街を守ろうとした私を信じて背中を見せてくれている。この状況で攻撃したら私は屑になってしまう。
先代勇者やユイちゃんの思いまで踏みにじることになってしまう。
友人の期待を裏切るということだけは絶対にしたくない。
だから――
「私はマイ、動けないんだけど、一緒に戦うわ」
「えぇ、よろしくね」
「デスタ・ベータテッドだ。とっとと終わらせて俺はルリハとハクの顔を見に帰りたいからな。どっちでも良い。手伝ってくれんなら、そいつが魔族だろうがなんだろうが俺には関係ない」
冒険者である以上、関係ないことはないだろうと思ったけど、その言葉は余計な一言になりかねないため、胸の中にしまっておくことにした。




