4-36『オーズの世界』
「これほどの速度を出しても止められるなんて、あなたの動体視力はどうなっているの?」
「これは動体視力の問題じゃないんだよね〜。これは僕の切り札だ」
オーズの切り札『先見の明』、それは切り札の中では珍しい常時発動型の切り札である。
常に将来をぼんやり把握することが出来、ピンチにあらかじめ備えることが可能である。
そして、オーズが自分の意思でこの切り札を発動することによって数秒先の未来であればはっきりと見ることが可能になる。
テライがどんなに素早い攻撃を繰り出そうとしても、オーズには既にその攻撃を把握しているため、容易に対処が可能となっている。
これがオーズを絶対的強者足らしめている要因である。
どんな攻撃でも分かっていれば怖くない。
そして、防御に特化して訓練していたオーズは『守護』の練度も異常に高い。
通常ではありえないほどの発動速度と強度を誇っており、オーズの守りは鉄壁と言って差し支えない。
「これがギルドマスターの力って言うこと? 面白いねぇ。凄いねぇ。私、この攻撃をして完璧に止められたのは初めてかも! ドキドキしちゃう」
「お褒めに預かり光栄なんだけどさぁ、そんな僕の顔に免じてお引き取り願えないかなぁ?」
「うーん、逆にどうしてもあなたを殺したくなったかも」
「ま、そう甘い話があるわけ無いかぁ」
まるで上物の獲物を見つけた狩人のように目をギラギラと輝かせたテライを見てオーズはため息を付いた。
この力を見せたら帰る相手だったらどれほど良かっただろうか。
確かにオーズには『先見の明』があって、そうそう負けることはないだろうけど、この戦いに勝ったとしても、その被害は大きくどの道面倒な事態になることは変わらない。
だからこそ、面倒な戦いは避けたいと考えているオーズだったのだが、その願いは叶いそうにない。
「ねぇねぇ、他にどんな事ができるの? 全部全部私にさらけ出してよ!」
オーズは思案する。
相手は魔人、魔物なんかとは比べ物にならないほどの強敵だ。だから、覚悟してかかる必要がある。
でも、幸いにもこの場にいる冒険者はオーズだけではない。オーズを守り抜くために大勢の冒険者たちがこの場に集まってくれている。
この冒険者たちだけだとテライに傷一つつけることは不可能かもしれない。だが、オーズの『先見の明』とSランク冒険者たちの力を合わせれば、一気に化ける。
「それじゃあ、魔人君。この街、オルターンを敵に回したんだ。覚悟は良いよね?」
「そっちこそ、覚悟してよね!」
テライが構えると同時にオーズの指先が光り始めた。そしてまるで指揮をするようにして次々と指を動かしていく。
「なにそれ」
「盛り上がってる所悪いんだけど、僕は戦闘要員じゃない。指揮官だ」
オーズには死角はない。
全てを『先見の明』によって把握できているため、視界に映っていない範囲にいる冒険者の位置も完璧に把握できている。
そして、この指は指揮棒だ。周囲の冒険者の脳内に指の動きを直接送り込み、次にどう動けば良いのか指示することが出来る。
オーズの指の動きに従って周囲の冒険者がせわしなく動き回り、そしてそれぞれが適切な配置に並ぶ。
「へぇ、じゃあ、この街の強さっていうのもあなたが指揮してるからということなの?」
「それもあるけど、彼らも非常に優秀だよ。魔人である君にとっては取るに足らない存在かもしれないけど、僕にとっては優秀でとっても大切な仲間たちだ。そんな彼らをあんな姿にして、僕もちょっとぶち、キレてるんだよね」
感情に支配されると魔法の制度が落ちる、思考能力が落ちる。
だからこそオーズは感情を表に出さないよう、常に柔らかい口調と態度を心がけている。
でも、冒険者たちがこれほど殺されて無関心で居られるほどオーズの心は死んでいない。
「私を恨まれても困るよ〜全部、この人たちが弱かったのが悪いんだよ? だってそうだよね? もっと強ければ私に殺されることも無かった。もっと強ければ私とも渡りあえた。そうでしょ?」
「やっぱり君は魔人、なんだね」
「ん? 当たり前でしょ、何今更再確認してるの? 自分の弱さを人のせいにしないで欲しいなぁ」
「人のせいにしてるのは、お前だろ。自分の罪を人に擦り付けるな」
思わぬオーズの圧にテライはビクリと肩を震わせた。
普段のオーズからは考えられないほどの怒り。オーズも感情をセーブすることができなくなってきていたのだ。
「帰ってくれるなら、楽だとか、これ以上街に被害を出さずに済むとか色々考えていたけど、やっぱりダメだわ。あんた、ここで死んでくれ」




