4-34『賭博師ガラド』
私の力は『虚構之迷宮』での戦いを経て、徐々に取り戻しつつある。
だけど、それでも私の力はまだまだ完全と呼ぶには程遠い。だから、今もフルパワーで『幽閉愚絶門』を使おうとしたら確実に暴走してしまうことだろう。
暴走してしまったら私一人しか居ないこの状況では戦いようが無くなってしまう。解除できないのだから、力を使い果たすまで暴走を続けてしまう。
そうなると、この街にどれほどの被害をもたらしてしまうか分かったものじゃない。
そこで私が考えたのは、制限を設けるということ。
私が操ることが出来るその力までの制限を設けることによって暴走せずに『幽閉愚絶門』を使えるのではないかと考えた。
一応、魔王である私が自分の力を制御できずに苦しんでいるなんて部下たちに示しがつかないから、誰にも言っていなかったけど、今日の今日まで暴走しないように力を制限する特訓をしてきた。
最初は制限なんて上手く出来ず、発動してしまってぶっ倒れるか、そもそも発動できないかの二択しか無かった。だけど、特訓を続けるに従って徐々に制限した力を使うことが出来るようになってきた。
横に手を伸ばして取り出したキラキラと光り輝くカードを顔の前に持ってきてに魔力を込めた。
「なんだぁ?」
ガラドが目を見開いて私の背後を見つめる。
私の背後には巨大な門が出現し、異空間にでも繋がりそうなワームホールが門の中心に出現する。
そしてその中から出てくるのは亡者の手。本来はとてつもなく大量の手が出てくるものなのだけど、セットリミット1を宣言した今出てくる数は、一本だ。
「悪いけど、ただで殺される気は無いから」
ただでさえ、私は一度死んで部下たちを長いこと待たせてしまった。
だから今度はもう死なない。部下たちをこれ以上待たせるなんて失敗はもう犯さない。
今ここで、この男を撃破する!
「はぁ……俺はただ早く仕事を終わらせてカジノに行きたいだけなんだがなぁ……どうしても死んでくれねぇかぁ?」
「えぇ、当たり前よ。そう簡単に殺されてたまるものですか」
「そうかぁ……なら、仕方ねぇな!」
その次の瞬間、ガラドの背後から巨大な円形状の物体が姿を現した。
それは紛うことなきルーレット。あれは間違いなくついさっき発動したばかりのはずのガラドの切り札だ。
通常、切り札は一度発動することによって魔力回路が破壊され、暫くの間、再使用できなくなってしまう。そしてそれは私たち魔族や魔人だって、上手く切り札を発動できなくなる。ただ、人間よりも再使用できるまでは早いけどね。
それにしたって再使用できるまでが早すぎる。
この再使用までのクールタイムは特訓で縮めることが出来るようなものでもない。どれだけ頑張ろうとも、この時間は変わらない。
つまり、ガラドの切り札はクールタイムが極端に短いんだ。
「させない!」
慌てて『幽閉愚絶門』の手を伸ばして発動を阻止しようとするけど、時既に遅し。手はガラドに触れる寸前で完全に停止してしまった。
「切り札『運否天賦』だぜ! ごめんねぇ、お嬢ちゃん。切り札を発動してテンション上がっているところを邪魔しちまったようでよぉ。ただ、最優先は俺なんだわ! どんなに強い攻撃でも、俺のルーレットが見える範囲に居たら完全に静止してしまう。ま、俺も動けないんだけどな! でも、有利な効果を引くことが出来れば関係ねぇ!」
さっきもそうだったけど、あのルーレットが目の前にあると指一本動かすことが出来ない。今はただただ呼吸することしか出来ない。
幸いにも魔法や切り札と言った技は解除されないらしいけど、その場にピタッと静止してしまった。
戦況を完全に一時停止出来るからゆっくりと対処法を考える時間を作ることが出来るというのは明らかな強みだ。
「お嬢ちゃんはカジノに行ったことあるかい?」
「無いわよ」
「まぁ、そりゃそうか。魔族だもんな! カジノっていうのはいろいろな運試しが出来る場所でよぉ、中には戦略性のあるゲームもあるが、俺は断然完全な運ゲーっていうやつが好きなんだ。確かに戦略ゲーで勝てると嬉しいがよぉ、完全な運で大勝ちするとよ、脳汁ってやつがドバドバ溢れて脳がとろけて無くなってしまいそうになる。その快感は戦略ゲーで得ることが出来ねぇんだ。だから、俺は運ゲー中毒なんだよ。ハイドには呆れられているが、俺はこの趣味を止めるつもりはねぇ。というか、今更止められねぇ! 一度この快感を味わったらもとにはもう戻れねぇってもんだ。そんな事を考えていたら、切り札にも俺の趣味が反映された。俺の『運否天賦』はルーレットで効果を決める。中には君に有利になる内容だって含まれている。果たして今回はどっちに有利な効果が出るか……運試しと行こうじゃねぇか。俺と、君。どっちの方が運強者なのかを決めようじゃねぇか、なぁ!」
一気にまくし立てたガラドはその勢いのままルーレットを回転させた。
私に有利になる内容が含まれているだって? 冗談じゃない。基本的に切り札は使用者に有利になる効果になっている。
だから、もし私に有利な内容が入っているとしても、それは恐らくあの六つある候補の中の一つと言ったところだろう。
六分の一。当たらなくもない確率だけど、そんなのに頼るより自分で戦ったほうが早いに決まってる。
「さぁ、何が出る!? 何を示す!?」
どうせあまり良いものが当たらないにしても、あまりにも悪い効果は引かないように願いたい。
祈りながらルーレットが止まるのを待っていると、次第にその回転速度は遅くなっていき、やがて一つのマスを示してルーレットが完全に停止した。
ルーレットが示したマスは白色のマス。
さっき出た黄色とはまた違う色のマス。ということは、まだ見たことのない効果が出るはず。
何が来ても良いように身構える。そして、その何かにやられる前に速攻でガラドをこの『幽閉愚絶門』で取り押さえる。
段取りを決め、私は動けるようになるのを待つ。
「ごめんねぇ。やっぱり俺の運は最強だったみたいだぁ」
ガラドの目がギラリと光ってこちらを見据える。
ガラドの反応からして確実にこれはガラドに有利な効果が出てしまったのだろう。だが、そんな者は想定済。
端から相手の切り札でこっちの有利になる効果が出るなんて期待しちゃいない。
何をしてきたとしても、私がやることは何も変わらない。
その次の瞬間、私の身体は動けるようになり亡者の手も動き始めた。
この手の力は凄まじい。あまりにも相手の力が強すぎると力負けすることはあるけど、基本的にこの手の力から逃れることが出来る人は居ない。
亡者の手を操り、グッと握り拳を作り、思い切り勢いをつけてガラドへ拳を叩きつける。
これが『幽閉愚絶門』を利用した私なりの『豪拳』、進化した『幽豪拳』。
ガラドに叩きつけた瞬間、凄まじい衝撃波が周囲に放たれ、周囲の木々が大きくしなる。私も吹き飛ばされないように構えつつ、ガラドの様子を伺ってみる。
魔法使いは基本的に筋力はそこまで強くない。偶に魔法使いでも筋力が強い人も居るけど、二兎を追っていることで魔法も筋力も両方とも中途半端である可能性が高い。
あれほど魔法に特化しているのならば、そこまでの筋力は無いはずだ。
だから、この攻撃が直撃して無事なんてことは――
「危なかったぁ。ここでこの効果を引くことが出来てなかったらぁ、俺の顔面はぐちゃぐちゃになっていたことだろうなぁ? つくづく俺の運には惚れ惚れするぜぇ……」
「っ」
確かに亡者の手一本だけだったらそこまでの筋力を発揮できないかもしれない。でも、それでも身体強化でも耐えきることが出来ないほどの筋力を持っているはずだよ!
それなのに、なんで、なんで魔法使いであるお前が、私の亡者の手を片手で受け止めているのよ!
しかもギリギリという様子ではなく、軽々と捕まえられていて、押そうとしても全くピクリとも動かない。
これほどの無力感を覚えたのはカルマ・エルドライトが私の大量の亡者の手に掴まっていたのに平然と私の背後に立っていた時以来……うっ、嫌なことを思い出したわ。
「白は筋力増強。ただし、その強化倍率は『身体強化』の遥か先を行く! こんな風にな!」
「いっ!」
亡者の手を軽々と破壊したガラド。亡者の手と私の感覚はリンクしているため、破壊されると実際に腕を破壊されたかのような痛みが生じる。
そして一瞬怯むと、いつの間にかガラドは私の眼の前にまでやってきていて――
「さようなら、魔族。『豪拳』」
「『守護』っ」
苦し紛れだった。
ガラドから繰り出される『豪拳』をなんとかしなきゃと言う思いで必死に発動した『守護』だけど、この魔法は物理攻撃にはめっぽう弱いと言う特性がある。
そんなもので今の超パワーを得たガラドの攻撃を防ぎ切ることが出来るわけもなく――拳は『守護』を簡単に突き破り、私の脳天に叩き落とされ、私は顔面から地面に叩きつけられる事となってしまった。




