4-31『ガラドの魔法』
「なんだなんだぁ? 人を鞠みてぇに蹴りやがってぇ……痛てぇじゃねぇかぁ」
「それはごめんなさいね。ただ、エシュドの邪魔をするわけには行かないから」
私はガラドを連れてエシュドの側から離れた。
本当ならエシュドが心配だし、恐らく今回来た魔族の中でハイドが一番強いだろうから、エシュドと共に戦いたかった。
だけど、ハイドとガラドがあの状況で組まれると危険だし、私はハイドと相性が悪いから、エシュドが戦うのが合理的。
私の仕事はガラドをここで倒すこと。
「面倒だなぁ……俺は別に魔族討伐に来たわけじゃねぇんだけどなぁ……。早くここのギルド長をぶっ殺さなきゃいけねぇんだけどなぁ」
「悪いんだけど、その予定はキャンセルしてもらうわね。あなたは私の相手をお願いするわ!」
ガラドはさっきエシュドに対して雷属性の魔法を使った。
人は咄嗟の時、一番使いやすい魔法を無意識に選んで使うものだ。だから恐らく、ガラドの得意属性は雷。
雷なら嫌というほどヴァルモダで見てきた。
「はぁ……魔族なら一緒に街を潰そうかとも思ったんだけどよぉ、あんたはこの街を守りたいらしいじゃん? ならもうさぁ……戦うしかねぇじゃん! 『雷砲』ぅ」
瞬間、私に向けて雷を帯びた魔力弾が射出された。
ほとんどノーモーション。魔力を手のひらにチャージする時間すら無く、唐突に魔法が放たれた。
魔人は魔族同様、魔法を使うのに魔力回路を必要としない。一瞬で必要な箇所に魔力を集めて魔法を行使することが可能となっている。
動き的にはまるで同族と戦っているような感覚で、気持ち悪さを覚えてしまう。
突然射出された『雷砲』だけど、その魔法はさっきエシュドへ放ったので見たからちょっとの動きで『雷砲』を回避して私も手のひらに魔力を集める。
「『怨魔』」
私が魔力を込めたのは左手の人差し指。
魔力は一点集中した方が爆発力があり、勢いよく魔法を射出することが出来る。ただ、これは魔力回路を使って魔法を使う人間には出来ない芸当。
マニュアル通りの魔法の使い方しか人間は出来ない。身体強化なら場所を絞ることが出来るかもしれないけど、『ファイアボール』などの魔法は指先のみで使うなんてことしたら威力が減って使い物にならなくなる。
だけど、魔族は違う。
魔力回路を必要としないから自由に魔法を発動できる。こんな風に――
「ぐ、ぐおおおおおおおおおおお」
私の指先から射出された『怨魔』は凄まじい速度を出し、ガラドへ命中。魔力弾がガラドを飲み込み、闇のエネルギーがガラドを攻撃し続ける。
この魔法は私の意思とは関係なく攻撃し続けるから、一発当てさえすればどんな強敵でも倒せる可能性が出てくる。
ただ、相手は普通の強敵じゃない。
相手は魔人だ。
「『輝遊雷鳴』ぃ」
「っ!」
突如頭上から降り注ぐ雷。
魔法の発動がやっぱり尋常じゃなく早い。ヴァルモダだったらこの魔法を発動するのにもうちょっと時間がかかるだろうに、ノーモーションで降り注ぐ雷を完全に回避するということは不可能に近い。
「くっ」
少しだけ電撃を浴びてしまい、痺れて身体の自由が奪われてしまう。
これが隙となってしまった。
「『壊雷』ぃぃぃっ!!」
雷を纏わせた手を地面へと叩きつけるガルガ。そこから地面がひび割れ、広範囲にヒビが広がり、そしてそのヒビの奥そこが嫌に光り始める。
身体が思うように言うことが聞かない。『輝遊雷鳴』を受けてしまったせいだ。
ハイドが近接戦のプロだとしたら、ガラドは遠距離戦のプロ。魔法の発動を見てから動いていたんじゃ回避が間に合わない。
こんな超級魔法なんて受けてしまったら一溜まりもない。しかも、これは魔人の超級魔法。
人間が使う超級魔法とは一線を画す威力となっているはず。こんなものまともに受けられるわけがない。
「『バルマ』っ!」
苦し紛れに魔弾を放つ。
しかし、その撃った方向は自分に対してだ。自分に対して魔法を撃ち、ぶっ飛ばされたその直後にヒビの奥底から雷が轟いたような音を鳴り響かせながらイナズマが吹き出し、雷の壁を形成した。
今のは回避のための一発。だけど、『壊雷』はこれで終わりじゃない。
直後、私の眼前には雷で象られた巨大な拳が迫ってきていた。
流石にこれを回避するのは不可能だし、直撃したら私はもう動けなくなって殺されるのを待つことしかできなくなってしまう。
「はぁっ! 『魔壊』っ!!!!」
これまた苦し紛れ。
充分じゃない姿勢で放った超級の魔法。私の放った巨大魔弾とガラドの雷の拳が激突。
ただやはり、準備が出来ずに咄嗟にはなった魔法などたかが知れていれ、ガラドの拳を完全に打ち消すことは出来ず、『魔壊』が打ち破られて拳が私に直撃してしまった。
「あ、か、はぁっ! か……」
あまりの衝撃にぶっ飛ばされて地面を転がる。
呼吸がしにくい。内蔵が痺れていて、上手く機能を果たせなくなっているようだ。
でも、なんとか立てる。『魔壊』は敗れたけど、それでも威力は少し落とせたお陰で、完全に動けなくなったというわけではないらしい。
あのギャンブル野郎、ただのギャンブラーかと思っていたけど、ぜんぜん違う。
魔法の練度が凄まじい。彼が魔族だったらうちの幹部に引き入れたいほど。
今、ガラドはさっき切り札を使ったせいで直ぐには切り札を使えないはず。だから、叩くなら今がチャンスだと言うのに、これだけ魔法の練度が高ければ攻撃しようにも出来ない。
「はぁ、なんだぁ、死ななかったのかぁ? 運の良いやつだなぁ……でも、次は殺すぞ」
私は死なない。
正確には死んだとしても勇者の剣で斬られない限りは魂がこの世に残り続け、後の世で復活を果たすことが出来る。
だけど、そうしたらまた部下たちを千年ほど待たせることになってしまう。
これ以上、部下たちに情けない姿を見せるわけにはいかない。
「ちょっとだけど、取り戻した力を見せてあげる。……切り札『幽閉愚絶門』セットリミット1」




