4-30『テライの進撃』
「ふんふんふふふ~ん」
「止めろ、あの化け物を、魔人をギルドに近づかせるな!!」
テライが鼻歌を歌いながら冒険者ギルドへと迫っていく。
その姿を見て、一人の冒険者が叫んだ。
すでにテライが通った場所には多くの冒険者が倒れていた。さすがに実力者ぞろいというだけあって、死者こそ少ないものの、それでも重傷者多数。倒れてしまった冒険者の大半は動けなくなってしまっていた。
そんな光景を見てもなお、冒険者たちは諦めることなく次々とテライへと襲い掛かり続ける。しかし、そんな攻撃は無意味だとばかりに全ての攻撃を回避してテライはカウンターを繰り出す。
その動きはまるで最初からそこに攻撃が来るかとわかっているかのよう。
「『紅蓮廻炎』」
「『水天槍牙』」
「『ダークマター』」
大勢の冒険者がテライを取り囲み、息つく暇もないほどに次々と魔法をテライへと放っていく。
通常の魔物相手だったらたとえSランクの魔物だとしても過剰戦力と言えるだろう。だが、魔人相手だったらこれでも心許ない程度。
これほど大量の弾幕を目にしてもテライの様子は変わらない。まるでなんてことない道をご機嫌で歩くかのような様子で手を背で組み、軽くスキップをしながら歩いていく。
「いっぱい集まってきたね~。んもう、そんなに女の子に乱暴しちゃダメなんだよ?」
テライは視線を周囲に向けることはない。
ただただ、当たり前のように、いつも通り慣れている道を通るかのように歩みを進めていく。彼女に魔法が直撃することはない。その様子はまるで魔法が彼女を避けているかのよう。
ただちょっとした足の動きのみ、最小限の動きのみで魔法を回避しているのだ。
横や後ろから飛んできている魔法も関係ない。
これだけの質量の魔法を放ったとしてもテライに攻撃を当てることはできない。
「まだまだ!」
「俺たちSランク冒険者をナメるな!」
魔法がダメならと接近戦を挑みに行く数人の冒険者。
テライは冒険者をチラリと一瞥すると目を閉じた。
「もうっ、乱暴はダメって言ったでしょ? 乱暴する人にはオシオキ!」
冒険者は悲鳴を上げる暇すら与えてもらえなかった。
ただ、気が付いたら自分たちは地面に倒れていて、口から血を吐いている。そんな訳の分からない状態だった。
「女の子には優しくしなきゃダメだよ〜? べんきょーになったね」
「何が女の子だ!」
「お前のような魔人を誰が女の子扱いするか!」
「んもう、私はちゃんと夢見る乙女なんだよ? いつか白馬に乗った王子様が私を攫いに来てくれないかな〜っていつも寝る前に妄想に浸っちゃう乙女なんだよ?」
テライの能天気な発言がさらに冒険者たちを苛立たせる。
中には既に仲間を殺されてしまった冒険者も居て、まるでなんて事ない道端の虫でも踏んでしまったかのようなあっけらかんとした様子に憎悪の感情を抱く。
テライの一番の目的は別に人間を殲滅することではない。
そのため、基本的にテライは一撃で冒険者を葬ることができなかったとしてもとどめを刺すということはしない。
動けない瀕死になった冒険者は放置する。それがまた残酷だ。
治療できる程度の傷ならまだしも、手遅れだがすぐには死ねない位の傷を負ったら長く苦しんで死に至ることになる。
テライが歩けば歩くほどに次々と血の海が出来上がっていく。
響く断末魔、悲鳴、だがテライにはそんなものは関係ない。その側頭部に着いたとんがった立派な耳には届いていない。
「止まれ! 『終の大地』」
「およ?」
冒険者が地面に手を触れた瞬間、そこから大地がひび割れ、そして突如としてそこから避けるようにして大地が割れ始めた。
既に周囲には他の冒険者は居ない。使う前にアイコンタクトで退避を指示していたのだ。
「超級だね! すごいすご〜い!」
初めてテライが冒険者の魔法に興味を示した。
さっきまで使われていた魔法はそのほとんどが上級魔法。
だが、この冒険者の男は超級魔法が使える。
超級魔法はSランクですら容易に使うことはできない魔法。
故に、この男はSランクの中でも上澄みに存在すると言える。この街に来てから初めて出会う上澄みの冒険者との邂逅に心を震わせたのだ。
次第にテライの足下も割れ、テライの身体を奈落の底へと誘う。テライには浮遊感が襲いかかり、テライの身体が完全に地割れの中に飲み込まれた直後、地割れは次第にもとに戻っていき、落ちてしまったもの全てを地面の中に飲み込んでいく。
この魔法はほぼほぼ必殺の魔法であり、地面の中に飲み込まれてしまったらほとんど抜け出すことが出来ず、そのまま生き埋めで命を落とすことだろう。
だが、それは一般論だ。
冒険者たちは相手が魔人であるということで地面が完全に元に戻った後も警戒してテライが落ちていった場所を監視する。
あれほどのとんでもない動きをするやつだ、このくらいの攻撃は生き残っていても不思議ではない。
そしてその予想は的中してしまった。
「ねぇ、もっと見せてよ。面白い魔法が使えるなら、もっと見せてよ。ねぇ」
「っ!?」
突如『終の大地』を使った冒険者の背後に現れたテライは心底楽しそうな声で囁いた。
冒険者は恐怖でどうにかなりそうだった。動かなければと頭では理解しているのに、この囁き声が冒険者の身体を硬直させる。
さっきまであれほど猛威を振るっていた化物が今、自分の背後にいる。いつでも自分を殺せる場所に居る。
Sランク冒険者といえども恐怖の許容量というものがある。そして、その許容量を超えたらどうなるか――
「うああああああああああ」
当然、行動を間違えてしまう。奇行に走ってしまう。
身体強化魔法が得意というわけでもないのに握り拳を作り、テライへと振るう。
だが、その拳がテライに直撃することはなかった。
「あ?」
突然視界がぐらりと揺れ、そのまま倒れ込む冒険者。
彼の胸のド真ん中には大きい風穴が空いていた。彼が反応できないほどの速度でテライが彼の心臓をぶち抜いたのだ。
「ざーんねん。もうちょっと面白いものが見れると思ったのになぁ〜」
天然、故に残酷。
勝手に相手に期待して、そのくせ自分の思い通りにならなかったら相手を殺す。癇癪を起こす子供みたいで、尚それよりも質が悪い。
「もう飽きてきちゃったよ。相手をしていたらなかなかギルドマスターに会いに行けないし……いっそのこと、この辺全部吹き飛ばしちゃえばこの街の破壊とギルドマスターの殺害、両方出来て一石二鳥だよね!」
「な!?」
最初から誰もがこの展開は予想できていた。予想できたうえで考えないようにしていた。
ギルドマスターはこの街の要だ。安易にギルドマスターと魔人を対峙させるわけにはいかないため、ギルドマスターの場所へ行かせないよう、冒険者たちで食い止めていた。
だが、相手は子供じみた性格をしている。当然、同じことばかりだと飽きてくる。
今まで続けていた攻撃も、足止めも全てテライの前には無駄だったのだ。
「それじゃあ、いっくよーっ!」
「吹き飛ばす必要はないよ、魔人君。だって、僕はここに居るんだからね」
突然木の上から聞こえてきた声にこの場の全ての人々が振り返る。
「な、なんで」
「なんであなたがここに!?」
「ギルドマスターっ!」
そこに居たのはオルターンのギルドマスター、オーズ・ウケイランドだった。




