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1-9『冒険者の仕事』

 この世界には無数のダンジョンが存在している。

 そのどれもが例外なく入り口が洞窟のような形状になっており、内部は魔素の影響によって時空が歪んでいて見た目よりも内部が広くなっていたり、洞窟ではなく別の空間のような見た目になっているということはよくあることだ。


 魔素が充満してはいるが、洞窟の中の魔素を吸ったところで微量なので、この程度なら問題はない。ただし、高難易度のダンジョンとかになるとその限りではなく、ダンジョンの深くに潜ると魔素が濃くなり、それは瘴気となって襲い掛かってくる。

 耐性が無いと体調を崩し、最悪の場合魔力回路が破壊されてしまうため、初心者は絶対に高難易度ダンジョンへ潜ってはいけない。


 ちなみにその魔素への耐性は魔力量によって変わる。魔力量が多ければ多いほど魔素への耐性は強い。

 俺に関しては魔物の魔素を直接食べても全く問題ないほど耐性はあるんだけど、魔素が混ざっていると食えないほどに不味くなるんだよな。

 今回、俺たちが挑むダンジョンは初心者用Eランクダンジョンで魔素がほとんどない。だから多分空間異常や瘴気なんてものとは無縁の優しいダンジョンになっていることだろう。


 これって俺がDランクだからって気を使わせてしまっているよな。二人はBランクなんだからもっと高難易度なダンジョンだって行けるだろうに。


「で、今日はどれくらい潜るんだ?」


「はい! 今日は潜れるところまでは潜っちゃおうと思います! 安心してください、私とルリハちゃんは何度も潜っているので慣れっこです! 何かあればサポートします」


「このダンジョンは全五階層、三階層を超えた先にセーフティーエリアがあるから、そこで一回休憩して、それからその先に行く。五階層にはダンジョンガーディアンもいるから気を付けよう」


 ユイがざっくりとした説明しかしなかったため、ルリハが補足してくれた。眉一つ動かさずに淡々と言っている姿を見て慣れているんだなと感じ、本当にリーダーがユイで大丈夫かと改めて心配になる。

 ちなみにダンジョンガーディアンというのはダンジョンのボス的存在で、そいつを倒すことでクリアになり、一気に入り口まで戻ることが出来るようになっている。


 しっかし、一度倒したはずのダンジョンガーディアンがもう一度ボス部屋に行くと普通にいるのはどういうことなのかがよくわからない。これもダンジョンの神秘で、まだ解明されていない秘密の一つだったりする。

 そんなことを話している間にダンジョンが見えてきた。


 ダンジョン内部には魔素が充満しているということもあってか、入り口から常に魔素が漏れ出している。そのため、魔素に当てられた植物などは枯れてしまったりして、高難易度のダンジョンの周囲は荒廃しているような見た目になっていたりするのだが、このダンジョンは初心者用の魔素が少ないダンジョンのため、周囲にはきれいな花が咲き誇っている。

 最近はこんなに周囲が綺麗なダンジョンに潜ってなかったから、こんなにダンジョンの周りって綺麗だっけと疑問を抱いてしまった。


「さあ、着きました。ちなみにハルト君はダンジョン探索経験はどのくらいですか?」


「えっと、両手で数えられるくらいかな」


 嘘です。もう何回潜ったか分からないくらい潜ってます。

 ちなみに最終兵器である賢者時代にもダンジョンに潜ったせいで怒られたことが何度もある。仕方がないだろ? だって戦いたかったんだから。

 これは余談だが、ストレス発散にはなったとだけ言っておく。

 とりあえずDランク初期の冒険者の平均探索数を伝えておく。


「ユイ、相手はそんなに初心者じゃないんだからそこまで甲斐甲斐しくする必要はないと思う」


「あ、そうでした。ごめんなさい。嫌でしたか?」


「大丈夫、別に嫌では無い」


 むしろ頑張っている姿を微笑ましいと思っていた。妹を見ている気分というのだろうか。

 彼女らは十五歳で俺の一個下だから本当に妹みたいな年齢だからそんな風に思ってしまうのかもしれない。


「それでは、早速入りましょう!」


「今回はハルトの実力を見たいから私たちは道中は極力静観するよ」


「りょーかい」


 返事をして俺は二人にバレないように右腕につけているブレスレットのダイヤルをキツめに閉め、ダンジョンへと入って行く。その後ろを二人が邪魔しないような距離感で着いてきた。

 このブレスレットは吸魔のブレスレットと言い、随分前に知り合いに作ってもらった魔道具だ。これはつけている人の魔力を吸い取り、強制的に最大魔力を制限することが出来るブレスレットだ。


 その知り合いは罪人に抵抗させない為に作ったとか言っていたけど、あれを俺に渡したら最後、俺はこれをハンデ用に使う。

 多分これを自分につける馬鹿は俺くらいなものだろう。

 今までこれを使ってきた理由としては接戦をしたいというバトルジャンキー的な思考だったが、今回に限っては正当な理由が存在する。


 俺主体で戦うならちゃんと手加減をしないとDランクじゃないって直ぐにバレるからな。

 ちなみに普段からこれを使って力をセーブしてはいる。じゃないと色々と破壊しちゃうからな。ただでさえ本気で走ったらその場所がめちゃくちゃになるというのに、その可能性を上げることは無いだろう。

 それにしてもダンジョンは久しぶりだ。最近は各地を巡って旅ばかりしていたから本格的な冒険者の仕事は久しぶりと言える。


 冒険者の仕事は大きく分けて三つ。

 一つ目はギルドに来る依頼の達成。二つ目はダンジョンの調査及び魔物の討伐。三つ目は街を魔物から守る。

 一番やる人が多いのがやはり依頼を受け、報酬を貰うことだろう。これが一番単純明快で危険度が少なく、報酬もそこそこ貰えるため、安定した冒険者生活が送れる。ただし、依頼だけ受けていてもCランクまでしか上がらない。


 次に今やっているダンジョンの調査及び魔物の討伐。これは基本的にダンジョン内で手に入れたお宝などは手に入れた人の物になるため、場合によっては依頼を受ける以上に稼げることもある。ただし、安定はしないし報酬も無いため、基本的には冒険者の腕試し用になっていて、利益を考えるとしたら個人的に割に合わないと思っている。

 最後に街を守るという事だが、これは滅多にない。ただし、稀にスタンピードという街の周辺に魔物が溢れかえる現象が起こることがあり、街が大量の魔物に襲われるからその対処をすると言った感じだ。


 このことから今やっているダンジョン探索では報酬は出ないし、こんな初級ダンジョンでは宝物も見つからないだろう。さくさくと進んでいくのが一番だ。

 幸い俺のランクはDだからEランクダンジョンを楽々突破しても違和感が無いはずだ。

 さすがにやりすぎたら疑われかねないけど。


「あ、気をつけてください! スライムです」


「頑張れ〜」


「おう、行ってくる――って二人ともなんでそんなに離れてるんだ?」


「いやぁ、スライムってね〜」


「その、ベトベトしていて、ちょっと苦手なんです」


 チラッと二人の様子を見ようと目を向けると、二人は影くらいしか見えないくらいに離れていた。

 どれだけ苦手なんだよ。

 確かにベトベトしているけど、これはこれで可愛いんだぞ。


 青色の流動ボディーで、顔がないから何考えてるのかが全く分からない。そして中でふよふよと揺れ動いている紫色の球体状の核。

 ほかの魔物とは違って核を破壊されたら一撃でその命が散るんだ。儚いだろう。

 そんな感じで俺一人だけで和んでいると、スライムがぷよんっ! と言う可愛らしい擬音を鳴らしながら俺の顔面に貼りつこうと飛んできたため、直ぐに腰の短剣を抜いて体の中心に存在する核に的確に突き刺した。


「ふんっ」


 核を貫かれたスライムは直ぐにその身体を維持できなくなったらしく、体がドロドロに溶けてしまい、半液体だった体が完全に液体と化して地面に青い水溜まりを作った。

 ちなみにスライムは全身魔素の塊だから人間にとっては猛毒で絶対に食ってはダメな魔物だ。


「お、お疲れ様です」


「ピンチは去った」


「二人とも、スライムが出たらいつもどうしてるんだ?」


「えーと、ルリハちゃんが紅蓮廻炎(ぐれんかいえん)でやっつけてくれますっ!」


「過剰じゃ?」


 スライムと言えばEランクモンスターだ。初級魔法で十分なやつに上級魔法を使うんじゃねぇ。


「それにしても手際が良かったですね」


「うん、Dランクにしては手慣れてた」


 あ、しまった。

 昔D(ダンジョン)T(タイム)A(アタック)をしていた時に如何に魔物を走りながら効率的に倒すかを突き詰めていたから、その時の癖で流れ作業の様に倒してしまった。

 ……いや、手加減するって言ってもどうしたらいいんだ? スライム相手に俺はどう接戦を演じたらよかったんだよ。スライムに苦戦する方法なんて今更思いつかないぞ……。


「えっと、スライムは倒しなれてるんだ。地元の近くにスライムがいっぱい出るから」


「スライムがいっぱい出る場所……」


「地獄かな?」


「人の地元を地獄扱いしないでください~っ」


 これは嘘じゃない。なんでかわからないけど、俺の地元の近くってスライムが大量発生するのだ。

 それで慣れていたというのもある。

 そんな場所はスライム嫌いなこの二人にとっては地獄でしかないだろうけど、人の地元を地獄扱いは酷くね?


「あはは、ごめんなさい」


「う、思わず……ごめん」


「いや、別に大丈夫。俺だってビーとかスパイダーとかが群れてる場所があったら地獄だと思うから」


「う、それは……想像したくありませんね」


「想像しただけで気持ち悪い」


 ビーとは蜂の魔物で、スパイダーは蜘蛛の魔物だ。どっちも機動力が高くて戦いにくい上に楽しくない。

 そして倒したら倒したで臭いのキツイ体液を周囲に撒くせいで倒しても地獄だ。俺が戦うことを避ける数少ない魔物たち。と言うか虫系の魔物は基本的にそんな感じだから虫系の魔物とは極力戦いたくない。


「それじゃあ、先へ進みましょうか」

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