安心して、今だけだから2
今日も私は、貴方を見る。
私を見てさえくれない貴方を。
私は、思い上がっていたんです。
ずっと長い間、一緒にいたせいで淑女の中では貴方と1番親しいと、勘違いしてしまったんです。
クラスが離れてからたくさんのことに気付かされました。
貴方は、本当に誰の前でも変わらない人でした。
私の前だけだと思っていた行動も…
私だけの前ではありませんでしたっ。
涙が、出てしまいました。
周りの方が心配してくれますが、相談できるとこの方達は本当に思っているんでしょうか?
私のことを勉強ができる鉄の女だと思っている方々に。
だから、私は相談しない。
体調が悪いからとクラスから出て、寮に向かう。
あぁ、そういえば少し前までは、貴方が私のことをたくさん心配してくれていましたね。
体調が悪い時も。
悲しい時も。
怒っている時も。
いつも、とっても嬉しかった。
なのに、なのに、なのに、なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのに…
私だけじゃっ、私だけじゃなかった。
誰に対してもしていた。
なんで私はいつも誰の1番にもなることができないんだろう…
本当に好きなのに。
本当にこれからも一緒に居たいのに。
貴方の隣に立っているのは私じゃない他の誰か。
必死に勉強して貴方と話す話題を頑張って作って、やっと、やっと手に入れることができた貴方と1番話すことができる切符を手に入れたのに…
どうして?
なんでなの?
なんで?
何も努力していない人が、貴方の隣にいるんですか?
なぜ、その人が良くて私はダメなんですか?
あぁ、あれだけ頑張って、頑張って、頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って学年2位という座を手に入れたのにどうしてっ?
貴方は、ほかの人と私が一緒に帰るように勧めてくるのですか?
貴方がどうして学年1位の令嬢と留学生の令嬢とその他大勢で遊びに行ったのですか?
私には……
私には1度も誘ってくれたことすらなかったというのに……
なぜ?
留学生の令嬢と遊びに行くのは、まだ分かります。
ですが!
なぜ、学年1位の令嬢と遊びに行っているんですか?
彼女と貴方はそこまで親しくはなかったはずです。
それなのになぜ?
……私では行けなかったのですか??
寮の自室に入ると制服を着替えることも無く机に向かう。
この苦しさを忘れる前に日記に書きつける。
字が荒くなってしまいますが、仕方ありませんよね?
だって……
だってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだってだって……
このやり場の無い気持ちを!!
どこへ向ければいいのか分からないのだから……
憎い憎い彼女たちが憎い羨ましい妬ましいどうして私じゃダメだったの?そもそも貴方が私に期待なんてさせるからこんなに苦しくなってるのに……
なんで貴方は楽しそうに毎日を過ごしているの!
なんでよ、私でも良かったじゃない……
それなのになんでっ
日記が、濡れてしまっていた。
どうして部屋の中ですのに、濡れてしまったのでしょう?
また、シミが増えてしまいましたわ。
不思議ですわ。
ふふっふふっアハハハハハハハグスッ、
ウゥッウッグスッ
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目を覚ますと見慣れた天井が目に入った。時間は、いつの間にか朝になり、私はベッドで寝ていた。いつの間にか寝落ちしてしまったようだ。
おそらく侍女の誰かが、私をベッドにまで運んでくれたのだろう。
少しすると、侍女達が部屋に入ってきた。
「お嬢様、お目覚めでしたか。体の調子はどうですか?」
「お嬢様、昨日はとてもお疲れだったのでしょう。大丈夫ですか?」
「体調は、いかがですか?目が赤く腫れていましたが、昨日はなにかあったのですか?」
侍女達は、口々に私を心配する言葉をかけてくれた。
傷ついた心が、その優しさのおかげで少し痛まなくなった。
「大丈夫です。心配しないでください。少し昨日は、疲れてしまっただけですので。」
私の言葉に安心しながらも、まだ、疑いの目を向けてくる彼女たちに苦笑いをしてしまう。
それでも、流石、優秀な侍女達。
喋りながらもテキパキと仕事をしている。
朝ご飯や支度を済ませ私は自室の扉に手をかけながら、ふりかえる。
「行ってきます。」
「「「いってらしゃいませ」」」
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教室に入ると珍しく朝から彼がいた。
伯爵家の次男であり私の想い人でもあるユシウス様が。
おおかた、留学生のジュリアナ様に会いに来たのだろう。
一瞬、私に会いに来たのではと愚かなことを考えてしまったが、ありえないことだと知っている。
それでもと、期待してわざと彼いる通路の隣の道を通って席に向かう。
「リリス!」
驚いて鞄を落としてしまうところだった。
久しぶりに彼が私に話しかけて私の名前を呼んでくれた。
たったそれだけのことなのに、それがとても嬉しいと思ってしまう。
「どうかしましたか?」
「生物学のことなんだが、あの問題解けたか?」
「ああ、あれですか。あれは、」
聞かれたことに答えながら思う。
やっぱりか、と。
期待させておいて一気に落としに来るとは性格が悪すぎる。
「だから答えはないと、私は書きましたわ。」
これ以上、無駄な期待をしたくないと自分の心を無視し話を切り上げ自分の席へ戻るため足の向きを変えた。
「それでは。私はこれで。」
「っておい!まだ、話は終わってない!」
「?質問にはお答えしましたが。」
「そういう事じゃなくて……」
「なんですの?私は、早く本が読みたいのですが」
早くあなたから離れなければ期待してさまうのですよ。
愚かな私は。
ですから、早くこの場から去りたいというのに。何をそんなに悩んでいるのか。
「その、だな。えーっと、俺のことがお前は嫌いか?」
「!何故そのような質問を?」
「最近、俺に対して前より冷たい気がしてな。」
「……いえ、そんなことは」
「なら、どうして俺を避けるんだよ!」
急に大声を出されてびっくりしてしまう。周りにいた方々も、驚き何事かとこちらを見ているし。
本当に早くこの場から去りたい。
「避けてなんていません。勘違いをなさっているのでは、」
「っ嘘つけ、この前も俺をみたら逃げって行ったくせに、俺が気づかないとでも思ったのか?」
「!!」
気づかれていましたか。
「そんなに、俺のことが嫌いなのか」
悲しそうに目を伏せながら聞かれるが、もちろん答えは否である。
嫌いで逃げた訳では無い。見たくなかったのだ。
他の令嬢と話す貴方のことを……
ただ、そんなことを本人に言えるはずがないが。
「答えろよ……」
「……」
「俺だって、さすがにお前に嫌われるのは辛いんだよ」
「!それは、いったい……どういう意味ですか?」
「あっ、えっとその
俺は、お前のことが、だよ」
「えっ、今なんとおっしゃいましたか?」
珍しく、歯切れが悪くて聞き取れない。赤面しているしなにか自白でもしているんだろうか。
「俺は!」
言う決心が着いたのか語尾が強くなっている。
「お前のことが好きなんだ!」
「はっ?」
令嬢の言葉遣いすら忘れ素で驚いてしまった。
意味が分からない。
私のことが好き?
そんなわけないだろう。
だってこの人は……
「そんな冗談は面白くないんですが」
「冗談のわけないだろう!本気で好きなんだよ…」
恥ずかしがって言われても信じられるわけが無い。
「だって、この前、他の男性と私が一緒に帰るように勧めてきたではないですか。」
「それは、あの後……2人が一緒に帰る背中を見てたら気づいたんだよ。好きだって」
「あ、えっと、…」
こんな直球に好意を伝えられたことがなくて動揺してしまう。本当に信じていいのか分からない。
そんな、あたふたしている私を見ながらユシウス様は、跪いた。
「!!ユシウス様!」
驚いている私を構うことなくユシウス様は、私の手を取り口付けした。今まで社交辞令でも、私に一度もしたことがなかった彼の行動に驚きすぎて固まってしまった私は声も出なかった。
「リリス・タリル嬢、私、ユシウス・コーイスと、どうか婚約を結んでいただけないでしょうか?」
ああ、これは本当に求婚だ。嘘じゃない。本当にユシウス様は私を選んでくれたんだ。
「うん、はい!喜んで!!私もお慕いしておりました」
「!!リリス!!」
彼は、私の名前を呼ぶとすぐに立ち上がって私を力いっぱい抱きしめた。
初めて感じる彼の温もりに、これが本当に現実なのだと頭が理解していく。気づいた時には、頬に涙が流れていた。泣き虫な私を知っている彼も珍しく泣いていて、つい笑ってしまった。
ああ、なんて幸せなんだろう。
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目を覚ますと見慣れた天井が目に入った。
そして、隣を見て私は涙を流した。
その日、学園ではユシウス・コーイスがある令嬢と婚約したという噂が流れたと言う。
最後の見方は、2通り。