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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

書き出しシリーズ

ぬいぐるみ先生~≧Φ∞Φ≦ニャー!

ヲタク用語というよりカップリング用語などが頻繁に出てきますので、苦手な方はブラウザバックお願いいたします。


魔法学園ウィルキア。この学園は何処の国にも属さず、未来明るき若者達があらゆる学びを求め、切磋琢磨する場所。魔法・剣・商業・農業、各分野の専門家達が門戸を開き、また己も知識を求めんと日々研鑽を積んでいるとか、いないとか。


中でも目を見張るのは講師陣の豪華さだ。座学では魔法史の権威、アレックス・サンダー。亡国の王、ドラグル・マルクス。実技は、最強の魔法使いの一人、ワンス・コードウェル。麗しき剣聖、ディル・ハルリア。


彼、彼女等の講義はとてつもない人気を誇り、倍率が高く、好成績を収めた上で更に一握りしか、教えを請うことが出来ないのだ。


そう、故に姿を見ることすら難しい。…前置きはここまでにしよう。


学園の第一講義室。学園一の広さを持つこの講義室は、つまりそれだけ席数が多く、聴講者が多い…学園で一番人気の講師が使う講義室である。ここに、件の講師陣が自らの時間を削り、聴講生として参加しているのだ。


『と言うわけで、古代・日本人の主食はお米なんだにゃぁ。今日の講義はこれでおしまいです。あ、お米が気になる人は、吾輩が頑張っておにぎりを握ってきたから、おててあげてほしいにゃ!』


その教壇の上に立つのは、動くぬいぐるみ。…ではなく、自称学園のマスコット。古代史担当教授、『ニャン・パラリ・三世』先生。


身長30㎝、体重りんご3個分。一人称は吾輩。年齢・性別は秘密。中身はオレイン産の高級綿。ふざけた名前に、見かけは黄色をベースとした三毛猫のぬいぐるみ。死んだ魚のような眼に凛々しい眉毛はダンディの証。ボールが二つくっついた様なマズルと、ぽっこりお腹はチャームポイントだという。


ちなみに上記はすべて、ニャンパラリ先生の自己紹介の内容を反映している。


『あっ、一人一個ですにゃ!と言うかハルリア君とワンス君、昨日も沢山食べてましたよね?』


頭上に掲げている箱から、ぽんぽんと飛び出すおにぎりを各自受け取る中、ハルリア先生とワンス先生が他の生徒から余分に受け取っていた。…渡している生徒は先生達のファンだな。きゃあきゃあと、黄色い声を上げて喜んでいる。


『んもー、吾輩が徹夜で握ったの知ってるでしょう?まったくまったく困った人達ですにゃ!』


それを見たニャンパラリ先生は、腕組みをして、少し膨らみ気味の尻尾を、教卓にパシパシ叩き付け『怒ってますよ』とアピールしている。それを受けて、シュンと落ち込むのはハルリア先生で。


『ごめんなさい…、美味しくて…。』


『うぅ、レディにそんな顔をさせるのは、吾輩の紳士道に反しますにゃ…。』


あっという間に尻尾の膨らみがしぼんで、おろおろとハルリア先生を窺い見ている。ニャンパラリ先生は、自分を紳士と称するだけあり、女性にとても弱いのだ。


『ぅむむ、好きなだけ召し上がるといいにゃ。今日の晩御飯にお出しします。』


『嬉しい。ありがとう、ニャン先生。』


仕方ないですにゃあ。と肩をすくめるニャンパラリ先生に、ほわほわと花が飛びそうな微笑みを浮かべるハルリア先生。そしてその様子を窺っていた男子生徒が、微笑みに被弾して軒並み倒れた。


麗しき剣聖、ディル・ハルリア先生は、元修道女から剣の道に進んだ特異な講師だ。普段は妖精の様に美しく、嫋やかさとお淑やかさを兼ね備えた淑女。しかし戦場では蝶の様に舞いながら血の花畑を生み出す怪物である。


『俺も、お邪魔していいだろうか…。』


『もちろんですにゃ。沢山作りますね。』


ワンス・コードウェル先生は世界最強の魔法使いとして、名前が上がる実力者だ。普段は全く表情筋が仕事をせず、講義中でさえほぼ声を出さずに魔力文字で会話するような講師である。しかしなぜか彼の講師陣と、とりわけニャンパラリ先生にのみ、自ら話しかけ微笑むのだ。


ワンス先生に、はっはっはと笑いながら、お腹を撫でているニャンパラリ先生は動きが完全に中年である。見た目は不細…愛嬌のある顔のぬいぐるみ。声は女性にしては低く、男性にしては高い。しかし、確かな性別や年齢を知る者はいない。そう、それこそが、我々がニャンパラリ先生を観察する理由なのだ。


「部長、やっぱりワンコ先生とニャンコ先生でNLですよ!」


「まぁ!貴女の眼は節穴ですの?!どう見てもニャン先生とハル先生のNLよ!」


「いいや、ワン×ニャンのBLだね!」


「節穴は君の方だ。ニャン×ハルでGLですよ!」


講義室に取り付けた監視魔法生物『丸見え君』から受信した映像を、部室の巨大スクリーンで眺めつつ、紛糾し争いが始まる我が部員達。時には手も出る。


「しっ!見ろ、アレックス先生とドラグル先生が!」


ば、と一斉に振り向き食い入るようにスクリーンを見つめる様は草原犬や白蟻猫のようだ。まぁ、私もその一人なんだがな。


『おい猫、オレの分もあるんだろうな。』


『ドラグル君、吾輩の名前は『猫』じゃあないんだにゃ。やり直し。』


フンス、と腰に手を当ててドラグル先生を叱咤するニャンパラリ先生に、周りの生徒はハラハラと冷や汗を流して見つめている。なんせ、ドラグル先生は元王族ゆえに気位もプライドも高く、気に入らなければ手も足も出るのだ。さらに190㎝を超える長身に筋骨隆々な体躯は、先祖にドラゴンの血が混ざっているからだと聞く。その噂に違わぬ程の禍々しい魔力を常時(機嫌が悪い時は倍で)背負って見下ろしているものだから、恐ろしいにもほどがある。


だが、我々は別の意味でもドキドキと胸を高鳴らせて、行く末を見守っていた。我慢できない者はスクリーンにしがみ付いてギラギラと欲を押さえきれない瞳で、舐める様に二人の会話を聞いている。


『…チッ。三世、オレの飯も用意しろ。』


『よくできましたにゃ~。』


ぱちぱちと綿の詰まった手で拍手をしながら、お待ちしてますね。というニャンパラリ先生に、常時不機嫌顔がデフォルトのドラグル先生がふ、と口角を上げて笑った。


「あ゛ッ、」


「え、衛生へーいッ!しっかりしろ、傷は浅いぞ!!」


「竜×猫…、尊…い…、う゛ッ」


ガクッと良い笑顔で沈んだ同志は、しっかりと右手の親指を立てて涙を流していて。わかる、わかるぞ!孤高の一匹狼が唯一に懐き心を開くのも、えげつない体格差も震えるほどに萌えるッ!固定カプ厨のお前の犠牲は無駄にはしないぞ!!


(みな)が揃い集うならば、儂も相伴に与りたいのじゃが…。』


『もちろん歓迎いたしますにゃぁ。』


ナイスミドルな老紳士アレックス先生は、魔法史の権威で在りながらとても腰が低く穏やかで、生徒にも優しいこの学園で一番人気のある先生だ。ニャンパラリ先生は自他共にマスコットキャラクターなので、選外である。


「はぁあ、この穏やかな熟年夫婦感、堪りませんね。」


「雷×猫で歳の差純愛たまりませんわぁ…ッ!若妻料理上手な猫先生の供給助かりますッ!」


年齢も性別も好きに想像し、好みの姿に擬人化可能。むしろぬいぐるみのままでも大変美味しい。最強講師陣に愛される学園のマスコット(自称)なんて、薄くて高くてキラキラした本が厚くなるのも致し方ない。お陰様で実力重視のこの学園で底辺争いを殺伐と続けていた我々は、萌えを逃さぬために退学になってなるものかと死に物狂いで勉学に励み、今は中の上をキープできている。やはり、人生には潤いが一番大切なのだ。そんな我々の心のオアシスを生み出してくれるニャンパラリ先生は、同時に争いも生み出すが…、まぁ、総愛されや光の腐女子とメリバガチ勢と固定カプ過激派の血で血を洗う戦いの為割愛しよう。


「部長、講義も終わってしまいましたし、新刊の納品も無事完了いたしました。ただ、先生方にガチ恋しているファンクラブから激しい妨害行為がありまして…。」


「またか…、まったく。我々の聖書を勝手に持ち出して火炙りにするなど、とても同じ人間のする行為とは思えんな。まるで蛮族だ。」


「しかしながら、こちらの対策も平行線。いたちごっこでしかありません。」


やはり先生方に助けを求めるべきでは。と提案する後輩に待ったをかける。そんなことができるとは、彼女も思っていなかろうに。


「そうはいうがな…。こちらも先生方への後ろ暗さでいえば救援も求められんよ。実在人物の二次創作(ナマモノ)の取り扱いは何よりも厳重に。だ。」


「『恋をしている』というあちらの盾は強固ですからね…。」


まったく、愛を嵩にかかれば何でも許されるなどと思っているのだろうか。被害届を出そうにも、現物がまるで見せられるものではない。現物無しに詳細を伏せていては、先生方を悪戯に困らせるだけだろう。どちらにしろ、我々だけでどうにか対応するしかないのだ。


「…でしたらせめて、ニャンパラリ先生への注意喚起だけでも。」


「…そうだな。それは私が代表して、何とか伝えてこよう。」


私の言葉に、いつの間にか静まり返り話を聞いていた部員達が重々しく頷きあった。そう、被害は我々だけにとどまらない。四人の先生達がニャンパラリ先生に好意を持っていることは、我々の汚れた目で見ずとも明らかで。先生達に好意を寄せている生徒達からすれば、邪魔な存在でしかないのだから。





「…あっ、」


部活棟から職員棟への連絡通路の途中、前方から件の首謀者と思しき女生徒が歩いて来ている。漏れ出てしまった声に慌てて口を押えたが時すでに遅し…彼女も私に気が付いてしまった。


「あら…部長様。ごきげんよう。」


「ごきげんよう、シャーレ様。」


完璧な所作でカーテシーをするシャーレ様に微笑み返す。猫の様なツリ目を細めて何が楽しいのか…抑えきれないと言わんばかりにくすくす笑っている。


「教員室へご用事ですか?」


「ええ、所用で少し。」


「ふふふ、でしたらお急ぎになった方がよろしいかと…。」


ちらり、と教員室の扉を見ては意地悪く笑うシャーレ様に嫌な予感がする。


「『聖書』だったかしら?バカバカしい。ありもしない妄想を作り上げて…後ろ暗い事だとわかっているからコソコソと穴倉に籠っているんでしょう。」


「…何を仰りたいのか、私には。」


お互い正式な部活動を隠れ蓑にそれぞれの欲を満たしていることはわかっている。シャーレ様達の『ボランティア部』に隠れたファンクラブも、我々の『古代文学研究会』に隠れた同士クラブも有り様は同じだ。と、思っているのは我々だけだろう。


我々の活動がどういったものなのか、それが一般的にどういった位置づけなのか、わかっている。仲間内の心地いい世界にだけ浸かっていればまるで許されて…受け入れられているかのように勘違いしそうになる。だからこそ彼女達の言葉は真摯に受け入れてマナーを徹底しているのだが…。憎々し気に吐き捨てるシャーレ様…それはいつもの事なのに、なぜこうも冷や汗が止まらないのか。


「貴女の『崇高な作品』が評価されないことが大変心苦しくて…。」


わざとらしく悲し気に顰められた眉の下にまるで真逆の、『ざまあみろ』と言わんばかりに爛々と輝く瞳にぞくりと背筋が冷える。


「…ッ、まさか!」


「折角だから、『先生方』にも見て頂こうと思って…今頃読書会でもなさっているのではないかしら。」


取り乱す私へ機嫌良く笑って告げられた言葉に鈍器で殴られたような衝撃がはしり、気が付けば私の脚は教員室へ駆けだしていた。どうしよう、どうしよう!恥ずかしい事をしていると思ったことはない。あの頃の、何もかも手に入る不自由だったころより…今は毎日がとても充実して煌めいている。この活動で知り合い得られた友人も人脈も変えがたいものだ。それとは別に、()()()()()()()人達がいる、という事も理解しているつもりだった。それでも棲み分けられれば、なんて…甘かったんだ。まさか、我々を潰す為に実在人物の二次創作(ナマモノ)最大の禁忌である対象人物(御本尊)の眼に同人誌(聖書)を触れさせるなんてッ!


「ッ失礼しま…す……?」


体当たりの勢いで教員室の扉を開くと、ぶわっと風が髪を巻き上げて呼吸が止まる。風に揺らめくカーテンのレースが光に透けて視線が奪われる。一瞬で静まった突風に勢いをそがれて呆然と教員室を見渡すとテラスへの扉が開いていて…その前にあるソファに見覚えのない生徒が座って何か読んでいた。…いや、生徒じゃ…ない?不思議な雰囲気のその人は黒檀の髪に黄みを帯びる肌という見たこともない色彩をしている。


「だッだめ!!」


まじまじとその人を見るうちに、その手にあるものが私の本だと気が付いて慌てて奪い取ってしまった。


「あっ、う…ご、ごめんなさいッ!でもこれはダメなの…ッ!」


「おや、それは申し訳ない事を。」


無礼極まりない私の行動に怒るでもなく、緩く笑って足を組み紅茶に口付ける彼…彼女?に見覚えが無い。転入生?講師…は、入学の際に学園講師陣の名簿は全て暗記済みで、目の前の人物と照らし合わせても合致する人がいない。やはり転入生かしら…。でも…、なぜかとても同年代には思えないというか…。じっと見つめてしまった私と目が合って、ふ、と黒曜石のような瞳が優しく細められただけで胸が詰まって泣きそうになる。


「あの…ッ、なか、読みましたよね?おねがいしますどうか先生方には内密にして欲しいのですッ!」


「ん?そうですね…。内緒にしておきましょうか。せっかく今まで頑張ってきたもんね。」


「ヘッ?」


勢いよく下げた頭に降って来た言葉に間抜けな声が出てしまった。恐る恐る視線を合わせると笑ったまま手招きされて…初めて会ったはずなのに、昔から知っているような感覚に包まれる。近づくと伸ばされた手に髪を整えられてそのまま優しく撫でられた。


「創作に関するマナーやルールは守れていたし、このジャンルは繊細な分難しいし…ま、折角楽しく学園に通っているんだから。多少は目こぼししましょう。」


「え、え?」


「来月、ワンス君が『施錠魔法』の講義をするから、それに出ると良いですよ。少し難しいけれど、『施錠・二式』は共有者だけが解錠できる施錠魔法だから…、覚えておけば内緒のお手紙とかに使えますから。」


ね?と首を傾げるその人の髪が、さらりと風に揺れて。…その魔法を覚えて我々の聖書に使えば、同士しか中を見ることが叶わない。落としてもとられても安心、という事でしょうか。それは確かに素晴らしい…魔法で…私の頭はどこか霧がかかったようにぼんやりとして、もっと大事なことを言わなくちゃいけない気がするのに、高くも低くもない不思議な優しい声に思考が溶けて行く。


「わかりました…。」


「片方だけの味方は出来ないんだ。ごめんね。それから、吾輩の心配はしなくても大丈夫。これでも学園長ですからね。」


「がくえんちょう…?」


「うん、それじゃあまた。講義でお会いしましょうね。」


傾く頭に優しく微笑んで、ぽん、と背中を押し出され気が付けば我が部室の扉の前に立っていた。振り返っても誰もいない。…誰も?あれ、私は今まで何を…、


「部長!おかえりなさい。」


「…あ、ええ。ただいま…?」


部室から出てきた部員の声に少しずつ思考の霧が晴れるのに、今まで何をしていたのかどこにいたのか思い出せない。


「ニャンパラリ先生にはお会いできましたか?」


「…いいえ、でも…大丈夫。」


大丈夫。何故かそれだけは確信めいて口をつく。それにまた頭を捻りつつ、部室へ足を踏み入れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あっ、こらドラグル君!ハルちゃんのお魚食べるの止めなさい!」


「あー?知るか。」


「ちゃんと自分の分があるでしょう?」


「足りねぇ。」


「まさかまだ成長期なんですか?!」


おもわず絶叫してしまったけど、許してください。だってこれ以上成長されても困りますよ私。今でさえ見上げていて首が痛いのにさらに大きくなんて…!


「ニーナ、私は大丈夫ですから…」


「ダメです!ハルちゃんはお肉など食べられない物があるのだから、毎食バランスをしっかり調えないと倒れちゃうんですよ?ただでさえ少食なのにさらに減らしてどうするんですか。」


おろおろと此方を気遣うハルちゃんには申し訳ありませんが、そうは行きません。あなた花の妖精と木の精霊が混ざっているのですから、食事を人に合わせないとあっという間に精霊界(向こう)に引っ張られますよ?


「そ、れは嫌です…。」


「ですよね。黄泉戸喫、人間界に縛られるためにも少しずつでよいので食べましょうね?」


「はい、頑張ります。」


うーん、何度みても傾国の美女。ハルちゃんが儚く笑うだけで周りに花畑が見えますね。ほんわかと胸が温かくなって微笑みあっているとくん、と後ろにひかれてたたらを踏む。


「わっ!?…何するんですかドラグル君。危ないでしょう。」


「オレ以外の男と笑いあってンじゃねぇ。」


むっすり不機嫌を顔に張り付けて、人のお腹に回した腕にぎゅうぎゅうと力を込めてくるドラグル君の言葉に一瞬固まってしまいました。…いやいや、ハルちゃんは中身が女の子だと何度言えばわかるんですか。あと、私の中身が出そうなんですが?


「あのねぇドラグル君、」


「ちげぇだろ。」


「え、」


「名前で呼べって言ってんだろが。」


グルル、と唸り声を上げて睨んでくるドラグル君の光彩が金色に鈍く光って瞳孔が縦になっている。…なんでこの子、こんなに嫉妬深くなっちゃったんでしょうか。番ってそういうものなのですか?


「…はぁあ。わかりました。でもマルクはハルちゃんにちゃんと謝ってください。」


「なんで俺が「マルク?」


「…悪かった。」


「うん。大丈夫だよ。」


ブスくれてそっぽを向いているのに、謝罪と認めてくれたハルちゃんの心の広さに感謝してくださいねほんと。最年少だからって皆が甘やかすから我儘になっちゃったんですかね…?


「遅くなってしまった。すまんのぉ。」


「お疲れ様ですアレックス君。資料は見つかりましたか?」


先に頂いておりますと頭を下げるハルちゃんと、お疲れ様、と労うワンス君は本当によいこに育ってくれた。…やっぱり育て方じゃなくて本人の性格の問題ですね。ちら、と背後のマルクに目をやるとアレックス君そっちのけで骨ごと肉を咀嚼している。もはや見慣れた光景に誰も気にも止めませんものね。


「うむ、禁書庫の角に隠れておったわ。」


「そうでしたか。第四は二百年前に掃除して以来放り込むばかりで整理してませんからね…。司書でも作りますか。」


「ほほ、それは良いのぉ。」


アレックス君は人にしてはとても長生きな方だけれど、最近重いものが持てなくなってきた。って言っていましたし、他の教員でも助手が欲しい人へ自動人形(オートマタ)人造人間(ホムンクルス)でもつけましょうかね。


「俺も、手伝う…。」


「ありがとうございますワンス君。でしたら土人形(ゴーレム)もありですね。」


フェンリルとハイエルフの間の子である貴方なら、自立型魔道ゴーレムでもいけますね…。召喚時だけ魔力がけた違いにかかりますがコストでいえばゴーレムはダントツですし、動力は魔力ですから問題はないし。よろしくお願いします、というと、普段はひっこめている頭上の耳が嬉しそうにピンと立ってふかふかの尻尾が揺れている。うーん、ハルちゃんとワンス君は本当に癒し系ですね。


この世界に転移させられてもう五百年超えた辺りから数えていないけれど、それも遠い昔で。まさか拾った子や気まぐれにとった弟子達とこんなに穏やかに過ごせるようになるとは思いませんでした。


「おい、お前も食え。」


「…わかりました。では放して下さ「断る。」


…食い気味に拒否されるのも慣れてきましたよ。一番予想外だったのは君ですからねマルク。拾った卵が王族の子とか、先祖返りの黒龍だから死んでも記憶引き継いで卵から再スタートとかどうなっているんですか。フェニックスと同じ造りなんですか?なんて、マルクの膝に乗せられたままどうでもいい事を考える。…降りられるけど、降りたら拗ねるんですよね。諦めて食事を始めた私の背後で嬉しそうな雰囲気がばしばし当たってきます。遠い目をする私に、正面のハルちゃんがにっこり笑ってあらかわいいです。


「生徒達の新刊、読みましたか?」


「読みましたよ。やはりどんな世界だろうと、ヲタク文化が絶えることはないですねぇ。」


「ふふ、ニーナと恋愛している本の中の私、とっても可愛い女の子なので嬉しいです。」


「俺のはニーナが猫獣人の男になってた。」


「擬人化作品でしょうね。」


皆さん長生きしているから自分が題材にされている本が結構あるんですよね。伝説や伝承であったり、怪奇であったりとジャンルは様々ですが…。生き物としてもかけ合わせがSSRどころではないですから仕方がないですね。事実は小説よりも奇なりとは上手い事いうものです。


「いやはや、師匠と夫婦など恐れ多きことですな。」


「まぁ、想像は自由ですから。」


「んなわけあるか。お前はオレの番だろうが…。」


「怒らない怒らない。」


グルグル唸るマルクだって、私と自分がメインの本を自室の書棚に全部持っているの知ってるんですからね。それに比べたら読んで感想言って保管せず終わらせてる皆さんは気を使ってくれてますよ。君に。


「そういえば生徒達(ファンの子)からお菓子を貰いました!あとで食べませんか?」


「『解析』…うん、可笑しな物は入って無い。」


「前回の、血液入りはどうしたのじゃったか…。」


ポチ君(清掃スライム)のお腹の中です。」


花が綻ぶ。を地で行くハルちゃんの笑顔に癒されつつも、しっかりワンス君が解析をかけてくれる辺りに前回の反省が生かされていますね。マルクが骨付き肉の骨ごと咀嚼して破片があちらこちらに飛んでるんですが、せっせと回収して分解してくれているポチ君は本当に優秀です。


「ハルちゃんとワンス君はモテモテですねぇ。」


「『ニャン先生』も大人気ですよ?」


「ありがたい事ですね。」


食後のお茶お戴きつつほんわかとした空気が流れて、しみじみ思う。マスコットキャラって偉大ですよね。学園のパンフレットを作るときとか特に。


「…この姿のまま講師すりゃいいじゃねぇか。」


「マルクが私にくっつき虫で仕事しなくなるからダメですって、五十年前に言ったでしょう。」


「時効だろ。」


ぶすくれているマルクは可愛らしいですけれど、絆されませんよ?第一、やめてしまったら色んな解釈が狭まってしまって、読めたかもしれないまだ見ぬ新刊が読めなくなっちゃうじゃないですか。


「一回転生し直すまではダメです。それに、あの格好気に入っているので。」








オヒサシブリデース…

書きかけ放置な短編が30を超えてしまったので何とか書き切りたく奮闘しております。もっと超密着24時くらい書き込みたかったけれど、設定練ったら満足しちゃってダメでした。総愛されカプ語りしたかっただけなんや…


以下蛇足

名前のある先生陣はみんな転生者なので生まれと育ちが壮絶だしチートだよ。だって平成中期の転生者だもの。ニャンパラリ=ニーナのみ転移者です。


年齢はニーナ(1000代)・ワンス/ハル(300代)・アレックス(100代)・マルクス(80代)の順で、マルクスは三回ほど寿命(200年)がきて生まれ直してるので今一番若いだけ。


ありがとうございました~。

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