朝の会議
あゆみは、すぐに化粧をして着替えると、昨夜持って来てあったパンとコーヒーで軽く朝食を済ませて、リビングへと降りて行った。
そこには、もう佳純とカイ、明生、和人、景清が来ていて、ホワイトボードを見て何か話していた。
暖炉の上の金時計は、まだ7時過ぎを指している。
あゆみは、言った。
「もう話し合い?」
すると、カイが言った。
「名簿だよ。ここに番号と名前を書いておいたんだ。夜に投票する時、間違えてもいけないでしょ?」
佳純は、頷いた。
「カイ君凄いのよ。昨日の自己紹介で、みんなの番号と名前を全部覚えているの。」
カイは、苦笑した。
「まあ、記憶力だけは自信があるからね。」
明生が言う。
「カイは国立大の医学部なんだってさ。頭良いわけだよ。」
あゆみは、仰天してカイを見た。
「え、カイ君医学部なの?!」
若いからって侮ってた。
あゆみは、思った。
何しろカイは、この中で唯一の十代なのだ。
カイは答えた。
「そんな風に言われるのが嫌だから言わなかったの。それにね、まだ一回生だよ?医学の医の字もやってない。そもそも、一年ほど前までは海外に居たからね。日本語怪しいから君たちより僕のが不利だと思うよ。」
海外に…?
あゆみは、前のめりになった。
「え、国はどこ?私、国際文化部なのに1ヶ月オーストラリアに滞在しただけなの。だから次はもっと長く行きたくて…このバイトに参加したのよ。」
カイは、答えた。
「Boston。あー、えっと、アメリカだよ。小さい頃に父親の故郷に連れてかれて、二年後両親は離婚して僕はアメリカに残ってそこからずっとあっちだったから…今回は、気が向いたから日本に戻って来たの。英語ばっかで生きてて一年前にこっちの大学受けようと思ってやっと日本語勉強したから、日本語がおかしいんだよね。」
いやいや、おかしくない。
皆が思った。
カイの日本語は、ちょっと幼い口調かもしれないが、かなり流暢でネイティブの発音なのだ。
「え、気付かなかったけど。」明生が言う。「マジか、一年前だって?凄いなカイ。」
カイは、嬉しそうに笑った。
「ほんと?良かった、みんなにおかしいって言われるかなって心配してたんだー。そういえば、大学でも別に誰にも突っ込まれたりしないなあ。」
景清が、言った。
「じゃあ英語ペラペラなんだな。日本語はどうやって勉強したんだ?」
カイは、答えた。
「アニメだよー。僕の好きな魔法使いカリンちゃんを何度も見て覚えたのー。カリンちゃんのボーイフレンドのケントの日本語めちゃ聞いたんだ!」
魔法使いカリンちゃんって。
だからどことなく幼い言葉になるんだろうか。
確か対象年齢がかなり低かったはずだからだ。
佳純が、苦笑して言った。
「ま、まあ、カイ君は優秀だって分かったから仲間だと心強いよね。」と、ホワイトボードを見た。「それより、役職どうしようか。占い師だけ出してグレー詰め?」
和人が言った。
「でも、それだとグレー広くないか?せめて霊媒師まで出してグレー詰めが良いんじゃないかな。もしかしたら人外が仲間を囲うかもだしね。」
佳純は、頷く。
「20人も居るもんね。そこに人狼5、狂人1、狐2の8人外よ。縄は9本でしょ?…占い師が何人で、どの辺りに白を打つかで決めても良いかなと思ってる。厳しいゲームになりそう…縄の余裕が一本よ。」
カイが、言った。
「これはリアル時間でやる人外ゲームだから、役職者は全員佳純さんに個別に隠れて話しておくべきだよ。そしたら相方と共有して、役職を人外に知られずに呪殺か猫又噛みかって、判断できるからね。狩人にも、どこを守るべきなのか一緒に考えられるだろ?僕ならそうするかな。」
あゆみは、すごく良い考えだと思った。
佳純もそうなようで、手を打った。
「そうね!そうしましょう、それが一番よ!カイ君、白ね。今ので思ったわ。とっても良い考え!」
共有者目線ではフルオープンになる。
あゆみは、勝てるかも、と心が沸き立っていた。
そこから、勝ったら賞金はどう使うなど、他愛もない事を話して、皆が集まるのを待っていたのだった。
結局、8時ちょうどに和美に引きずられるようにして重久がやって来て、やっと皆が集まった。
それを見た明生が、顔をしかめる。
「重久、仕事だぞ。しっかりしろよ。」
重久は、寝癖のままでため息をついた。
「すまん。夜中まで飲み過ぎて。今夜は飲まないようにする。」
いくらでも冷蔵庫にあるもんなあ。
あゆみは、思って聞いていた。
お酒好きなら、見過ごせないほどいろんな種類のアルコール飲料が所狭しと入っていたのだ。
和美は、言った。
「社会実験なのよ?きっとそういう姿もどこかから観察してるんだと思うわ。しっかりして。」
重久は皆に見られて椅子の中で小さくなった。
「だからすまないって。オレ素村だから、何もやることないし良いかと思ってさ。」
「ストップ!」佳純が、慌てて言った。「やめてよ、まだ役職出してないのに。とにかく、素村の人もこれ以上言わないで。役職が透けるでしょう?後で、私が順番に皆の部屋を訪ねて役職を聞くわ。その時に、公表できない村役職の人は私に言って欲しい。最初は、とりあえず昨日、お告げ先を知ってる占い師の人たちだけ出て欲しいの。自分は占い師だって人、手を上げて。3、2、1、はい!」
急に言われたのに、4本の腕が上がった。
カイ、景清、一輝、和美の4人だった。
「え、4人も?!」
昌平が言う。
カイが言った。
「おかしくないよね。だってこの村には狐と狼がいるし、狼からは狂人がわからないしさあ。狂人とバッティングしている可能性だってあるわけだし。」
佳純は、頷いた。
「じゃあ、カイ君から占い結果教えて?」
カイは、答えた。
「僕は明生さんが白。」
佳純は、頷きながらホワイトボードにそれを書いた。
「次、景清さん。」
「オレは、佳純さん白。」
共有者だ。
露出している共有者に白を打つ人外もいないだろうし、景清は白かとあゆみはなんとなく思った。
佳純は眉を寄せたが、続けた。
「一輝さん。」
一輝は答えた。
「オレは和人白。」
佳純はせっせとそれを書き記しながら続けた。
「和美さん。」
「私は昌平さん白。」
それを全部書いてから、見上げて佳純は言った。
「お告げ先だから、占い理由なんかないわね。で、どうしようか。グレーを詰めるなら霊媒師は出してしまった方が良いかな。狼が5人も居るんだし、霊媒師に出たとしても、なんか当たりそうだよね。」
明生が言う。
「オレもそう思う。仮にこの中に狼が居て一人囲ってたとしても、残り3人だろ?霊媒師にも出たとしても、霊媒は仮に4人になったらローラーが鉄板だから、どのみち狼に当たりそうだ。」
佳純は、言った。
「じゃあ、霊媒師。手を上げて。」
来た…!
あゆみは、サッと手を上げた。
すると、遅ればせながらもう二人が手を上げて、3人になった。
佳純は、満足げに頷いた。
「霊媒COは、あゆみちゃん、元気さん、安治さんね。」
…やった!これで確定だ!
佳純は、それもホワイトボードに書いてから、皆を振り返った。
「…じゃあ、これで役職は出揃ったよね。後は狩人と猫又と、それから私の相方だけ。今のグレーは、杏奈ちゃん、愛里ちゃん、伊緒ちゃん、永嗣さん、重久さん、尚斗さん、恵令奈さん、公一さん、拓郎さんの9人だわ。この中に役職が居たら詰まるんだけど…」と、手を打った。「ここ、キッチンも完全防音よね?」
カイが、頷く。
「だよね。ルールブックに書いてたからね。」
佳純は、立ち上がった。
「じゃあ、明生さんから順にキッチンに来て。私と話しましょう。残った人達は適当に議論してて。役職を全部私が把握しておくわ。」
明生は、慌てて立ち上がった。
「マジか。分かった、じゃあオレからだな。」
明生は、ずんずん歩いて行く佳純について、小走りにキッチンへと向かった。
あゆみは、佳純ちゃんは凄くバイタリティあるなあ、と感心してそれを見ていたのだった。




