その後
拓郎は、酒を口にしながら苦笑した。
「だろうな。あの時、誰かが言い出さないとヤバいと思ったんだ。杏奈さんが狐なら良いが、そうでないなら初日に吊られた恵令奈さんか、昌平が狐だ。狼目線、護衛成功が出た日は永嗣さんが狂人か真か、確かめるために佳純さん噛みだった。噛めたら噛めたで、永嗣さんが狐だろうと狂人だろうと吊られ、伊緒さんの真目も上がるだろうって。結果、噛めなかったから真。つまり恵令奈さんが狐か狂人だと分かっていた。どちらにしろ縄を消費したいのもあるし、和美さん狐を知っている狼からしたら昌平残しはかなり危なかった。仲間の狼は誰も言わないし、仕方なくオレが言ったんだ。それで、昌平が吊れた。遺言を聞いて、ああやっぱりか、って思ったね。狼目線じゃ、昌平狐が一番しっくり来る結果だったからな。」
昌平は、頷く。
「もう、こうなったら、村人の人数が多いんだし、利用した和人のためにも村に勝って欲しかった。だから、ああ言い残したんだ。オレ達は、もう全滅だからな。」
たった二人なのだから、きつかっただろう。
あゆみは、同情した。
和人は、ため息をついた。
「オレが思考ロックしてたのが悪かったんだしな。別に昌平を恨んでない。」
フフと、恵令奈が笑う。
「何言ってんのよ、カッコつけて。上で騙されたって散々わめいてたくせに。」
和人は、顔を赤くした。
「なんだよ、確かに負けてたらもっと怒ってたかもだけどさあ。」
あゆみは、それを見てフフフと笑った。
終わってみたら、全部謎は解けて行くが、その時は本当に必死だった。
明生が、言った。
「もう、生きるか死ぬかなんて勘弁だ。負けたらホントに死ぬと思ってたし、こんなゲームは懲り懲りだよ。終わってホッとした。」
それには、和美が答えた。
「確かにね。でも、冷静に考えたら分かることだったかもよ?恵令奈さんが言ってたように、犯罪だもの。あの薬は、仮死状態にする薬らしくて、本来は今にも死にそうな人に使うものなんですって。認可前らしいけど、細胞の時が止まるから、その間に治療の準備を進められて、助かる可能性が高くなるらしいの。それがあったら、交通事故なんかの時にも即死しなくて済むかもなんだって。なんか、未来は明るいよね。」
カイが、真面目な顔で頷いた。
「君達にはわからないかもだけど、ホントに凄い薬なんだよ?僕は知らなかったけど、認可前ならそれも分かるな。マジで死んでるように見えたもの。和美さんが言うように、未来は明るいよ。この通り、全く後遺症もないしさあ。早く認可して欲しいね。」
そうして、皆は目の前の料理を食べながら酒盛りをして、無事にバイト期間が終わったことと、新しい年を祝った。
あゆみは、振り返ると楽しかったかもしれない、と、残り僅かな時間を皆と楽しんだのだった。
それから、フェリーで本州へと無事に帰還し、この風変わりなアルバイトは幕を閉じた。
皆とはそれからも、連絡先を交換し、頻繁に電話などで連絡を取り合っている。
特にカイは、良さそうな留学先を教えてくれた。
そこは日本人が全く居ない場所らしく、英語を完璧にしたいならうってつけらしい。
あゆみは不安だったが、カイの父親の知り合いの農場でホームステイさせてもらえることになったので、料金も安く済む。
そんなわけで、そこへ2ヶ月間、向かうことになった。
単位の方は問題なかったので、あゆみは三学期をまるまる留学に使うことになったが、楽しみにしていた。
和美の息子は、無事に弟と同じ高校に行ったようだ。
弟はもう卒業なので共に野球をすることはないが、いろいろ相談は受けていた。
あゆみでは学校の事までわからないので、母の雅美を紹介した。
今はなので、あゆみの母親雅美と和美は仲良くしているらしい。
あゆみはそれで、良かったと思っていた。
とはいえ、あの時のゲームの記憶は遠くなって来ていた。
あんなに怖かったのに、それすらもなぜ怖かったのか、全く浮かんで来ない。
だが、今はあのバイトで増えた友達と、楽しく交流することができてそれが楽しい。
あゆみは、なのでそんなことは何も気にしておらず、今は留学生活への期待と不安でワクワクとしていたのだった。
彰は、所長としての仕事をこなし、執務室に籠っていた。
そこへ、契約所員となった博正が入って来た。
「ジョン。ステファンと真司から連絡があったぞ。治験は終わったらしい。」
彰は、頷いた。
「そうか。まあ、あっちは無事にデータを取り終えたということだな?クリスは問題なかったと言っていたか?」
博正は、頷く。
「何も問題なかったらしい。明生役をやってた真司も、毎回追放者が問題ないか見に来てたらしい。次の段階の治験に進むか?」
彰は、頷いた。
「そうだな。そのつもりだ。とはいえ、シキアオイを精製するのに必要な細菌のことだ。要は、まだ思い出していなさそうなのか?」
博正は、首を傾げた。
「どうだろうな。そういえば、最近見て来てねぇ。あいつは今14だから、まだ中学一年だろ。覚えてなかったら、話しかけるのもなあ。何しろオレ、記憶のせいで年齢より老けて見られるからさ。17なのに、絶対若くて20代とか言われて。こんなのが話しかけて来てワケ分からんこと言ってたら、通報されちまうかも。」
彰は、顔をしかめた。
「困ったな。だが、要の妻であった穂波が何も思い出していない。今9歳で、学校に行っていないが世間では小学二年生ぐらいだろう。子供らしい動きしかしないのだ。新とは違って、あれらは思い出さないのかもしれないな。」
何しろ穂波は、完全にファザコンでお父さんお父さんと、未だに彰にベッタリな娘だ。
顔が前回とは違い、彰にそっくりで前も美しかったが、さらに磨きがかかった様子だった。
何しろ穂波は、前回は紫貴の子ではあったが、彰の子ではなかった。
そうなると、思い出すのかどうかも疑問だった。
「…仮に要が思い出したとして、穂波が思い出さなかったらつらいだろうしな。思い出さない方がいいのかも知れねぇが…その、細菌が困るんだろ?」
彰は、ため息をついた。
「まあ、今回は私もそちらを専攻したので、ある程度は。とはいえこれは運もあるから、要から詳しい経緯を聞いて探すのとはワケが違うからな。私は免疫の方の研究を気を入れて進めたいし、シキアオイにばかり時を割いていられないのだよ。すまないが、少々怪訝に思われても、要の様子を見て来てくれないか。あれにシキアオイを任せたいのだ。クリスもハリーも、前回の自分の薬をもう一度作り上げるので精一杯なのだ。」
博正は、ため息をついた。
「仕方がねぇ。行ってくらあ。高校の制服着てたらあっちも高校生か、ぐらいで警戒もしないだろう。」と、足を扉へ向けた。「また連絡する。ちなみにオレ、学校もあるし、一月は7日までしか行き来できねぇからな?あとは土日。夜中に呼び出すとかやめてくれよ?」
彰は、ぶっきらぼうに手を振った。
「分かっているというのに。高校ぐらい、さっさと卒業して来い。」
博正は、頬を膨らませた。
「あのな。日本はとにかくきちんと通わないと卒業できねぇの!オレだって面倒だっての。」
彰は、ため息をついた。
「通信制の高校にすれば良かったのだ。こっちは忙しいのに、手がたりないではないか。」
博正は、それを聞いてハッとした顔をした。
「お、確かに。通信制か。」と、部屋を出ながら言った。「転校するかな。それは考えてなかったわ。じゃあな。」
博正は、出て行く。
彰は、とにかく早く帰りたいので、今ある目の前の書類に目を落として、仕事に集中したのだった。
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人狼 愛里、伊緒、尚斗、公一、拓郎
狂人 恵令奈
占い師 カイ 一輝
霊媒師 元気 安治
共有者 あゆみ 佳純
狩人 永嗣
猫又 景清
妖狐 昌平 和美
村人 明生 和人 杏奈 重久
ありがとうございました。次は明日から黄泉路を夢の彼方へ https://ncode.syosetu.com/n8704im/が始まります。頑張って繋いで行きたいと思っていますので、またお時間がありましたら読んで頂けたら嬉しいです。




