振り返り
カイが、言った。
「だからさー狼のやり方はぬるかったんだよ。伊緒さんが狩人に出てるんだから、さっさと切って僕守り指定の時に噛んでしまえば、結果はもっと少なかった。グレーが狭まらなかったんだ。伊緒さんが吊られて永嗣さんを噛んで、そしたらどこでも噛み放題だろ?グレーだらけだし、村は相当困ったと思うけどね。狼の間違いは、伊緒さんを残そうとしたことだと思うけどな。」
それには、拓郎と公一、尚斗、愛里が顔を見合わせる。
伊緒が、言った。
「どうしてよ?狂人なら分かるけど、そんなに早く狼を切り捨てるなんておかしいわ!結果的に猫又噛みなんかしちゃったからこうなったけど、それが無ければ勝てたわよ!」
それを聞いて、皆は悟った。
伊緒が、それをさせなかったのだろう。
明生が、割り込んだ。
「まあまあ、それはまた後で。まだ説明の途中だろ?」
言われて、皆黙る。
モニターの声が言った。
『…良いですか?では続けます。』と、説明を続行した。『報酬は、この後ステファンが持って来ますので、各々自分の番号の封筒を受け取ってください。その際中身を確認して、受け取りのサインをお願いします。』
そう言うが早いか、ワゴンを押してステファンが入って来た。
そのワゴンの上には、多くの茶封筒が乗っており、どうやらそこに現金が入っているようだった。
『本日、午後3時になりましたら迎えの船が参りますので、桟橋まで来てくださいますようお願いいたします。そこからフェリーへと運び、出港しまして本州の港に到着は午後6時を予定しております。そこからバスに乗り換え、駅までお送り致しまして解散となります。重ねて、この度は社会実験の場にご参加頂きまして、ありがとうございました。ささやかながら、キッチンにてお正月料理をご準備致しておりますので、ご賞味ください。それではこれにて失礼致します。』
モニターは、ブッツリ切れた。
いつもは何やら突き放されたような心地になって、恨みたい気持ちになったものだが、今回は何やら清々しい気持ちだった。
やっと、終わったのだ。
あゆみが感慨に浸っていると、佳純が言った。
「あゆみちゃん?ほら、受け取って来ないと。あゆみちゃんの封筒、結構分厚かったよ?結構長く留学できるんじゃない?」
あゆみは、ハッとしてそちらを見た。
全員が、封筒を手に中身を確認して、札束を数えている。
そして、ステファンが差し出す名簿のような物に、サインしていた。
あゆみも急いで封筒を受け取ると、中身を見た。
言われた通り多くの札がひしめいていて、パッと見てもかなりの額だ。
こんな大金を、一度に手にしたのは初めてかもしれない。
あゆみは丁寧にそれを数えると、間違いないと名簿にサインをして、大切にポケットにしまった。
カイが、言った。
「まだ7時だよ。船が来るのは3時でしょ?キッチン行ってご飯食べながら振り返りしない?狼の話は上で聞いてたけど、最後までやりきった人は話を聞きたいだろうしさ。」
和美が、頷いた。
「そうね。でも、ちょっとお金を荷物に入れて来ていい?持ってたら失くしそうで怖いのよ。みんなもそうじゃない?」
言われて、全員立ち上がった。
「だな。片付けて来よう。荷物をまとめてから、話をしようや。」
安治は、機嫌がいい。
きっと、娘さんの学費が稼げたと喜んでるんだろうな。
あゆみは、微笑ましくそう思って見ていた。
ステファンがまたワゴンを押してリビングを出て行く中、一同も階段へと廊下へ出て行ったのだった。
ステファンは階段を使うことなく、ワゴンを押して階段の向こう側にある扉の中へと消えて行った。
どうやら、あちらにも何かあるようだ。
佳純が、言った。
「あそこにエレベーターがあるの。」え、とあゆみが佳純を見ると、佳純は続けた。「私達は使えないけど、上にはいっぱい運営の人が居てね。いつもあれを使って食べ物を補充したりしてたわ。四階には、裏の別棟に行ける廊下があってね、そこから続くこの裏の建物に、あの扉は繋がってるようなの。裏の建物には、エレベーターがあるわけよ。ここは四階までは徒歩なんだけどね。」
結構複雑な構造なんだ。
あゆみは、思って聞いていた。
そしてそのまま、部屋へと戻って荷物の底に大切に封筒をしまうと、帰るための服に着替えて荷物を詰め直して、あゆみはまたキッチンへと降りて行ったのだった。
キッチンでは、もう何人かは降りて来て先に椅子に座っていた。
テーブルの上には、見たことがないほど豪勢なお節料理と、お刺身などの料理が並んでいて、あゆみが来たのを見た和美が立ち上がって言った。
「あ、あゆみちゃん。お雑煮もあるよ。お餅何個欲しい?」
あゆみは、慌てて言った。
「一個。というか自分でやるから。和美さんは座ってて。」
どうやら、和美は隣りの重久と、酒を飲みながら話していたようなのだ。
和美は、苦笑した。
「そう?なら、そこのお鍋にあるわ。白味噌だった。関西の運営者なのかもね。」
あゆみは、頷いて鍋を見た。
確かに、白味噌仕立てのお雑煮だ。
隣りに置いてある、パックになった丸餅を袋から出して鍋に入れ、火に掛けていると、背後から話している声が聴こえた。
「…まあ、もういいさ。和美が狐だったのはやっぱりショックだったが、お前はオレに警告してたもんな。信じるなって。」
和美は、困ったように言った。
「ごめんね。うん、私、怪しまれちゃいけないって村人だと思い込もうとしていたし、実際真占い師だと思い込んで発言してたわ。でも、よく考えたら狐って占われたら消えるって。相互占い、あの時はホントにいい考えだと思ったのよ。狐であることも忘れて、あんなことを言って。後悔してる。だから、消えるかもと思うとそれは怖かったわ。カイ君が真っぽい偽であることを心底願ってた。」
だが、カイは真だった。
カイは、食べながら答えた。
「思い込みって怖いよねぇ。僕から見ても、真かなって思ってたからね。白が出た時、だからやっぱり仲間かって思った。でも、狼はなんであの日一輝さんを噛んだの?僕じゃなく。」
それには、公一が答えた。
「あの日、もし永嗣さんが真だったら絶対占い師の中でもカイを守ると思ったんだよね、狼目線。実際そうだったし。」公一は、刺身を食べながら続ける。「だから、噛めそうな所って考えたら、一番ワケ分かってなさそうな一輝かなって。和美さんも真っぽいし、護衛はそこにも入るかもだし景清さんは変な自信を感じて、村役職かなと思った。共有だったら良いがもし猫又だったらまずいし、そんなわけで無難な一輝にしたわけだ。噛めなくても狼目線で狐位置が透けるし、狐が居るぞって、村にいいアピールになるかなとも思ったしね。噛めたら呪殺を確定させないこともできるし。そしたら噛めたのは良かったが、和美さんが呪殺された。しかも景清さんが役職で、カイ真が確定した。狼目線じゃ一輝で一人真占い師が落ちたのがわかったから、和人は狐じゃない。カイさえ始末したら、なんとかなりそうだったのに、その夜伊緒さんに指定が来たから…伊緒さんが噛むのをめっちゃ嫌がってさ。で、あんな感じになった。」
そこで、狼が伊緒を捨ててカイを噛んでいたら。
それを考えると、あゆみはゾッとした。
色がわからない人ばかり、それは迷って混迷しただろう。
重久に白が出ていたから良かったが、それが無ければ和美真ロックの重久は、狐を疑われて吊られた位置だ。
縄が足りなくなるところだった。
何しろ昌平は、とても白い位置だった。
「狼に感謝だな。」明生が、言った。「その日にカイを噛まれていたら、マジでグレーで悩んだと思うんだ。昌平は吊れなかったかもしれない。重久さんの和美さん真ロックがヤバかったし、後で思考変換してたけど、それがまた怪しく見えてた可能性があった。カイの白が重久さんに落ちてたから、あの程度ですんでたわけだ。」
伊緒が、ますます不機嫌な顔になった。
尚斗が、言った。
「まあ、狼目線はもういいじゃないか。狐は?昌平はどう思ってたんだ?」
昌平は答えた。
「初っぱなから和美さんを持って行かれて絶望的だったよ。でも、占い指定先に口を出すのは怪しまれる要素になるし、何も言わずにカイに和美さん指定が入るのを見てた。カイが猫又か共有だったらって願ったよ。だが、やっぱり真だわな。そういうわけで、最初から狐陣営は絶望的だったが、狼が一輝さんを噛んでくれたお陰で、真占い師が一人になった。おまけに村は、一輝が呪殺で和人狐を追ってくれた。初日和美さんが頑張ってくれたお陰で、真だと思われてその白先のオレが残る可能性ができたんだ。頑張ろうかと思ったが…狼目線じゃ、一輝を噛んでるんだから和美さん狐が確定してるし、オレは危ない位置だったんだろう。だが、狼はそれを言えばなぜ知っていると疑われるから、言えないだろう。こうなったら、村の意見を決定的にさせて、狼がオレを吊ろうと言えない状況に持って行こうと考えた。和人は幸い、霊媒には狼が出てるって思考ロックしてたから、そこを煽ったんだ。お前は間違ってない、オレはお前に入れないって。それでも吊られたら、必ず村に自分の意見を落としてから逝けってね。」
景清は、渋い顔をした。
「…だから、あの発言か。」
昌平は、頷いた。
「そう。確定事項のように、和人は言い残してくれた。お陰で一輝と和人が狐だという流れになったが…次の日だ。狼は、やっぱり放って置いてはくれなかった。狼目線じゃ、恐らく狐が居るならオレか杏奈さんだったんじゃないかな。重久さんには、カイから白が出てたから。だから、最初にホントにオレが白なのかって言い出した、拓郎さんは狼だろうなって、オレ目線じゃ見えてたんだよね。」
あの時、確かにそれを言い出したのは拓郎だったような気がする。
あゆみは、拓郎を振り返った。




