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十日目の朝

バイトは、今日までだ。

一月三日、お正月気分も何もないままに、年を越えて今に至る。

あゆみは、もう習慣になっていたので朝は5時に目が覚めてしまった。

扉の鍵は、昨夜閉じる事はなく、夜中でも自由に出入りすることはできていた。

一度キッチンへと夜中に降りた時、安治が一人ビールを飲んで座っていた。

どうやら、初日に少し飲んでから、アルコールは絶っていたらしく、もう終わったからと一人で酒盛りしていたらしかった。

しばらくあゆみもそこで話に付き合ってから、眠ったのはもう夜中の1時を過ぎていたと思う。

あゆみは、顔を洗って着替えを済ませると、一階へと降りて行った。


リビングの扉を開くと、驚いたことにこの早朝に多くの人が居て、あゆみを振り返った。

「あゆみさん!早いね、まだ寝てると思ったのに。」

その聞き慣れた声は、カイだった。

あゆみは、まさかと佳純の顔を探した。

すると、佳純がいつも座っていたソファに、佳純は微笑んで座っていた。

目が合ったあゆみは、嬉しさで目に涙を浮かべながら、駆け寄った。

「佳純ちゃん!」

私を守ってくれた。

あゆみは、微笑んで迎えてくれる佳純に抱き着いた。

佳純は、驚いた顔をしたが、その背をポンポンと撫でてくれた。

「…頑張ったわね。見てたわ、四階で。」

溢れる涙をそのままに、あゆみは佳純を見た。

「え、四階で?」

佳純は、苦笑した。

「そう。気が付いたら四階のベッドの上でね。ステファンさんとか、他の世話係の人たちが居て、お疲れ様でした、って。なんだろうと思っていたら、恵令奈さんが来ていろいろ教えてくれたの。」

恵令奈は、苦笑しながら頷いた。

「私が一番乗りだったからね。誰かが追放されて来る度に説明するのは私の仕事だったの。初日に吊られたから、報酬も少ないし、看護師だって言ったら、いろいろ手伝うことで報酬を出すと言ってくれたのよ。だから、助かったわ。和美さんは私の助手をしてくれたから、同じように追放されてからもお仕事してたのよ。」

和美は、頷く。

「そうなの。ほんと、助かったわ。私は勝てなかったしね…昌平さんと、狐だったんだもの。」

やっぱり昌平と和美が狐。

あゆみは、涙を拭って言った。

「そうだ、内訳だわ。結局誰が狂人だったの?」

「私。」恵令奈が言った。「勝てなかったから、お金ヤバいところだったわ。霊媒に出損なったから、慌てて狩人に出たのが運のつきよね。ほんと、慣れない事はするもんじゃないわ。」

ということは、やはり永嗣が真狩人だったのだ。

あゆみがそう思って永嗣を見ると、永嗣は笑った。

「だから言っただろうが、オレは真狩人だったの。尚斗がオレの護衛先をカイから外そうとしたことからオレ真透けてるって思って欲しかったよな。そしたら最終日、あんなに迷うことなかったのに。見ててハラハラした。」

カイが、頷く。

「そもそも初日に恵令奈さんの真を切ってるんだから、伊緒さん狼が確定した時点で永嗣さんは真置きするべきだったんだよ。初日は村の総意だったんだしね。まあ、命が懸かってると思ってたんだし、難しいことだったかも知れないけどね。」

あゆみは、カイに言われて本当にその通りだと思った。

初日に村の総意で恵令奈真切り進行にしていたのに、永嗣を吊るのはおかしかったのだ。

だが、そんな様子だったが、とりあえず勝った。

佳純が、言った。

「あゆみちゃんを責めないでよ。とっても頑張っていたと思うわ。私達が居なくなった後も…共有者なのに、最終日まで行っちゃって。辛かったと思う。」

あゆみは、また涙が浮かんで来るのを感じた。

「佳純ちゃん…ありがとう。私を護ってくれようとして。景清さんが共有だって疑われないために、景清さん守りを勧めたって。私を噛ませないためだったんでしょう?」

佳純は、困ったように笑った。

「それだけじゃないのよ。景清さんを噛んで欲しかったからなの。道連れにしてもらわないと、せっかくの騙りが無駄になるから。実際、助かったでしょう?」

確かに、伊緒を連れて行ってくれたのは助かった。

きっと、霊媒精査よりもっと迷っただろうからだ。

伊緒が、むっつりと言った。

「…私が入力したのが間違いだったわ。グレーなら、もう吊り切り確定だったんだから、拓郎さんか公一さんに任せたら良かった。まさか、景清さんが猫又なんて思わなかったし、それに入力した人が道連れになるのも知らなかったから。」

拓郎は、少し意地の悪い顔で笑った。

「だから言ったのに。噛むなら明生の方が良いって。君が聞かなかったんだろ。景清さんが君を疑ってるから潰しておくとか言ってさ。性格なんだろうけど、君が言う通りにしないと不機嫌になるし、仕方なかったんだろ?こっちは。」

伊緒が、拗ねたように黙る。

狼同士も大変だったらしい。

そこへ、明生、尚斗、安治も入って来た。

「お!尚斗!」

拓郎が言う。

「あ!拓郎さん、公一!」尚斗は、駆け寄って来て言った。「ごめん、オレ勝てなかった。やっぱりもっと序盤で吊ってもらえたら良かったんだ。」

拓郎は、首を振った。

「お前はよくやったよ。ほんとは頭が良いのに、わからないふりは大変だっただろう。」

尚斗は、顔をしかめた。

「でも…あゆみさんと明生を誘導できなかったからな。安治さんの真の雰囲気に負けた気がする。」

安治は、ハッハと笑った。

「あきらめてただけなんだがなあ。ホントに尚斗は頑張ったなあって、本心を言ってただけだ。」

狼だったなら、尚斗は確かに頑張った。

それにはあゆみも、頷いた。

「そうよ。あれだけ疑われたのに、よく最後まで生き残ってあれだけ私達を迷わせたって感心したわ。頑張ったと思う。」

尚斗は、赤い顔をした。

「マジで?うん…まあ、必死だったよ。」と、誤魔化すように皆を見た。「それで?みんな生き返ったんだな。でも、帰してもらえないとか?」

それには、恵令奈が笑って答えた。

「ないない。そもそも、帰さないなんて犯罪じゃないの。私達を真剣にさせるためにやってただけなのよ。私達、四階で何不自由なくあなた達のゲームを画面で見てたわ。テレビゲームもあるのよ?男性達は、暇潰しにゲーム三昧だったんだから。追放されたらお金はないけど、遊び放題だったわよ。」

マジかよ。

あゆみは、それには顔をしかめた。

こちらは生きるか死ぬかのゲームをしていたのだ。

重久が、バツが悪そうに言った。

「まあまあ、終わったことだ。その分報酬はないわけだし。それに、部屋だってそう数があるわけじゃないから、相部屋だったぞ?四階は。一部屋にベッドが四台入ってるんだ。客室ばかりでなく、キッチンみたいな所やリビングもあるんだ。だから、部屋を広々使えてたわけじゃない。五階には入れないし、基本四階だけに閉じ込められてた。まあ、夜中だけ特別に庭を散歩できたけどさ。」

恵令奈が、呆れたように言った。

「向こう側にある温水プールも使って良かったわよね?私達は、ゲームしてた人達より、楽に過ごしていたのは確かよ。」

温水プールまであるんだ。

あゆみは、だったら早く吊られた方が良かったかも、と顔をしかめた。

あんなに必死に頑張った自分が、馬鹿みたいに思えて来る。

すると、モニターがパッとついて、声がした。

『皆様お集まりでしょうか。では、この後のご説明を致します。お席についてください。』

皆が、ハッとモニターを見上げた。

相変わらず何も映っていない真っ青な様子だったが、皆慌てて自分のソファへと座る。

声は、それを待ってから言った。

『まずは、この度は社会実験にご参加くださいまして、ありがとうございました。今回取らせていただきますましたデータは、社会をより良くするために使わせて頂きます。ご協力、感謝致します。』皆が、じっと黙って聞いている。声は続けた。『続きまして、報酬額です。最初にご説明した通り、それぞれ生き残っておられた日数に応じて日に10万円、それから今回の勝利陣営の村人達には、1000万円の賞金が授与されます。村人は20人中12人で、割ると端数が面倒なので、更に2万円を足させて頂きまして、一人83万5千円支給されることになります。なので、最後まで生き残った方は、本日と併せて10日間生き残ったことになりますので100万円。更に賞金となります。』

今日の分も入るんだ。

あゆみは、そうなると183万5千円を獲得したことになる。

目を丸くしていると、和美が言った。

「やったわ!ということは、今日の分も併せて目標額達成だわ!」

愛里が、顔をしかめた。

「えー、そうか、和美さんは恵令奈さんとあれこれステファンさん達を手伝って働いてたものね。良いなあ、私も手伝うって言えば良かったー。」

愛里は、二日目の夜に吊られた上に、狼陣営だったので到着した日、一日目、二日目と今日の分の、40万円ということになるのだろう。

和人が言った。

「オレ、助かったー!勝ってくれたから、目標額越えたー!マジで感謝だよ!」

三日目に吊られたもんね。

景清が、言った。

「あのな、お前変な遺言残しやがって。こっちは混乱したんだからな。昌平が吊れたから良かったものの、お前狐で進行するとこだった。全く。」

和人は、途端にしょんぼりする。

「…あれはごめん。だってさ…昌平がさ…。」

昌平は、和人を庇って言った。

「和人を責めるな。オレがあんな風に思い込ませようと、刷り込んでたのが原因なんだ。みんなに和人が狐だと思われたら、オレが最後まで生き残って行けると思って。狼は噛み先を知ってるんだから、実際はそう上手くは行かないよな。」

拓郎が、頷いて言った。

「そう。オレ達が噛んだのは一輝だったから、呪殺されたのは和美さんだったと知ってた。だから、昌平は残せなかったわけだ。バレるから言えないし、だったらもう、昌平含めてグレーを吊り切らせるより他、オレ達の勝ちはなかったんだよ。」

公一も、頷く。

「そう。拓郎さんがそう言った時、オレもあきらめて後は尚斗に託すしかなかったんだ。」

だから、二人はグレー吊り切りを飲んでいたのだ。

一輝が噛めているのだから、その白先の和人は狐であるはずはない。

となると、狼目線、昌平か杏奈しか居なかったのだろう。

いろいろ見えて来て、あゆみは目が開かれる思いだった。

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