八日目の投票と
その夜、永嗣は満場一致で吊られて行った。
永嗣自身の票は、投票前に、理由を話してあゆみに入れていた。
永嗣は、こう説明した。
「オレは、ここでは尚斗か安治さんに入れるべきなんだろう。だが、わからないのに安易に投票して、その票で確白の村人の、判断が鈍っちゃいけないと思った。つまり、オレが偽に見えてるなら、入れた方が白く見えるんだろう。そんなバイヤスを掛けたくない。だから、吊られようもないあゆみさんに入れておく。後はしっかり残された村人が、自分で考えて入れてくれ。」
永嗣は、変に村を誘導したくないのだろう。
票が出揃ってみると、やはり全員が永嗣に入れていたので、モニターの女声は告げた。
『No.11は追放されます。』
皆が無表情で永嗣を見つめる。
「…思考ロックしないで考えてくれ。」永嗣は、最後に言った。「あゆみさんが残されたら、どうなるのか心配だよ。」
そうして、永嗣は目を閉じて、ソファに倒れて動かなくなった。
どういうこと…?永嗣さんは安治さんが真だと思ってるってことなの?
あゆみは思った。
『No.11は追放されました。夜時間に備えてください。』
残されたあゆみ、明生、尚斗、安治は、黙ってその言葉を聞いた。
つまり、永嗣は狂人かもしれないが、狼ではなかったのだ。
必ず、尚斗と安治の内一人が狼なのだとこれで確定した。
あゆみは、永嗣を運び出そうと立ち上がった3人に、覚悟を決めて顔を上げた。
「…私は、やっぱり安治さんが狼だと思う!公一さんを信じるわ!」
3人は、驚いたようにこちらを見る。
明生が、言った。
「まだ思考ロックしてるのか?永嗣さんが言ってただろう、思考ロックしてるのは心配だって。オレは迷ってたが、尚斗が偽だと思うぞ。だいたいこんなことになってるのも、カイがあの日襲撃されたからだ。あの日占ってるのは拓郎さんだったから黒結果だっただろうが、気が変わって他を占って白結果が出てたら、狼は詰みだった。縄は霊媒か狩人を吊りきれたからだ。景清がこうして一人連れてってくれたし、確定で勝てる盤面になったのに。それを潰した尚斗は罪深いぞ。安治さんは確かに尚斗を虐めたかもしれないが、それに比べたら微々たるものだ。尚斗の方が圧倒的に怪しい!オレは尚斗に入れるぞ!」
あゆみは、明生を精一杯睨んだ。
「狼の伊緒ちゃんがあれだけ初日から吊り推してたのに?!身内切りにしてもやり過ぎよ、今にも殺そうとしている意見を連日出してたのよ?!最後に話した時も、尚斗さん偽で話してたわ!私が思考ロックしたら黒く見えると言ったら、考えてみるとは言ってたけど永嗣さんと繋がってて怪しいって聞かなかった。絶対安治さんが狼よ!公一さんは白かったと思う!拓郎さんと狼同士であんなに意見を合わせてるなんておかしいわ!」
明生は、負けじと言い返した。
「だったら、杏奈さんは?!杏奈さんは拓郎と全く意見が違ったが、愛里さんとは同じ意見だったぞ?!吊り指定先になった時も愛里さんの黒目を上げるのではなくて他を吊る事ばかり言ってた!二人が狼だったら、君の意見じゃおかしいってことじゃないのか!」
尚斗はオロオロしている。
安治は、黙って見ていたが、戸惑っているようだった。
確白の二人が、意見を真っ二つにしているのだ。
しかし、ハッと我に返った顔をして、割り込んだ。
「…待て。」安治は、二人の顔を交互に見た。「君たちの意見はわかった。だが、永嗣だ。狂人だったのか真だったのかわからないが、犠牲になってくれたんだからとにかく上に連れて行ってやろう。」
狼なら、もっと情報が欲しかったはず。
あゆみは、安治を見て思った。
お互いにどこを怪しんでいるのか、徹底的に聞いておけば、どちらを残しても説得する材料になるはずだ。
だが、割り込んで止めた。
あゆみは、安治が真霊媒なのだろうか、と、また心の中の情報を増やしていた。
3人で永嗣を運ぶのは、大変そうだった。
なのであゆみも手伝ったのだが、かなりの重量だ。
これが大柄の昌平だったら、運び上げることは無理だっただろうと思われた。
やっとのことで、永嗣を三階まで運び上げた4人は、それぞれの部屋へと戻って行ったが、明生とあゆみはお約束のように、明生の部屋へと共に戻った。
幸い、ここの防音はしっかりしていて、仮に誰かが扉の向こうに居ても誰にも声は聴こえない。
念のため他の二人がついて来ていないか確認してから、明生は扉を閉じた。
「…やったな。とりあえず対立は演じられた。で、今夜だな。明日は3人だ。君かオレ。どっちか残されるが、こうなったら本当にどっちが噛まれるかで決めるか?お互い、責任を取りたくないだろう。」
あゆみは、顔をしかめた。
「…そうなのよね。私が残ったら尚斗さんを吊って…でも、あなたが残ったら安治さんを吊るの?もし、尚斗さんがあんな風だけど実は狡猾で、反対に私を噛んで自分が狼ならそんな分かりやすいことはしないって意見を出して来たら?実際、狼だってここが正念場だし、噛みが重要だって分かってるはずよ。私達の思惑を、逆手に取って来たら?」
明生は、顔をしかめて言った。
「だったらこうやって演じた意味はなんだ?自分達では決められないから狼に任せようってなったんじゃなかったか。確かに…オレも、そこは怖いけどな。何しろ最終日まで生き残った狼なんだ。あっちも必死だろう。頭も切れるはずだ。だからこそ、オレ達だって分からなくなってるんだし。」
あゆみは、ため息をついた。
「…そうね。私、自信がないの。残されて、一人で考えるなんて。ここまで失って来たみんなの命が重いのよ。絶対に戻って来るって…信じてるけど、勝てなきゃそれも水の泡だもの。とても怖いわ。」
明生は、一気に勢いを失って、元気を失くしたあゆみを、労るように言った。
「分かってる。多分お互いに同じ感情なんだ。オレだって怖い。ここまでみんなが頑張ってくれて、景清はオレ達に託して噛まれてくれた。それを無駄にしたらって、毎夜よく眠れないんだ。怖いのは、同じだよ。」
あゆみは、涙が浮かんで来るのを必死に抑えながら、顔を上げた。
「どちらが噛まれても、最後までしっかり考えよう。私も覚悟を決めて頑張る。佳純ちゃんに会いたい。」
明生は頷いた。
「そうだな。考えても答えは出ないんだが…少なくともオレは、君が残って間違っても責めたりしないよ。だから、君も落ち着いて考えるんだ。オレだって…君が噛まれたからって、必ず安治さんが偽だとは思えない。逆手に取って来るのは確かにあり得る事だし…君だってオレが噛まれたからって安易に尚斗だと言えないだろうことは分かる。だがな、オレは思うんだ。女性に偏見を持ってるわけじゃないが、男性より感情で決めることが多いだろう?だから、オレ達男から見ると、説得するのに君はとても厄介だと考える。論理的に説明しても、感情で考えて来られては、どうしたら良いのかわからないんだ。だから、君が残されたら、よく考えて欲しい。安治さんが、それをするわけはないって。なぜなら、君を説得するのが無理だと思っているだろうから。オレなら、途中いろいろ考えも変えたりしているし、説得は可能だろう。だから、どちらが狼でも、オレを残すメリットの方が大きいんじゃないかな。安治さんが狼ならそんなに説得しなくても大丈夫そうだし、尚斗が狼でも、オレなら話が通じそうだ。そもそも尚斗にとっても、急に何かのスイッチが入ったように、この噛みならやっぱり尚斗だとか言い出したら覆すのは難しそうに映ってるはずだ。だから、今夜は多分、オレが残されるんじゃないかって、なんとなく思ってるんだがな。」
あゆみは、男性からはそう見えるんだ、と思った。
確かに、男性から見たら、かなり感情的にものを考えているように見えるだろう。
あゆみもそこは、否定できなかった。
公一にしても、白く感じたから白いと思ったが、そう演じていた可能性はある。
自分達確白が、皆の前で対立を演じたように。
…襲撃されるなら、気が軽いかな。
あゆみは、思って頷いた。
それを見た明生は、表情を弛めて、言った。
「…大丈夫。みんな戻って来るさ。忘れてないか?今日は元旦、年が明けたんだよ。明日勝って、みんなで新しい年を祝おう。」
そうか、もう一月一日になってたんだ。
あゆみはそんなことも考えられていなかった、と驚いた。
そしてその夜は、それで別れた。
自分を襲撃して欲しい。
あゆみは、眠る直前まで、そう思っていた。




