話し合いと八日目の朝
「…護衛は?今夜はどこを守ると言ってたかしら。」
明生は、答えた。
「重久はもう守れないから、オレかあゆみさんだがオレにしようかって言ってくれてたな。だが、オレは明日以降のことがあるから、あゆみさん守りが良いかもしれないとは言ってはおいた。まあ、永嗣さん次第だがな。とはいえ、あれだけ強力に吊り推されて、もう吊られる寸前だったわけだから、安治さんが狼だったらあゆみさんを噛みたいだろう。重久は、確白の中で唯一の味方だった。オレは流される位置だった。重久を噛んだら、明日も安治さん吊りだと推されて止める人も居らず、吊られるかもしれないだろう。あゆみさん噛み一択だと思うけどな。尚斗が狼なら、迷いなく重久を噛んだら良いから楽だろうけど。」
あゆみは、ため息をついた。
「…明日次第ね。襲撃先がどこかで、また考察も進むわ。」
重久は、肩を竦めた。
「どうかな。オレなら、オレを噛む。あゆみさんを噛んだら、怪しんで下さいって言ってるようなものだろ。それか、間を取って明生かな。迷ってる位置なら、村から見ても怪しくは見えないだろうし。永嗣には、明生守りって言っておいた方が良いんじゃないか?」
明生は、苦笑した。
「だから守り先は永嗣さんに任せて来たんだよ。だから、オレかもしれないし、あゆみさんかもしれない。護衛成功が出そうな所を守って欲しいと言っておいたから。強制したわけじゃない。それも、永嗣さんが真だったらの話だ。狂人か狼だったら、噛みたい所を遠慮なく噛むだろうしな。何にしろ、オレ達はできることはやったよ。」
あゆみは頷いて、今夜の襲撃次第で、明日が決まると険しい顔を崩すことはなかった。
次の日の朝、毎日の儀式のように、解錠と共にあゆみは廊下へと飛び出した。
廊下は、シンと静まり返っている。
…まさか、明生さん…?!
あゆみは、明生の1号室へと足を向けると、少し遅れて、扉が開く音がして、明生が姿を現した。
「…明生さん!」あゆみは、急いで明生に駆け寄った。「良かった、生きていたのね!」
明生は、頷いた。
「あゆみさんもな。ってことは、狼は順当に重久を噛んだんだろうか。」
あゆみは、階段を見上げた。
「どうだろう。護衛成功ってこともあり得るよね?」
明生は、難しい顔をした。
「…どうだろうな。奇数進行だから、護衛が成功しても縄は増えないが、こうなったら永嗣さんは吊られなくなるから、縄が増えるのと同じ事になって狼にとっては護衛成功は死活問題のはずなんだが…。」
誰を噛んだんだろう。
あゆみは急いで階段を向いた。
「急ごう。見に行かなきゃ。」
明生は頷いて、二人は急いで階段を上がって行った。
すると、三階の廊下には永嗣、尚斗、安治が立って、14号室の前に居た。
14号室は、重久の部屋だ。
…駄目だったか。
あゆみは、口惜しく顔を歪めた。
狼は、慎重だ。
護衛成功が出て永嗣が真狩人だと確定するのを必ず避ける位置を噛んで来たのだ。
仮に永嗣が偽物だったとしても、ここを噛んでおけばおかしくは見えないだろう。
永嗣が、言った。
「重久さんが出て来ないんだ。これから見に行こうと思っていたところだ。」
明生は、頷いた。
「じゃあ、オレとあゆみさんで。」と、あゆみを振り返った。「行こう。」
あゆみは頷いて、昨日やった事は無駄だったのだと落胆しながら部屋へと入って行った。
「重久?入るぞ。」
明生は、万が一のためにと考えて、声を掛けてから足を進めた。
重久の部屋には初めて入ったが、あちこちにビニール袋が置いてあって、その中にはビールの缶が空になって入っていた。
…めっちゃ飲んでたんだ。
あゆみは、思った。
あんな風に気にしていないような様子だったが、和美が居なくなってからこのかた、重久にとってはつらい状況だったのだろう。
そんな中で進んで行くと、重久が転がっているベッドが見えた。
その回りには、かなりの数の空になったビール缶が転がっている。
昨夜も、かなりの量を飲んでいたようだった。
「おい。」明生は、ビール缶を足で蹴りさばきながら言った。「おい重久?」
あゆみは、恐る恐る聞いた。
「なに?どうしたの?」
明生は、答えた。
「…飲み過ぎで倒れてるかと思ったが…呼吸してない。」
やはり重久が襲撃されたのだ。
あゆみは、息をついた。
「…じゃあ、やっぱり永嗣さんが真なのかな?確実に噛める場所を噛んで来てるわけだもの。」
だが、明生は首を振った。
「わからないぞ。永嗣さんを真に見せるための噛みかもしれない。とにかく、永嗣さんは護衛成功が出せなかった…今夜は、やはり安定進行で永嗣さん吊りになるな。」
永嗣は、ため息をついた。
「…一昨日、オレが重久さん護衛を指定されてたのが狼に漏れてるんだからそうなるだろうな。だが、オレは真だ。こうなったら仕方ないから、明生とあゆみさんがそう言うなら最終日霊媒の二人の決め打ちを間違えずに頑張って欲しいけどね。」
明生は、頷いた。
「分かってる。」
しかし、尚斗は言った。
「無駄吊りなんだよ。仮に狂人だったとしても、オレからしたら今夜安治さんを吊ってくれたら終わるんだ。安治さん目線でもそうだろ。オレを吊ったら終わるんだろ?初日にあれだけ偽だと決め打って恵令奈さんを吊ったんだから、もう永嗣さん真で決め打つべきだ。今夜安治さんを吊ってくれ。それで終わるのに。」
安治は、反論した。
「怪しいぞ。つまり尚斗は永嗣を残したいわけだろ。そんな意見を聞いて、残せるわけないじゃないか。オレ目線じゃ確かにお前が狼だが、万が一オレが吊られた時のことを考えたら、絶対に残せない。そもそもカイ噛みの時にお前ら繋がってるように見えたのに、お前ら二人を残してなんか、村目線じゃ飲めないんだよ。」
その通りだった。
尚斗が怪しいことこの上ない。
永嗣が、言った。
「そんなに言うならもうオレでいいが、オレは真だっての。仮に安治さんが狼だったら、明日はあゆみさんが残ったら思考ロックしてるから安治さん吊りになるんだろうから、多分あゆみさんが噛まれるぞ。尚斗だったらあゆみさんを残すだろうな。オレが居なくなったら噛み放題だし。」
あゆみは、顔をしかめた。
そもそも安治なら、昨日重久ではなくあゆみを噛みたかったはずだ。
狼は、護衛成功を嫌って重久を噛んだと推測されるが、そうなると永嗣は真狩人だということになる。
だが、永嗣が思考ロックしているあゆみを守るだろうか。
現に、明生が話すまでは明生を守ると言っていたのだ。
狼目線、あゆみは噛めると思うのではないだろうか。
「…分からなくなって来たわ。」あゆみは、困った顔で明生を見て言った。「安治さんが狼なら、私を噛んでおけば良かったように思うのよ。狩人感情として、思考ロックしている村人は厄介だと思うから、他を守ろうとすると考えるじゃない?私を残しておきたいのは、尚斗さんの方でしょうし…永嗣さんが狂人だったら、永嗣さんを真狩人だと思わせたい噛みにも見える。公一さんの遺言から絶対に安治さんが怪しいと思っていたけど…こうなって来ると、わからないわ。安全なのは、永嗣さん吊りなのかも知れない。」
明生は、ため息をついた。
「オレもそう思う。盤面上、両方の霊媒師目線4人の狼が吊れているから、恵令奈さん白、伊緒さん黒の結果から、お互いが狼の可能性が高い。加えて仮に狩人狼狼だったとしても、永嗣さんを吊れば終わることになるしな。その場合、永嗣さん吊りを渋っている尚斗が狂人に見える。いろいろなケアをするためには、やっぱり今夜は永嗣さん吊りで最終日霊媒精査がしっくり来るな。」
あゆみは、頷いた。
もう、明生、あゆみ、永嗣、尚斗、安治しか残っていないのだ。
ここまで来たのだから、安全策を取って今夜は永嗣吊り一択だと、心に決めていた。




