遺言
キッチンへと降りて行くと、そこには公一がポツンと座って、冷凍のラーメンを作って食べていた。
あゆみが入って行くと、公一は顔を上げた。
「あゆみさん。」
あゆみは、公一に寄って行った。
「ラーメンにしたの?」
公一は、頷いた。
「そう。これが最期の食事になるかもしれないけど、他に食べたい物ってなくて、これならスルッと食べられるなって。他の人達は、部屋へ持って行くって言って、お弁当を温めて行ったよ。」
みんな、一緒に食事の気分じゃないのだ。
あゆみは、言った。
「私も、本当はあんまり食べる気にならないんだけど。昨日もおにぎりだけで済ませちゃったから、今日はまともなものを食べないとって思って降りて来たの。」と、冷蔵庫を開いて、顔をしかめた。「確かに、たくさんあるけど食べたい物って思い浮かばないなあ。」
それでも、食べておかないと。
そう思ったあゆみは、とりあえず手近にあった幕の内弁当を、電子レンジに放り込んで、スイッチを入れた。
公一は、食べ終わった器を持って流し台へと向かい、そこで丼を洗いながら言った。
「…さっきは、オレを残す発言をしてくれてありがとう。嬉しかったよ。でも、今の状況だとオレを残すのは村は怖いと思うよ。だから、オレも諦めたんだしさ。」
あゆみは、公一は白いと今も思っていた。
あの進行を言えるのは、村人だとしか思えない。
結局、明生もそれが一番良いと判断して、公一が言う進行通りに進めようとしているのだ。
あゆみは、言った。
「…今でも、私は公一さんが白いと思ってるわ。明生さんもそう言ってたでしょう?でも、尚斗さんが怪しいのは初日からだし、安治さんだって尚斗さん虐めがおかしい。だから、どうしても残すのが怖いのよね。永嗣さんが真だったら、きっと吊り切って勝てるし、必ず戻って来られるから。待ってて。きっと勝つわ。」
公一は、苦笑して頷いた。
「分かってる。オレ、でも尚斗の方が真じゃないかって思うんだよね。」あゆみが驚いていると、公一は続けた。「あいつ、初日から後に出たり、永嗣さんに護衛先を変えて言ってみたり、ほんと怪しい行動してるんだけど、それよりも安治さんがさ。あの人、一番年上だし落ち着いて見えるのに、尚斗に噛まれてくれるからとか脅すような事を言って虐めたの、おかしいと思うんだ。しかも、真だった元気がそれを見てて証言もしてる。尚斗の嘘じゃないわけだ。それで脅せると思うのは、尚斗が白の時だけだ。でも、あの時はまだ霊媒師の内訳が分かっていなかったわけだし…狐の呪殺も出てた。霊媒師に出てるのは、どう考えてもあの時点では狼か狐。恵令奈さんが白だったから、狂人だろうってみんな言ってたしね。その中で、噛みを怖がるのは狂人か真だけだ。安治さん目線は、あの言い分だと尚斗が偽に見えてたはずだから、狂人だって思ってたってことだろ?そんなはずないし、思考の筋が分からない。不自然過ぎるんだよね。そうなって来ると、安治さんは尚斗を真だと分かって虐めていた、狼じゃないかと思ったんだ。カイが噛みたいから、尚斗を煽ってワンチャン護衛を変えさせるような事をするんじゃないかって、賭けたんじゃないかって考えたら自然に思えて来てね。」
あゆみは、それは確かに皆が考えていたことだったので、頷いた。
「…うん。確かに、あの直後それがあるかもって思ったよね。でも、あの時は霊媒精査の日じゃなかったから…うやむやになってしまったわ。伊緒ちゃんからしたら、上手くしたら永嗣さんを吊れる可能性もあるし、真の尚斗さんを吊れるかもしれないって…」そこまで言ってから、ハッとした。「そうだ、伊緒ちゃん。初日から、尚斗さんをずっと怪しんでた。それって、もしかして尚斗さんが真だって見えてたから?」
公一は、見る見る目を丸く見開いた。
「そうだよ!そうだ、伊緒さんが狼なんだ!尚斗さんをあれだけ吊ろうとしてたんだから、きっと真だよ!オレは村人だし、安治さんが真だったらオレ目線じゃ永嗣さんが黒でないとおかしいんだよね。やっぱりそうだ、きっと尚斗は狼にずっと吊られそうになってた、真霊媒師なんだよ!」
あゆみは、執拗に尚斗を吊り押していた伊緒を覚えていた。
最後まで、尚斗が偽だと言い切っていたのだ。
景清の思考ロックの話になった時に、少し考え直すとか言ってはいたが、あのまま生き残っていたなら今日も吊り推していたんじゃないだろうか。
ということは、やっぱり尚斗が真霊媒師なのだろうか。
「…初日からの壮大なライン切りでない限り、尚斗さんは真霊媒師に見える!でも…村にそう説明しても、きっと安定進行を取りたいと言われると思うわ。一応、明生さんにも言ってみるけど…。」
公一は、困ったように笑って首を振った。
「いいよ。最後には安治さんを吊ってくれたらいいんだから。早かったら明日だ。永嗣さんが護衛成功を出してくれたら、霊媒ローラーになってそこでまず安治さんを吊ってくれたら勝てるんだから。それで行こう!」
永嗣の護衛成功…。
あゆみは、それを聞いて暗い顔をした。
「でも…私、昨日暗に重久さんを守ってる事実を、伊緒ちゃんに言っちゃってたから。景清さんを噛ませようと思って。多分、永嗣さんは護衛成功を出せないわ。連続護衛ができないから、狼は必ず噛み抜ける重久さんを襲撃するはず。縄を消費したいものね。それとも、狼にはどうしても噛みたい場所があるのかしら?…どう思う?」
公一は、言った。
「…どうしても、噛みたい位置に入らなきゃならないんだよ。君か、明生さんが。そうしたら、そこで護衛成功が出るかもしれないじゃないか。狼が嫌がる発言をしてみたら?安治さんがきっと、ラストウルフだからそこをガンガン吊り推して、面倒がられたらどうだろう。そして、永嗣さんに頼んで守ってもらっておくんだ。明生さんには、安治さんを擁護するような意見を出してもらって。一回、それでやってみたら?駄目元だよ、どちらにしろ重久さんは噛まれるかもしれないんだし。やってみて損はないと思うよ。」
あゆみは、少し迷ったが、温まったお弁当を手に、言った。
「…一度、相談してみるわ。ありがとう、公一さん。きっと、あなたは村人ね。勝つから、待っててね。」
公一は頷いて、あゆみがキッチンを出て行くのを見送っていた。
あゆみは、食事を終えたらとりあえず明生の所へ行って話してみよう、と思っていたのだった。
それから、あゆみは自分にできることをやろうと、精力的に動いた。
明生を訪ねて、そこに居た重久と明生に、公一との会話を話して聞かせた。
明生は、確かにその通りだと言っていたが、成功するとは思っていないようだった。
もし永嗣が真なら、明生とあゆみの危険な二択に賭けるより、必ず噛み抜ける重久噛みをしてくるのは目に見えていたからだ。
伊緒を失って後がない狼が、慎重になるのは目に見えていた。
あゆみは、言った。
「…投票前には、私が話す。」あゆみは、言った。「やってみないとわからないでしょう?なんとか重久さんを噛まずに私を噛もうと思わせるために、やれるだけやるわ。明生さんと重久さんは、私をなだめるような発言をしてくれないかな。私は、公一さんが白だと思う…その公一さんのためにも、できることはやるつもりよ。」
明生と重久は顔を見合わせたが、頷いた。
あゆみは、佳純にまた会うためにも、ここは自分が頑張れねば、今がその時なんだと自分を鼓舞していたのだった。




